スキンシップ
よく兄弟にこんなことされてました。
ザインを出発して5日目の夕方。俺たちはダルハイムに到着した。
ダルハイムは砂漠のオアシスを中心とした都市で、広さはザインと同じぐらい。乾燥した空気と照りつける太陽が印象的な町だ。
「うわぁ~露店がいっぱい」
ミシャは馬車の中から窓に張り付くようにして外を見ている。
「武道大会があるだけあって、それらしい人間が沢山いるな」
エリスは外を歩く人々を観察している。
「どれどれ……戦士に剣士に拳法家、魔術師までいるのか……武道大会とか言いつつ、なんでもありなのか?」
「あ、そろそろ宿に着くみたいだよ!」
前方を見ると、一際高級そうな建物の入り口から道にかけて赤絨毯が敷かれており、その絨毯の両脇には衛兵がズラっと並んでいる。
「いかにも、って感じだな」
俺たちの馬車が止まったので、顔を覆い隠せる黒いフードつきのローブを着て、ガンツの馬車の元へ。
「ミシャが公爵の右側、エリスが左側、俺が後方だ。いいな?」
「うん」
「了解した」
一番手前の衛兵が声をあげた。
「ザイン領、領主!ガンツ=ヴァン=シュタイン公爵様の御成り~!!」
ガンツの馬車の扉が執事がによって開かれ、メイドの手を取ってガンツが降りてきた。
ガンツは赤絨毯の上を歩いて行く。
ミシャとエリスがガンツの横を固め、俺がうしろにつく。
いくら顔を隠したからといって、ミシャはあからさまに身長が低いので衛兵が少し驚いているようだ。
そのまま進んで建物の中に入る。
俺たち3人とガンツ、それと後方を歩いていた従者が全員中に入った時点で扉が閉められた。
「もうフードをとってもいいぞ」
ガンツには言われたのでフードをとって中を見渡す。
「うわぁ……」
ミシャが感嘆の声を漏らす。
「これは……」
エリスも驚いているようだ。
「凄いな……」
正直俺も驚いている。
50畳はあろうかというエントランスホール。
大理石でできた石柱が4本天井まで続く。天井にはガンツの応接室で見た以上のシャンデリア。
床は全て絨毯が敷きつめられて、ふわふわとした感触が足に伝わる。
目の前には2階まで続く扇状の巨大な大理石の階段がある。
ホールの壁際には従業員がこれまたズラっと立っている。
「1泊いくらだ……ここ?」
思わず口に出てしまった。
「1泊300万フレだ」
ガンツが聞き取って答えた。
「「「300万!?」」」
え~ということは1ヶ月で9000万フレ。
すでに俺の報酬超えてる。
「ここにタダで泊まるのか……?」
「ほんとにいいの!?」
ミシャが慌てている。
「構わんよ。というか一緒に泊まって貰わなければ護衛にならんだろう?」
さも当然のようにガンツが言った。
すいません。ちょっと公爵ナメてました。
そんなやり取りをしていると、従業員の列から仕立てのいい服を着た小太りの男がやってきた。
「ようこそいらっしゃいました。シュタイン様」
ガンツに向かって挨拶をしているところを見ると、この男が宿の主のようだ。
「うむ。今年も世話になる」
「はい。今年も昨年と同じ部屋を用意させていただいております……そちらのお三方は?」
男がこっちを不思議そうに見ながらガンツに聞いた。
「今年は騎士団が事情で来れなくてな、今回はこの3人が私の護衛だ」
「この……お三方が、ですか?」
男は訝しげな表情になった。
「まぁそのような顔をするな。実力は折り紙つきだ。この女性2人はザイン騎士団を10分とかからずに打ちのめしたし、この男にいたっては、かの有名な『竜殺しの英雄』その人だ」
「なんと……このお方が、あの」
呆けた顔で俺のほうを見る。
「どうも」
とりあえず挨拶した。
「正直、この3人がいたら1日で王都が陥落できるほどの戦力だぞ?」
「そこまででございますか……失礼いたしました」
男が頭を下げた。
「私はこの宿の支配人をしております、ワイズと申します。これから1ヶ月間お世話をさせていただきますので、よろしくおねがいいたします」
「よろしく頼む」
とりあえず握手をした。
「それではお部屋に案内いたします。護衛のお三方はこの者が案内いたします」
目の前に現れた従業員の女性にワイズが手を向ける。
「どうぞこちらへ」
女性従業員のあとにつき従って階段を上り2階へ。
「護衛のお三方はこちらのお部屋になります」
部屋に案内された。
「わ~お」
20畳ほどのリビングに寝室が4つ。
ベッドは全部キングサイズで、なんと部屋に風呂が完備されている。珍しい。
茶色を基調とした部屋には、高そうな調度品ががセンスよく配置されている。
そしてベランダに出ると、夕日に染められたダルハイムの町が一望できた。
「凄い。綺麗……」
