愛弟子
チート神様!ありがとう!!
ミシャを拾った翌日、ミシャを連れて朝一番で冒険者ギルドに行った。
「ここが冒険者ギルド……中に入るのは初めてだ」
ミシャはギルドの中でキョロキョロしている。
「ミシャあんまり変なとこ行くな。受付いくぞ」
「う、うん!」
そのまま受付に行ってイリヤに挨拶をする。
「おはよう、イリヤ」
「おはようございます。マコトさん。今日はどのようなご用事ですか?」
ミシャのほうに視線を向けて言った。
「この子を冒険者ギルドに登録したいんだが……」
「この子をですか……?」
イリヤはミシャを見ながら目を剥いている。
「本人の希望でな。面倒は俺がちゃんと見る。ダメか?」
「い、いえ。こんな可愛らしい女の子がギルド登録するのは始めてで。でもマコトさんがついているなら大丈夫そうですね……あなた、お名前は?」
イリヤが腰を屈め、ミシャと同じ視線になって話しかける。
「み、ミシャです!」
ミシャも少し緊張しながら答えた。
「そう、ミシャちゃんって言うの。私は冒険者ギルド、ザイン支部受付のイリヤと申します。よろしくお願いしますね、可愛い冒険者さん?」
ミシャに手を差し出して握手する。
「はい!」
(うむ。美女と美少女が戯れている姿は絵になるな)
(そうだね~)
「それでは、さっそく登録の準備をしますね。まずは契約書を確認して、サインをお願いします」
イリヤがミシャに契約書を渡す。
「ミシャは読み書きはできるのか?」
「うん。孤児院にいるときに教えてもらった」
「そうか、じゃあ大丈夫だな」
ミシャは契約書を読み進め、サインをしている途中で手が止まった。
「どうした?」
「いや、名前だけで苗字がないと寂しいなと思って」
うぅん……そうだな。
「ミシャ、俺の武藤って苗字名乗っていいぞ」
ミシャがキラキラした目で俺を見てくる。
「本当にいいのか?」
「ああ、俺は一応おまえの保護者だからな」
そう言ってミシャの頭にポンッと手を乗せる。
「うん……ありがとう。イリヤさん。はい、これ」
ミシャがサインをした契約書をイリヤに渡す。
「はい。登録名はミシャ=ムトウ様でよろしいですね?」
「はい」
「それではギルドカードを発行しますね」
イリヤはタイプライターのようなものでなにか打ち込むと、ミシャに白いカードを手渡した。
イリヤからギルドカードとランクの話を聞いたあとでギルドを出た。
ミシャはギルドを出たあとも、自分のギルドカードずっと見ていた。
そしてなにかを思い出したように俺を見てきた。
「確か、マコトのギルドカードはシルバーだったよね?」
「そうだよ」
「ってことはマコトはBランクだったのか?」
「うん。見直したか?」
「うん、すごいよ!!」
こう、素直に反応されると少しこそばゆい。
だから、照れ隠しに隣を歩くミシャの頭を撫でた。
ミシャは気持ちよさそうに目を細めたあとに、少し不機嫌そうに俺に尋ねてきた。
「そういえば、イリヤさんと仲よさそうだったなマコト」
俺は頬をかきながらなんとなくイリヤさんのことを考える。
「そんなことはないと思うけど……」
「あたしには仲よさそう見えた。あぁ……でもイリヤさんいい人そうだし、複雑な気分……というか美人だし胸も結構……」
ミシャはなにか一人でぶつぶつ言いながら、最後に自分の胸に手を当てて、ため息をつきながら首を振った。
「なにしてんだ、ミシャ?」
「なんでもないっ!!」
(なんで怒ってるんだ?アスールおまえわかるか?)
(あるじさまは、おとめごころをべんきょうするべき)
(それとミシャが怒ってることになんの関係が?)
(……みしゃちゃん、むくわれないな)
なんでアスールまでちょっと怒ってるというか、呆れてるんだ?
