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冒険者の嗜み

ランキングがぐんぐん上昇していて、ちょっと怖いです……


でも頑張ります!



ダルハイムを出て5日目の正午。


あと3時間ぐらいでザインに到着するだろうというところ。


俺は馬車の屋根の上に座っていた。


「いい加減に機嫌なおせよ……」


エリスは俺の隣にいるのに、遠くを眺めながらこっちを見ない。


「はぁ……」


俺はため息をついた。


ミシャはもういいって言ったんだが、エリスはまだへそを曲げている。


「腕組んだのも、キスしてきたのも、あっちからってだって何度も言っただろ?」


俺がなにしようと自由だろ?と言うと怒るので、弁解だけはする。


「……でも自分からプレゼント買ってあげたじゃないか」


エリスは体育座りでイジイジしている。


「あれは1日町を回るのに付き合ってくれた感謝のしるしだよ」


「私に感謝はないのか?」


果たして、今まであなたに感謝するようなことがあったでしょうか?


いや、ない。


そんなこと言ったらまた怒るしなぁ~……


「エリス」


「……なんだ?」


「ザインに着いたら一緒に買い物に行こう」


「!?ほんとっ……いきなりなんだ。ご機嫌とりか?」


一瞬こっちを向きかけたが、またすぐに元に戻った。


完璧にひねくれいじけモードだな。


「おまえ、まだ1人で依頼に行ったことないだろ?」


「……ない」


「いい機会だから必要なマジックアイテムとか買ってやる」


「別におまえが行かなくてもいいだろ?」


「いいやダメだ!あそこの店員は俺にしか相手にできん!エリス1人で行ったらいくらぼったくられるかわからん!!」


「そう……なのか?」


俺の妙に迫力に押されて、やっとエリスがこっちを向いた。


「ああ。俺も初めてあの店で買い物したときは、社会の厳しさを目の当たりにしたもんだ……」


遠い目をする。


「それは単純におまえがおのぼりさんだっただけじゃ……」


「黙れ!ザインに着いたら、エリスは俺とマジックアイテムショップに行く。異論は認めない」


「そんな……いきなり……」


「嫌か?」


エリスの目を覗きこむ。


「い、嫌ではない!」


少し照れながら言ってくる。


「なら決定だ」


「……わかった」


心なしか嬉しそうに頷いた。


なんとか機嫌はなおったようだ。


残る問題はこっちか……


手元の羊皮紙に目を落とす。


「なんだそれは?」


エリスが俺に寄りかかりながら、興味深そうに羊皮紙を見る。


「大会の優勝賞品だ」


大会で優勝し、手渡されたのは賞金5000万フレとこの白紙の古い羊皮紙。


「これが優勝賞品?とても価値があるものには見えないんだが?」


「俺もそう思う」


ただ、由緒ある武道大会の優勝賞品がただの白紙の羊皮紙であるはずがない。


なんの説明もなく渡されたこいつをとりあえず俺自身でなんとかしてみようとした。


しかし、透かしてみても、擦ってみても、炙ってみても白紙のままだった。


「なんかエリスも考えてみてくれよ?」


エリスは顎に手を添えてなにか考えている。


「……いや、妙案はないな……すまん」


頭を振って残念そうな顔をする。


「そっか……」


俺は羊皮紙を空に掲げながら首を捻る。


「ただ……」


それを見て、エリスが言葉を続けた。


「ん?」


「アドルフ老ならなにかご存知かもしれない。エルフの中でも賢者と崇められる方だ」


「アドルフさんか……」


最近はミシャに対する爺馬鹿具合に埋もれてたけど、あの人賢者様だったな……


「よし。じゃあ買い物のついでにアドルフさんの店に寄ってみるか」


「わかった」


そのままエリスと夏の燦々と降り注ぐ日差しを浴びながらザインまで帰った。






「初心者3点セットをくれ。15万フレ以上は払わん」


「……はぁ。わかったよ」


いつもの店員に高圧的に注文をする。


「おう。はい15万フレ」


店員に銀貨を15枚渡す。


「たしかに。しかし『竜殺しの英雄』様が少しケチすぎるんじゃないか?」


店員が肩をすくめた。


「肩書きはものを買うのに関係ないだろ?それじゃあな。行くぞエリス」


「……あ、ああ」


少し呆然としていたエリスを連れて店を出た。


店員がうしろでため息をついていた。


「いや、今日もいい買い物をした」


うんうんと頷く俺。


「少し店員が哀れな気が……」


エリスは何度かちらちらとマジックアイテムショップを振り返っている。


「ミシャにも言ったが、あれは客を同情させて高く買わせようとさせるための演技だ。それよりほら」


エリスに初心者3点セットの入った袋を投げ渡す。


「うわっと……」


エリスはそれを両手でキャッチ。


「長く使うと思うから、大切にしろよ?」


「ああ。わかった!」


エリスは嬉しそうに笑う。


こういう顔してれば可愛いんだが、この顔を引き出すのは簡単じゃないからな……


「それじゃアドルフさんのとこ行くか」


「ああ!」


満面の笑みで俺の隣を歩くエリス。


……ま、それだけの価値はあるか。






しばらく歩いてアドルフさんの店に到着した。


「お邪魔しま~す」


「失礼します」


エリスと2人で店に入る。


「おお、よく来た。武道大会で優勝したそうじゃのう?」


アドルフさん店の奥から俺のほうへ歩みよってきた。