ミシャが思わず感想を口にした。
「あ、ねぇマコト!あそこにあるので試合するのかな?」
ミシャが指差すほうを見ると。全長5キロはあろうかという巨大な円形闘技場が見えた。
すると、うしろから女性従業員が声をかけてきた。
「はい。毎年武道大会は、あのダルハイムコロッセオで行われます」
「そうなのか」
俺は相槌を打った。
「武装大会はことし230年目を迎える歴史ある大会です。そして、その武道大会はダルハイムコロッセオでしか行えません」
「なんでだ?」
「武道大会では、武器や魔法の使用が認められています。それでも毎年1人も死者は出ません。なぜだかわかりますか?」
「いや、わからん」
「あのダルハイムコロッセオそのものが巨大なマジックアイテムになっていまして、致死性のダメージを受けても、気絶するだけになっています。剣が体すり抜けるさまはご覧になったら驚きますよ?」
「なるほど」
「当然攻撃を受けた箇所は痛みを伴い、動かなくなることもありますが、闘技場を出れば治ります。なので皆さん毎年全力で闘っていらっしゃいます」
「ありがとう。有益なことが聞けた」
「いえ、どういたしまして。夕飯の際にもう一度お呼びにあがりますが、なにかほかに御用があるときは。入り口の呼び鈴を鳴らしてください」
「わかった」
「それでは失礼いたします」
一通り説明を終えて女性従業員は部屋を出ていった。
そのあとは各自風呂に入って食堂で夕飯を食べた。
「うわ……この肉柔らか……」
「気にいっていただけたら、なによりです」
「これ、おかわりある?」
「ございますよ」
「頼む」
「かしこまりました」
絶品でした。
「ふぅ~食った食った!」
食事を終えて3人で部屋に戻った。
「とりあえず……」
部屋に入ってそのまま俺の寝室へ。
「とうっ!」
ベッドにダイブ!!
「うっは!やわらか!?普段は布団派だけど、これはいい!!」
そのままごろごろしていると、うしろから殺気が。
首だけで振り返ると、すでにミシャとエリスが跳んでいた。
そのままフライングボディプレス。
「うがぁっ!腰が!!」
完全に隙をつかれたため、体の強化も間に合わなかった。
「あはは!変な顔!!」
「これしきで音をあげるとは軟弱な」
ミシャとエリスが勝手なことを言っている。
「お、まえら……」
なんとか立ち直ろうとするも、
「エリスさん、関節技の特訓でもする?」
「いいですね!やりましょう!!」
そのままミシャが俺の腕をとり、エリスが足を組み始める。
「ちょっ、やめ……ひぎゃぁああ!!」
ミシャに腕ひしぎ十字固めを決められ、エリスのは四の字固めを決められる。
「それっ!痛い?マコト痛い!?」
ぎりぎりと腕を締め上げながら、笑顔で俺に尋ねてくるミシャ。
「痛ぇよ!とういか、いつからそんなサドになったんだミシャ!?」
「フフフフッ!!」
ミシャが怖い!
今度は四の字固めを決めてるエリスが声をかけてきた。
「初めて会ったときの屈辱!ここで晴らす!!」
さらに力を強めてきた。
「そんな!今さら根に持ってんじゃ……痛たたたたっ!!」
「問答無用!!」
コイツも楽しそうだな!ていうか身体強化して本気で振りほどこうとしてるのにできねえ!!
「ミシャ!エリス!やめろ!!こんなことで力使うんじゃねぇ!!」
「あははははははっ!!!」
「それそれそれぇっ!!!」
ダメだ聞いてない。
と思ったら解放された。
「ふぅ……おまえらいいかげんに……うっ!」
今度はエリスに両腕を押さえられ、ミシャは背後に周って細い腕で俺の首を締め上げる。
「ま、シャレ、なら……」
「たまには可愛い弟子とスキンシップとってよね!」
ミシャが嬉しそうに言う。
ミシャ、それスキンシップとちゃう、DVや。
「そういうことだ!」
おまえは最初っからスキンシップなどとる気はないだろエリス!!
あ、だんだん気持ちよくなってきた……いかん堕ちる。
「あぁ……」
そのまま俺の意識はブラックアウトした。
ふと目が覚めると、両腕が痺れて重い。
首を回して確認すると、ミシャとエリスが俺の腕枕で寝ていた。
「……状況的にはおいしいが、これに至った経緯を考えるとなぁ……」
過激なスキンシップだった。
「よっと…」
2人を起こさないように腕を抜き。布団をかけ直してやる。
そのまま寝室を出てベランダへ。
「星が綺麗だな……」
ザインより星が綺麗に見える。明かりが少ないからかな?
「あしたからたいかいだね」
「そうだな。勝てるかなアスール?」
「あるじさまなら、きっとゆうしょうできるよ!」
「ありがと。それじゃあ優勝に向かって……」
「ごー!だね!!」
ところで俺はどこで寝ればいいんだ?
次回、主人公が仮装します。