武道大会 本戦
サクッと行きましょう。
ダルハイム4日目。
前日に予選が終了したので。今日は本戦。1日1試合。
「トーナメント戦で32組だから……5回勝てば優勝だな」
俺は例のコスチュームを纏って闘技場に立つ。
1回戦。
相手は身長2メートル以上あるボウズの大男。顔はまるでオークのようだ。
手には1メートルほどの鉄の棍棒を持っている。
「これより、ダルハイム武道大会本戦、第1試合を始めます!」
審判が手をあげ、振り下ろした。
「うおおぉぉぉっ!」
開始と同時に大男が顔を真っ赤にしながら棍棒を振り上げて突進してくる。
「おまえはブラッドオークか……」
ただしブラッドオークより小さいし遅い。
「派手な勝ち方……パワータイプをパワーで凌駕してみますか」
目前にはすでに男が振り下ろし始めた棍棒がある。
「よっと」
右手で棍棒を掴んで止める。
「な、なんだと!?」
大男が驚愕の表情を見せる。
いい顔だ。
そのまま鉄の棍棒を握り潰す。
「バ、バケモノ……!!」
いやいや!
「その顔に言われたくないから!!」
グシャッ!
顎にアッパーカットを一発。
男は綺麗な弧を描いて5メートルほど先の地点に墜落。
「お疲れ様でした」
右手を胸の前に持ってきて、左手でマントを広げながら優雅に一礼した。
ワアァァアア!!
割れるような歓声が耳に届く。
演出過剰にした効果かな?
観客席に何度か礼をして闘技場をあとにした。
ダルハイム21日目。
2回戦。
次の相手は魔術師。
黒いローブを着て、手には大きな木製の杖を持っている。
「あのローブは暑そうだな」
俺はマントだけでも暑いのに。
「よし、それじゃあ……冷やしてやるか」
「これより、ダルハイム武道大会本戦、第17試合を始めます!」
審判が開始の合図を告げる。
相手の魔術師が杖をかかげ、なにか呪文を唱えている。
待つこと5秒。小さいファイヤーボールが飛んできた。
「えい」
右手で弾く。
普通に魔術使うのって大変なんだな。
今度も長々と呪文を詠唱している。
30秒待って、相手の杖に1メートルほどの炎の蛇が巻きついた。
「ちょっと格好いい!でも……」
相手の魔術師はフードの下の顔に大量の汗をかいている。
「やっぱり不憫だ……」
相手の杖から炎の蛇が俺に向かって放たれる。
「よし、当初の予定通り、存分に冷やしてやる『ウォータードラゴン』!」
左手を前に突き出し。中空に15メートルほどの水でできた東洋龍を出す。
「……行け!」
水の龍は炎の蛇を飲みこみ鎮火し、そのまま相手の魔術師の下へ。
「そんな馬鹿なっ!?」
そのまま驚愕している魔術師を飲みこみ、とぐろを巻きつつ上体を起こす。
「で、ポーズ決めて『コールド』っと。よし完成!」
闘技場の中央に氷漬けの魔術師を口に咥える、立派な龍の氷像ができた。
「お疲れ様でした」
その氷像をバックに、観客に向かって恭しく礼をして闘技場を去った。
「公爵様もこのぐらいなら喜んでくれるだろ」
ダルハイム29日目。
3回戦。
相手は鈍く銀色に輝く鎧を着た剣士のようだ。腰には大振りの剣が一本。
「ダルハイム武道大会本戦、第25試合を始めます!」
審判が開始の合図をする。
相手の剣士が剣を抜く。
俺も呼応するようにイルミナスを抜いた。
ジリジリと距離を詰めてくる剣士に対し、俺は動かずにイルミナスを斜め右に構える。
「チェストォーッ!!」
そして間合いに入った瞬間、相手が上段から斬りつけてくる。
「スローモーションだな」
俺は時間が止まったような感覚の中で、衣装が燃えないぎりぎりの速度で相手を斬りつける。
「1!」
右斜め上から袈裟斬り。
「2!」
そのまま下段を斬り払い。
「3!」
右斜め下から脇腹に抜けるように斬る。
「4!」
胴体を左から右に真っ二つ。
「5!」
イルミナスを振り上げ、相手の剣ごと縦に一刀両断。
「ラスト!!」
貫き胴を放ち、相手の後方へ。
時間の感覚が元に戻り、背後で剣士が剣を振り上げたまま静止している。
俺は抜き放ったイルミナスを鞘に収めた。
チンッ……ガラガラガラッ
イルミナスが収められると同時に剣士の鎧と剣がバラバラになり、同時にそれらを装備していた人間も崩れ落ちる。
「お疲れ様でした」
振り返って一礼。
観客の歓声。
「一度これやってみたかったんだよね!」
ダルハイム33日目。
4回戦。
「ダルハイム武道大会、準決勝第1試合を始めます!」
今度の相手は獣人の無手の格闘家の男。
引き締まった体と浅黒い肌、狼のような灰色の尻尾と耳が特徴的。
開始の合図とともに男が構えた。
「こんな感じかな?」
俺は腰のイルミナスを剣帯から外して脇に置き、相手と鏡合わせで全く同じ構えをとる。
相手は少し困惑しているようだ。
相手が間合いを詰めてくる。俺も全く同じ挙動で詰める。
「「はっ!」」
相手の左ストレートを完璧にトレースして合わせる。
お互いの左拳がぶつかり合う。
「「せいっ!」」
右ローキック。相殺。
「「やっ!」」
左肘鉄。相殺。