俺が悪いのか?
「ミシャ、これからおまえに基本的な技術を教えていこうと思う」
「うん」
「それじゃあ、さっそくザインの外に出て特訓するぞ」
「わかった」
「あ、そうだ。その前にちょっと寄道していいか?」
「うん、いいけど……どこに?」
「リベンジしに行く」
「……リベンジ?」
そのままミシャを連れてザイン大通りを歩き、あの店へ。
「なんだここ……マジックアイテムショップ?なんでこんな店に?」
「ミシャも晴れて冒険者の仲間入りだし、必要なものを買おうと思って。あとは……」
「……あとは?」
「俺の矜持がかかってる」
店内に入った。
「たのもう!いつかの店員はいるか!?」
入り口付近で大声で叫ぶ。
「はいはい、そんな大声出さなくても聞こえてますよっと。おや?この前のお兄さんじゃないか」
ニヤつきながら俺のほうを見る。今日はカモでは終わらないぞ。
「今日はなんの御用で?おや可愛らしい娘さんつれて、いやぁ兄さんも隅におけな『世辞はいい!初心者3点セットとマナグラスを出せ!!』」
おまえの営業トークには乗らん!!
「はいはい、それじゃあ4点で23万フレだよ」
「安っ、いや、高い。割り引け」
「しょうがない兄さんだね、じゃあ21万フレでどうだい?」
「……まだだ。まだいける」
「兄さんこれでもぎりぎりなんだぜ?これ以上は無理だ」
そういって店員は困り顔になった。
それを見ていたミシャがおずおずと言ってきた。
「マコト……別にそれ以上安くしてもらわなくてもいいんじゃないか?向こうも困って『騙されるな』」
凄い低い声でミシャの反論を封じた。ありゃ演技だ。
「……店員、ちょっと耳を貸せ」
店員に近づいて耳打ちする。
(あんたこの前、俺にマジックアイテム使って、商品高く売りつけたろ?)
(おいおい、言いがかりはよしてくれよ。ウチはそんなアコギな商売してないよ)
そういって店員は離れた。
……まだ言い逃れするか。なら。
「これは独り言なんだが……うわさってやつは怖いもんだよな?事実も確認してないのに勝手に流れて評判を悪くしちまう」
店員を見据えながら、口の端を吊り上げて、悪そうにニヤリと笑う。
「なあ、あんたもそう思うだろ?」
「……15万だ。それ以上はもう無理だ」
まぁ妥当だな。
「よし、買った」
「……まいどあり。ったく。ひよっこがいっぱしの口きくようになりやがって」
「これからも贔屓にするぜ」
店員は額に手をあてながら商品を手渡してきた。
勝ったな。ブラッドオークやジャイアントモスを倒したときより嬉しい。
ほくほく顔で店を出る。
ミシャの顔が少し引きつっていた。
ザインを出て10分ぐらいの草原に来た。
「さて、じゃあ早速だがこれをかけてみろ」
「これは?」
「それはマナグラスって言ってな、とりあえず魔術が使えるか判定するもんだ」
「ふぅん」
興味深そうに一瞥してからミシャはマナグラスをかけた。
「なんか、靄みたいなものは見えるか?」
「う~ん。ごめん見えない……」
だめだったか、魔術が使えれば便利なんだが……
そのまま空を仰ぐ。
どうにかならないかな?チートの神様?
すると、アスールから青い光が出てきて、ミシャの体にまとわりついた。
「うわっ!なんだこれ、光が体の中に……!?痛っ!それになんか熱い!!」
これは……お力を貸してくださるのですか!?チート神様!!
