フラッシュバック
今回はちょい重いかもです。
ザインを出てダルハイムに向かう道中の4日目。
「異常ナ~シ」
馬車の屋根の上に座って周囲を確認する。
俺の気配探知の範囲も半径1キロぐらい確認できるようになっていたが、野生動物がチラホラ確認できるだけ。
ザインを出てから一度も魔物にも盗賊にも遭遇していない。
「ヒマだな……」
欠伸を一つする。
(おしごとなんだから、まじめにやらないとだめだよ、あるじさま?)
「わかってるよアスール。ヤバそうだったらちゃんと動く」
(ほんとかなぁ~?)
「まぁ、俺のほかにミシャもエリスもいるんだから大丈夫だろ」
(それならあんしんだね)
信用ねぇな。
「よっと!マコト、どう?」
ミシャも屋根の上に来た。
「気配探ってみな」
目を瞑り集中している。
「う~ん……大丈夫そうだね。よいしょっと」
ミシャが胡坐をかいている俺の膝の上に座って体を預けてくる。
小さい体がすっぽり収まる。
「ヒマだね~マコト」
なんとなく空を見上げるミシャ。
「そうだな~」
手持ちぶさただったので、胸のところにあるミシャの頭を撫でながら、俺も空を見上げる。
「「いい天気……」」
2人で和んでいた。
「そうしていると、兄妹みたいですね、っと!」
エリスも来た。
「まぁ実際兄妹みたいなもんだし。ね~マコト?」
「そうだな~」
(みしゃちゃん、かんぜんにふっきれたみたいだ)
(なんか言ったか、アスール?)
(ううん。こっちのはなし)
うん?まぁいいか……
「それにしてもいい陽気だな……」
エリスが空を見ながら目を細める。
「エリスさんもそう思う?」
「はい。こんな日は昼寝でもしたら気持ちいいでしょうね……」
「だな」
…………
「「「はふぅ……」」」
3人で和む。
ああ、平和だ。
(だいじょうぶかな……しんぱいになってきた)
アスールが1人ぼやいていた。
そのとき気配探知に人間が引っ掛かった。
人数は23人。旅人……は普通武器持って岩陰に隠れてないよなぁ……
「ミシャ、エリス。盗賊らしい一団を察知した」
和みムードから一転してお仕事モードに。
「人数と距離は?」
ミシャが確認してくる。
「23人、前方距離1キロ。全員武器を所持してる」
「どうするの?」
「俺とあと1人で偵察に行く。問題がなければ殲滅する。どっちが行く?」
「私が出る!」
エリスが前方を睨みながら言った。
「わかった。ミシャはここに残って馬車を止め、周辺を警戒しつつ警護にあたれ」
「了解」
「じゃあ行くぞエリス」
「ああ!」
ヤル気満々だな。
そのままエリスと2人で屋根から降りて盗賊らしき人間たちの方へ向かう。
気配に近づくと、岩陰から男たちが飛び出してきた。
「止まれ!」
リーダー各らしい男に声をかけられた。
「おまえたちは盗賊か?」
「そうだ!ダルハイム高原に悪名轟く盗賊団!その名も……」
「『エアバレット』」
確認が取れたので、魔法を放って盗賊たちを昏倒させた。
さよなら。名も知らぬ盗賊団。
「さて、片付いたし、戻るぞエリス。」
だがエリスは戻ろうとしない。
それどころか腰のレイピアを抜き放った。
「……どうしたエリス?」
俺の呼び掛けを無視して倒れている盗賊の1人の前まで歩いていき、レイピアを逆手に持って振り上げた。
「おい!止めろエリス!!なにしてるんだ!?」
エリスをうしろから羽交い締めにして盗賊から引き離す。
「離せ!盗賊は殺す!!」
俺の腕の中で暴れながら、尋常じゃない目で盗賊たちを睨みつけるエリス。
「止めろ!盗賊とはいえ相手は無抵抗だ!!殺すな!!!」
「黙れ!なにも知らないくせに!!盗賊はみんな殺すんだ!!!」
普段は冷静なエリスがここまで態度を乱すのはおかしい。
なにかあったに違いないが、今はそれどころじゃない。
「悪く思うなよエリス!ふんっ!!」
エリスの腹にボディブローを入れる。
エリスから力が抜けた。
「なん……で……」
そのまま意識を失ったようだ。
「ふぅ……いったいなんだったんだ?とりあえず馬車に戻るか」
エリスを担ぎ上げ馬車まで戻る。
「お帰り……エリスさん!どうしたの!?」
俺が担いでいるエリスを見て、ミシャが血相を変えた。
「気を失ってるだけだ」
「相手にやられたの!?」
「俺がやった」
「どうして?」
「俺が倒した盗賊をエリスが皆殺しにしようとしてたから止めた」
「なんでエリスさんがそんなこと……」
「わからん。とりあえず馬車を進めよう。理由はエリスが起きたときにゆっくり聞けばいい」
「……わかった」
エリスを馬車の中で横にし馬車を進めた。
その日の夜。
結局エリスは目を覚まさなかったので、ミシャと交代で寝ずの番をする。