「さすがにお耳が早いですね。お久しぶりですアドルフさん」


「うむ。お主ならやると思っとったわい。ところで……ミシャちゃんは!?」


アドルフさんはキョロキョロしながら俺に聞いてきた。


「今日はミシャは宿で留守番です」


「そうか……」


がっくり肩を落とすアドルフさん。


元気出せおじいちゃん。


「ミシャにはあとで顔出すように言っておきます」


「おお……そうか!」


落ち込み顔から一転。満面の笑みに。


この人喜ばせるのは簡単だな……


「っと。それより今回はこれのことを聞きにきたんですが……」


アドルフさん羊皮紙を渡す。


「ふぅむ……これをいったいどこで?」


羊皮紙を眺めつつアドルフが訊ねてきた。


「武道大会の優勝賞品です。ただの羊皮紙じゃないと思っているんですが、俺にはなにもわからなくて」


「うむ。おそらくこれは……」


と言いながらアドルフはそばに置いてあったマナグラスをかけた。


「なるほど、これは地図じゃのう」


「地図……ですか?」


「ああ。そうじゃ。お主もこれをかけて見てみるがいい」


マナグラスを受け取り、羊皮紙を見る。


「わお」


マナグラス越しに羊皮紙を見ると、立体的な図形が浮かび上がってきた。


「見てみろエリス。凄いぞ!」


エリスに羊皮紙とマナグラスを手渡す。


「どれ……おお!これは凄い!」


エリスは羊皮紙をくるくる回しながらいろんな角度で見ている。


「それはおそらくリッテル遺跡の地図じゃな。そんな正確なものは見たことがなかったが」


アドルフさんが少し難しい顔をしている。


「リッテル遺跡……」


楽しんでるエリスを放っておいてアドルフさんに向きなおる。


「うむ。リッテル遺跡というのは、ザインから東に500キロほどいったところに遺跡で、誰が、いつ、なんのために作ったのか未だに解明されておらん」


「はぁ……なんでですか?」


「遺跡内に多くの魔物が住んでおっての、その上内部構造も複雑で、誰も最深部にたどり着けないんじゃよ」


「なるほど」


「じゃが、お主の実力とその地図があれば、なんとかなるかものう?」


アドルフさんがニヤリと笑った。


「確かに、優勝賞品が紙1枚というのは面白くないと思っていたところです」


俺もニヤリと笑う。


「……報告楽しみにしておるぞ。出発はいつにするんじゃ?」


「明日にでも行きます。楽しみにしててください」


「うむ。気をつけてな」


「はい。……エリス帰るぞ」


「ん?もう話は終わったのか?」


地図に夢中だったようだ。


「ああ。とりあえずマナグラス返してくれ。そんなに見たいならあとで俺のを貸してやるから」


「わかった」


エリスから受け取ったマナグラスをアドルフさんに返す。


「それではお邪魔しました」


「ミシャちゃんによろしくの!」


「……はい」


「失礼しました」


エリスが頭を下げる。


「うむ。エリス嬢も気をつけてな」


「はい」


エリスと2人でワノクニ亭に戻った。






「へぇ~……」


ミシャがマナグラスをかけて地図を眺めている。


「凄いですよね、ミシャさん!」


「うん!」


女2人でキャッキャッしている。


俺は畳に寝転がって頬杖をつきつつ、2人の様子を眺めていた。


無邪気だな……


「俺、明日からちょっとその遺跡に行ってくるから」


「1人で?」


ミシャが訊ねてくる。


「たまには相棒一緒に冒険でもと思って」


アスールをミシャに見せる。


「なるほどね」


ミシャは納得したようだが、エリスはアスールを見ながら首をかしげている。


「相棒……?その指輪がどうしたんだ?」


「ああ……そういえばまだエリスには言ってなかったな。アスール、挨拶しなさい」


「こんにちはえりすさん!ぼくあすーる!!」


エリスが固まった。


「……腹話術?」


「俺がこんなに甲高い声だせるか!こいつは喋る指輪なんだよ!!」


「そうだよ!ぼくしゃべれるんだよ!!」


「まあ普段は驚かれるから念話使ってるんだけどな」


「だよ!」


エリスは少し頭を押さえたが、なにか納得したように頷いた。


「私に力をくれたのもたしかその指輪だった気がするし、不思議な指輪であることに違いはないか……アスールだったか?」


「うん!」


「よろしくな」


そう言ってエリスはエリスはアスールを撫でた。


「うん!よろしくえりすさん!!」


アスールも嬉しそうだ。


「というわけで、遺跡にはアスールと2人で行くことにする」


「わかった。気をつけろよ」


とエリス。


「相棒と水入らずで楽しんできな」


とミシャ。


「ありがとう。それじゃあ明日の朝には遺跡に向かうから」


「留守番はまかせて」


「土産を期待してるぞ」


「あいよ。じゃあ夕飯にするか」


「「は~い」」


その日は3人で夕飯を食べてすぐに寝た。







ザイン東門前。


「しょくりょー」


「よし!」


「ちず」


「よし!」


「ぴゅあなぼうけんしん」


「よし!」


「だいじょうぶみたいだね」


「ああ。2人でどっか出かけるのはウィングドラゴン以来か?」


「そうだね!」


「よし!じゃあ、はりきってリッテル遺跡まで行くぞアスール!!」


「ごー!だね!!」










ダンジョン攻略は冒険者の嗜み。

ダンジョン!ダンジョン!!

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