「「ふんっ!」」
右回し蹴り。相殺。
「「これで、どうだぁっ!!」」
相手の渾身の右ストレートをあえて顔面で受け、クロスカウンターのような体勢。
「う……」
格闘家が倒れた。
「お疲れ様でした」
一礼して退場。
「やべぇ……もうちょっとで仮面外れるところだった」
試合を終えて貴賓席へ。
「うむ。見事だった!明日はいよいよ決勝戦だな!!」
ガンツが席から立ち上がって近づいてきた。
「はい。決勝の相手は?」
「シルフィア王国、王都近衛騎士団の副団長、イゼリア=ハイネルン。女性でありながら王都近衛騎士団の副団長を務める有能な騎士だ。二つ名は『白薔薇のイゼリア』彼女が纏う白い鎧と優雅な戦いかたからついた名だ」
「強そうですね……」
「実際に強い。これまでの試合も圧倒的な強さを見せた。それゆえに、次の決勝戦『白薔薇』と『黒騎士』の戦いにみな注目している。近年稀に見る戦いだとな!」
「それであれば、今まで以上に派手にやらせてもらいます」
「よろしく頼む。ではそろそろ宿に帰るか」
「はい」
ミシャとエリスと一緒にガンツを警護しつつ宿に戻った。
「明日決勝だね~。なんとかなりそう?」
風呂あがりで髪を拭きながらミシャが話しかけてきた。
「対戦相手は確認してなかったんだよな~。チラッと遠目から見ただけだし」
「女の人なんでしょ?」
「らしいな。それも少し心配。あんまり女の人と闘うの好きじゃないからな……」
「私のときのように適当にあしらえばいいじゃないか?」
エリスが少しスネた感じで話しかけてきた。
「まだあのときのこと気にしてるのか?……まぁそれは置いておくとして、今回は大会で、しかも決勝だから適当にあしらうとかできないんだよ」
「そういえば、最初は嫌がっていたくせに今では立派なエンターテイナーじゃないか。なぁ謎の黒騎士様?」
エリスが馬鹿にしたようにニヤリとする。
「毒を食らわば皿まで、だよ。それにこれは仕事だ」
「そうかなのか?そのわりには、この前の氷の龍は見事だったぞ?」
「あれはだいぶディテールにこだわったからな!」
「……嬉しそうだな」
「そりゃあ褒められれば誰だって嬉しいだろ」
「皮肉のつもりだったんだが?」
「言った本人の思惑がどうあれ、その言葉でどう感じるかは受け取った側の自由だ!」
「威張ることではないと思うんだが……」
「まぁマコトは変なところでこだわりあったりするよね」
ミシャがなにかを思い出したように目を泳がせる。
「できれば毎日風呂に入りたい!とか、お米がなくちゃ生きていけない!とか」
まぁ日本人だからしかたないだろ……
「そんなこと言ったら、ミシャだって毎日風呂入ってるし、米も大好きじゃないか」
「それはマコトに影響されたからだよ」
「俺のせい!みたいな言い方してるけど、どっちも悪いことではないはず」
「たしかに風呂も米もワノクニ亭が初めてだったが、両方ともとてもよかったな」
エリスも今では立派な米党で毎日風呂派。
「じゃあ、いいじゃねぇか」
「たしかにいいんだけどね」
どうでもよさそうなミシャ。
「私はその2つを、俺が紹介してやったんだ!みたいなおまえの態度が気に食わない」
不満そうなエリス。
「さいですか……あ、そうだ。ミシャ、踏んでくれ~」
と言いながらソファにうつ伏せになる。
「その頼み方はどうかと思う……」
とか言いつつも背中に乗って足でマッサージしてくれるミシャ。
「お~……極楽……」
「はたから見ていると、少女に踏まれて悦んでいる変態にしか見えないな」
エリスが冷静にツッコむ。が、
「いや、この前のエリスはこれ以上にノリノリで俺踏んでたから。女王様だったから」
「思い出させるな!」
照れやがった。可愛いな~。
「マコト、もういい?」
「おう。サンキュー!」
「よっと。意外と座り心地いい……」
ミシャはそのまま俺の背中に座った。
「おい、なにしてんだ?」
「マコトに座ってる」
「いや、そういうことでなく……」
「エリスさんもそんなとこに立ってないで、座りなよ!」
「じゃあお言葉に甘えて」
エリスも俺の腰あたりに座った。
文字通り尻に敷かれる構図。
「うん。なかなかいいぞ。マコト」
「お褒めに預かり恐悦至極でございます。女王様」
「……次に女王様などと私のことを呼んだら、このままエビ反り固め食らわせる」
「以後気をつけます。エリス様」
「よろしい」
そのまま2人は俺の上に座りながらお茶飲んだりお菓子食べたりしていた。
「エリスさん。これ美味しいよ!」
「どれどれ……本当ですね!!」
俺の上でキャッキャッする美少女と美女。
(尻に敷かれるのもなかなかいいかもしれない。やわらかいし)
(あるじさまって、えむ?)
(決してそんなことはない。女性が好きなだけだ)
(そういうことにしておくよ)
(ああ、まあ決勝前日にしちゃ和んでていいだろ?)
(そうだね)
(それじゃあ明日はパパッと優勝して表彰台まで……)
(ごー!だね!!)
そんな決勝前日の夜だった。
決勝はモリッといきます。