今は俺が起きている時間。
「ふぁ~眠ぃ~」
この時間はヒマだ。魔物も盗賊の気配もないし。
おっ。
「やっと起きたかエリス」
エリスが馬車から出てきて焚き火の前にいる俺に近づいてくる。
「あんまり目が覚めないもんだから、心配した……うわっ!」
突然胸ぐらを掴まれて睨まれた。
「なぜあのとき私を止めた!?」
やっぱりこうなったか……
「……おまえが正気を失ってたからだよ」
「私は正気だった!!」
「護衛任務中に護衛対象ほっぽり出して、無抵抗の人間を皆殺しにしようとしてるヤツが正気だってのか?」
俺もエリスを睨みながら言葉を告げる。
「盗賊は死んでしかるべきだ!」
「その理論はわからなくはないが、少なくともあのときは別だ」
「理論はわかるだと?いいや、おまえにはなにもわかっていない!!」
「なにもわかってないのはエリスのほうだろ。俺たちは今仕事中だ。本人にどんな思惑があろうと、仕事を優先すべきだ」
「そういうことではない!!」
「じゃあ、どういうことだ?仕事中に個人の行動が優先される理由があるなら俺に言ってみろ!!その行動によって引き起こされる事態におまえは責任がとれるのか!?」
エリスを怒鳴りつける。
「それは……」
エリスが目を逸らして黙りこむ。
「理由が話せないなら、この話は終わりだ。今度同じようなことをしたら、護衛から外れて1人で帰ってもらう」
「…………」
エリスは俺の服から手を離し、俯いた。
「……わかったらさっさと寝ろ」
俺はエリスに背を向け、焚き火の前に座った。
少しして、エリスも俺の隣に座った。
「……理由なら……」
焚き火を見つめながらエリスがつぶやいた。
「理由なら……ある」
俺も焚き火を見ながら言った。
「……なら話してみろ」
エリスは静かに語り始めた。
「私はミシャさんと同じような歳の頃に、盗賊に私以外の家族を皆殺しにされた」
「……」
「ある日、突然盗賊が私の家に押し入ってきた。15人ぐらいだったかな。父と歳の離れた兄は戦ったが殺された。母は私をクローゼットの中に隠し、抵抗しようとしたが捕まった」
「……それで」
「私はクローゼットの中で1人震えながらそれを見ていた。おまえにわかるか?目の前で父と兄の首が落とされる光景が!母が犯されている様子を見続ける恐怖と屈辱が!?」
「……いや、わからない」
「だろうな」
「そのあとはどうしたんだ」
「盗賊たちは駆けつけた衛兵に捕えられ、私は助かった。そのあと私は父の知り合いに預けられた。その家は直ぐに飛び出して修行を始めたがな」
「なんでだ?」
「復讐するために」
「……そうか」
「ただ、私は無力だった。技術を身につけ猟師になっても、ろくに魔物すら殺せない。そこに現れたのがミシャさんだ。私は彼女を見て憧れた。そして同時に妬んだ。あのときの私にあれだけの力があれば家族を守れたのに!とな。師匠を妬むとは我ながら愚かしい。軽蔑したか?」
エリスは自嘲しながらこっちも見た。
「別に……ただ、今もそう思ってるのか?」
「いや、今は違う。ミシャさんは師匠でもあるが、半分は妹のように思っている」
「そうか、よかった。なぁ俺の話……というかミシャの話を聞いてくれないか?」
「ああ……いいぞ」
「ミシャはな孤児なんだ。物心ついたときから親はいない。孤児院で一緒に育った子供が家族がわりだったんだが、孤児院が潰れて散り散りになってしまった」
「そう……だったのか」
「それからミシャは里親に引き取られたが、その里親はミシャを奴隷として売ろうとしていた」
「なんだって!?」
「でもミシャはその里親の元を抜け出してザインに流れ着いた。そこでゴロツキに拾われて犯罪に加担させられそうになっていた」
「そんなことまで……」
「そのゴロツキがターゲットにしたのが俺で、俺がゴロツキを壊滅させたついでにミシャを拾ったんだ」
「だからミシャさんの苗字がおまえと一緒なのか。種族が違うのにおかしいと思っていたが、そういうことか」
「そう。ミシャは1人ぼっちだった。頼りになるはずの大人に騙され続けられ、傷ついていた。でもあの子は強いからな。今では俺や女将さん、あとアドルフさんを家族のように慕ってくれてる。だから、エリスがミシャを妹みたに思ってくれてるなら、俺は嬉しい」
「そんな大層なことじゃないさ」
「それでもいいんだ。あいつは今1人ぼっちじゃない。それで十分だ」
「そうか」
「でも、なんだかエリスは1人ぼっちだな」
「えっ?」
「俺には、今のおまえは誰にも頼れず、途方に迷ってる女の子にしか思えない。手に入れた力をどう使っていいかもわかっていない」
「そんなことは……」
「あるよ。昼間のおまえを見てればそう思うさ」
「私は……」
