ジーマリ村2 やっぱり魔術師になりたい私
魔法の設定って難しいですね。
あと100メートルでジーマリ村というところで、グレオが駆けつけてきた。後ろに引きずってるブラッドオークを見て顔面真っ青になった。
それでも、よく生きて帰ったと抱きしめられた。ちょっと臭う。
とりあえずブラッドオークはほっぽり出して村に戻ったら、村人めっちゃ感謝された。ジーマリの英雄なんてあだ名をいただいた。
いや、照れるね。
そのまま村長宅にご招待の上、ささやかな祝勝会が行われた。ひさしぶりに酒を浴びるように飲んだが、ほろ酔いぐらいで全然酔わなかった。
こんな酒強くなかったんだけどな。肝臓までチートか。
翌日、グレオから一枚のメモをもらった。
二日酔いで調子が悪いらしく、今日の狩りは中止のようだ。
「その地図の家に……ギジェットって変なじいさんが住んでる……変人だが物知りだ。とりあえずそこに行ってみな……うっぶ」
ご愁傷さま。
じゃあとりあえず行こうかと地図と説明を見たが、
「文字わかんねえよ!」
思わず地図を地面に投げつけた。すると、アスールが青く光った。おや?
改めて地図を拾い上げてみる。うん、文字わかる。
「ありがとう、チートの神様!」
両手を高くあげて、感謝してみた。
(ねえ、はやくいこうよ、あるじさま)
はい。
「え~と、サマンサさんの家を飛び越えて、断崖絶壁を乗り越えた先……あった。あれがギジェットさんの家か」
(そんなこうてい、ふんでないよね、あるじさま?)
「気分の問題だよ、ワトソン君」
(ぼくは、わとそんじゃないよ?)
「はっはっは。いや、アスールはかわいいなぁ……」
(よくわからないけど、ありがと!)
おっと、じゃれてる場合じゃない。
ギジェットさんの家は外見自体グレオの家とあまり変わらないが……
(なんか、へんなにおいがするね)
そう。なんかヤバげな香りがする。嗅覚的にも感覚的にも。
(かえる?)
「それもいいかもしれないな」
踵をかえそうとしたとき、
「おぉ~う!そこにおわすのは、ジーマリの英雄殿ではございませんか!?」
そこにいたのは、変なのだった。
(変なのがいる)
(うん、いるね。どうするの?)
(逃げるって選択肢は?)
(あり!)
帰る!新幹線より速く!!
「待ってくだされ!このギジェットにせめてお話だけでも聞かせてくだされ!!」
変なのが、ギジェットさんだった。
「突然走りだしたときはどうなるかと思いました。いや、実に足がお速い!ささっどうぞ中へ」
変なの改めギジェットさん家に招待され、とりあえず中に入ったものの……
(うわぁ……すごいね)
家の壁にはヤモリの干物やら、なにかの頭骨、果ては人の形をした人参。
机の上には試験管やビーカー、なにに使うかわからない道具。
そして本棚には分厚いハードカバーがズラッと。
「魔法使いの家だ……」
思わず口から出てしまった。
それを聞いたギジェットさんは振り向いた。
「魔法使いではありません。私は知の探究者、魔術師ですぞ!」
誇らしげに言い放った。ちょっとかっこいい。
ギジェットさんの格好は確かに魔術師っぽかった。
緑のローブに同じ素材のとんがり帽子。
手には木の杖。
そして、肩にはなぜかサル。
ただし、ローブや杖には大量の血液が付着し、同じく血まみれの鞄を手に持っていた。
帽子は先端が焼け焦げて穴が開いていて、そこから紫色の煙が絶え間なく出続ける。
サルは出会ったときからずっと、クルミをギジェットさんの頭に叩きつけている。
そりゃ逃げたくもなる。
「あの、なんで血まみれなんですか?」
耐え切れずに聞いてしまった。
あ、ギジェットさん目がキラキラし始めた。
「よくぞ聞いてくださいました!いやぁ~、昨晩からずっとブラッドオークの解剖を行っていたのですよ。この地方にブラッドオークが出ることはめったにありませんので、思わずはりきってしまいました。しかしあの皮膚の堅牢さと筋肉の発達具合には正直驚きましたな!ぜひ一度トロールあたりと比較をしみたいものです。それにつけても、あの……!」
(あるじさま、このはなし、きくひつようあるの?)