ミシャの小さな体が痛みにのたうちまわる。
すまない弟子よ……今は耐えてくれ。そして無力な師を許しておくれ。
1分ぐらいして痛みがひいてきたようだ。
「ミシャ、大丈夫か?」
ミシャは顔にうっすら汗を浮かべ、荒い呼吸を整えていた。
「なに、今の?凄い痛くて熱かった……」
「今はどうだ?」
「ちょっと体が熱いけど、大丈夫」
そう言ってミシャは立ち上がった。
「あれ?なんか体が軽い?」
「ミシャ、あっちのほうに軽く走ってくれないか?ただし、絶対に全力は出さないで。できるか?」
「う、うん。やってみる」
ミシャは走り始めた。
「わ、わっ……なにこれぇぇえっ!!??」
時速200キロぐらいかな?
そのあと戻ってきたミシャに力の説明をする。
最初は半信半疑だったが、いろいろ試していくうちに納得したようだ。
「これ、本当に凄いね……」
「凄いだろ?ただし、基本的に全力は出すなよ」
「なんで?」
「危ないってのもあるし、あと空気摩擦で服が燃える。本気で動いたら、30秒で全裸だぞ?」
「ぜ、ぜったい全力ださない!!」
全裸を想像してしまったのか、顔を真っ赤にして叫んでいた。
「あと忘れてはいけないことが一つある」
「なに?」
「力を貸してくれたチートの神様に感謝を」
「え?」
「感謝を籠めて『チートの神様!ありがとう!!』って言ってごらん」
「えぇ!?」
「いいから、言ってごらん?」
「ち、ちーとの神様!ありがとう!!」
すると、指輪からまた青い光がミシャを包んだ。
「ま、また!?あれ……でも今度は痛くない……」
「どうやらチート神様が喜んで、また力を貸してくれたみたいだな。ということは……ミシャもう一回これをかけてみな」
マナグラスをミシャに手渡す。
「あ、赤いのと緑色の靄が見える!!」
火と風か。
「ミシャ、これでたぶんおまえにも魔術が使えるようになったはずだ」
「本当に!?」
「ああ、論より実戦だ。まずは古代魔術から教えてやる」
そのまま古代魔術を使わせてみたが、問題なく、魔力も俺レベルだった。
「次は四精魔術だな。ミシャは火系統と風系統が使えるみたいだ」
「火と風……」
「古代魔法と違って、こっちは少しコツがいる。まぁたぶん俺と同じように呪文詠唱も魔導器もいらないと思うが」
そのままミシャの後ろに回りこみ、腕をとって少し離れた岩に向けさせる。
「うわ、わ……」
ミシャが俺の腕の中で暴れる。
「ミシャ、暴れるな。集中しろ。怪我するぞ?」
「わ、わかった……うぅ」
「自分の周りにマナがあるのは感じるか?」
「……うん」
「それじゃあ、そのマナを息を吸い込むように体に取り込んでみな、最初はゆっくり、少しづつ……」
「大丈夫みたい」
「よし、それじゃあ頭の中で火の玉が手からでるイメージを持て」
「できた」
「そのイメージを持ったままで手のひらから魔力を解放しつつ、ファイヤーボールって唱えてみな」
「……『ファイヤーボール』」
ボッツ!
ドンッ!!
「できた…できたよマコト!!」
「ああ、よくやった。ミシャ偉いぞ」
ミシャの頭を撫でてやる
「……うん。ありがとう」
「それじゃあその調子でどんどん行くぞ!!」
「うん!あ、そうだ……ちーとの神様!ありがとう!!」
ここにもう一人チート神信者が生まれた。
そのまま気配の探り方や力加減の仕方などを教えて、魔術にいたっては、複合魔法も使えるようになっていた。
訓練が一通り終わったので木陰で休憩していたのだが。
(疲れて寝ちまったな)
(おこすの?)
(いや、宿までおぶっていくよ)
木に寄り添って眠ってしまったミシャを優しくおんぶし、ゆっくりと歩いていく。
(ワノクニ亭まで帰るか)
(ごー!だね!!)
背中で寝息をたてる可愛い弟子を起こさないように、ゆっくりと帰った。
そろそろ装備をそろえていこうかと思ってます。