「家族の仇の盗賊を皆殺しにするために力を手にいれた、か?それは誰のためだ?」
「……死んだ家族のためだ」
「いいや、おまえ本人のためだ」
「……」
「その顔はわかってたみたいだな」
「それはそうだ……何年葛藤し続けた思う?己を鍛えれば鍛えるほどこの目的の無意味さに気がついていった。でも、どうしていいか私にはわからない!もう……わからないんだよ……」
「おまえは冒険者だろ?」
「……?」
「冒険者はな、困っている人の依頼を請けて解決するのが仕事だ。結果としてだがそれは人々の生活を守ることに繋がる。おまえの力があれば、魔物や盗賊に脅える人たちを救えるんだ。だからエリスが家族を救えなかった分、ほかの人を助けてやれ」
「そんなことでいいのか?」
「おまえにしかできないことだ。だからその力。復讐なんかに使うな。誰かを守るために使え」
「私にできるのかな……そんなこと?」
「おまえ1人じゃできないこともあるかもしれない。でも今はミシャも俺もついてるだろ?だめそうなら頼れ。1人で背負いこむな」
「いいのか?」
「弟子が師匠を頼るのは当たり前だろ?それに俺はおまえなんかよりずっと強いからな。エリス1人ぐらいなら簡単に助けられる」
自慢げに胸を張る。
「プッなんだそれは?相変わらず傲岸不遜だなおまえは!」
エリスが吹きだした。
「おまえに言われたくない!!……というか、やっと笑ったな」
そのままエリスの頭を撫でる。
「あ……」
「俺にとっちゃミシャもおまえも妹みたいなもんだ。だからあんまり悲しい顔すんな」
エリスは少しぼーっとしていたが、ハッとした表情で手を払いのけた。
「や、やめろ!子供扱いするな!!」
「まぁ見た目はともかく中身は子供だからな、おまえ」
「うるさい!」
「はっはっは!」
「もう寝る!」
怒りながらエリスは馬車のほうに向かった。
でも立ち止まり振り向いた。
「その……今日はありがとう……お、おやすみ!マコト!!」
そのまま走り去った。
「なんだ。意外と可愛いとこあるじゃん」
というか、初めて名前呼ばれた……正直ちょっとキュンときた。
美人のそれは卑怯だぜ?
「あぁ~……誰もいなくなると、とたんに寂しくなった。かまってアスール」
「だまれ、おんなごろし」
「酷いわ!」
「むいしきでやってるなら、あるじさまはあくまだ」
「いや、さすがに今回は少し意識したけどな」
「こんかい?」
「ああ、ミシャのときは別に意識してないぞ?まあ、好かれちゃったみたいだけどな」
「……きづいてたの?」
「言っただろ?ミシャは妹だって。妹に手を出す兄貴がどこにいる」
「じゃあ、いままでのぼくのつっこみは?」
「気づいてないふり。俺がなにかしらのリアクションしたら気まずくなるだろ?」
「なんでいまさら、そんなことぼくにはなすの?」
「いや、ミシャも吹っ切れたみたいだし、アスールもいろいろ気を揉んでただろうと思って」
「……ぼくは、あるじさまをみくびってたようだ」
「そうか?」
「というか、もしかしてあるじさま。れんあいけいけんほうふだったりするの?」
「秘密だ」
「きになる!」
「しょうがないな……夜明けまでまだ時間もあるし、話してあげよう」
「やった!!」
そのままアスールと恋バナで朝まで盛り上がった。
警護5日目。
本日も馬車の屋根の上から警戒中。
「異常ナ~シ」
今日もいい天気だこと。
「ちょっといいか?」
エリスがいつのまにか背後に立っていた。
「おう。なんだ?」
「ミシャさんに昨日の件について話してきた」
「ミシャは?」
「私の話を聞いたら同情して泣いてしまってな。恥ずかしいから1人にさせて、だそうだ」
「それでこっちに来たと」
「ああ」
そう言ってエリスは俺の隣に座った。
「私は……いい師匠に恵まれたな」
「そりゃミシャは俺の自慢の弟子で妹だからな!」
「そうか」
エリスはおもむろにこちらを向いた。
「ミシャさんだけではない。今回はおまえにも世話になった。ありがとう」
ニッコリと笑いかけられた。
ドクンと心臓が跳ねる。
これは……ヤバイ。
「どうした?」
「い、いやなんでもない!」
「……そうか。これもよろしくなマコト!」
だから笑いかけながら俺の名前呼ぶな。
というか突然デレるな!対応に困る!!
「……よろしくエリス」
「あ、街が見えてきたぞ!」
「ああ。あれがダルハイムか」
遠くに建物が見える。
(よし、だいぶ心は乱されたがこのままダルハイムに入ってうやむやにしよう)
(いっぱいいっぱいだね)
(正直な。じゃあ気を取り直して、ダルハイムへ……)
(ごー!だね!!)
まだ心臓バクバクいってやがる。
これはR-15指定したほうがいいんでしょうか?