(冒頭だけで十分だ)
(じゃ、とめてよ?)
(ごめんアスール、俺には無理だ)
(そっか……しかたないね、ゆっくりまとうか)
(ああ)
「……いや、本当に有意義でした!もし機会があるならもう一度やりたいものです。ほかに、なにかありますかな?」
どうやら話は終わったようだ。
ほかには、サルのこととか、サルのこととか、サルのことも聞きたいが、ヤブヘビな気がするから諦めよう。
さて、本題、本題っと。
「ギジェットさんは魔術師なんですよね?」
「いかにも」
「では、俺に魔術を教えてもらうことはできますか?」
「教えることは可能ですが、正直に言って魔術は才能の分野です。種も芽もなければ全く育ちませんぞ?」
「承知の上です。魔術を使えるの100人に1人。そうですよね」
ギジェットは難しい顔をして考えたあと、
「マコト殿がそれでよろしければ、このギジェットめにお任せくだされ」
まずは座学から教わった。
まずは魔術の中核をなすのは『マナ』だ。
マナはこの世界ではどこにでもある自然エネルギー。
魔術とは、その自然エネルギーたるマナを体内に取り込み、魔法として放出する術である。
次に重要なのは『魔力』だ。
魔力とは、マナを体内に取り込むときに必要な力だ。
魔力に関しては人間の中で魔力を持つのは100人に1人程度。魔物でも高位の種族では魔力を持つものがいるらしい。
この魔力の多さによって、魔法の威力が変わる。
まあ簡単に言えば、マナは空気で魔力は肺活量って感じらしい。
アスールによると俺には魔力があるらしいから、とりあえず魔術は使えるだろう。
続いて魔術の種類。
大きく分けて『古代魔術』『四精魔術』『神官魔術』の3種類。
古代魔術は、魔術師であれば誰でも使える。基本的に念力のようなもので、あまり力はない。
せいぜい軽いものを浮かせたりするのが限度だが、呪文も特になく、魔力さえあれば念じるだけで使うことができる
四精魔術は、大多数の魔術師が使っている。呪文を唱えることにより四大精霊と一時的に仮契約し、力を行使する。
属性は火・水・風・土のどれかで、1人の魔術師は生涯1つの属性しか使うことはできず、ほかの属性は使えない。
古代魔術にくらべ強力な攻撃が行えるが、強力なものほど呪文が長い。
神官魔術は、神聖フェアル教の神官しか使うことができない。身を清め、清く正しい心で毎日神に祈りを捧げることで得られる魔術。
攻撃魔法は基本的になく、体を強化、または治癒する魔法がほとんど。呪文は四精魔術よりかなり短いが、一応ある。
呪文詠唱ってのは、精霊とか神様に対して契約内容を読みあげてるようなもん。間違ってなかったら力貸しますよって感じ。
最後に道具。
道具は『魔導器』と呼ばれるものを使う。古代魔術に関しては必要ないが、四精魔術と神官魔術は必須。
材料は鉱物や植物、あるいは魔物の体の一部なども使うこともある。
質のいいものほど、マナから魔法に変わるときのエネルギーロスが少ない。
これがないと、いくらマナを取り込んでもまともに魔法が出ない。
ここで言葉の使い分けだが、技術体系や技能のことを『魔術』と言い、放たれる力が『魔法』という区分になっているようだ。
「どうです、魔術の基礎については理解できましたかな?」
「はい、なんとか」
「それでは早速、実践に移りましょう。さ、練習場までまいりますぞ!」
「はい!」
いよいよ実践だ。正直わっくわくだ。
(いよいよだね、あるじさま!)
(ああ、話が長かったけどここまでくれば……!)
(それじゃあ)
(練習場まで!)
(ごー!だね!!)
ファンタジーならやっぱり魔法だろ!!
次回、攻撃魔法がやっと……