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ザインの長い一日 後編

私は断じてロリコンじゃありません。



ミシャを連れてワノクニ亭まで歩いた。


「女将さ~ん!」


玄関で女将さんを呼ぶ。


「はいはい……その子はどうしたんだい?」


ミシャを見て女将さんは驚いたように口元を押さえた。


「ちょっとそこで拾ってきたんだ」


「拾ったって……」


女将さんはさらに驚いたが、それから少し怒ったように言った。


「こんなに汚れちゃって……マコトさん。あなたがなにかしたわけじゃないんでしょうね!?」


「いや、俺はなにも『マコトはなにもしてない!むしろあたしを助けてくれたんだ!!』」


ミシャが大きい声で俺の言葉をさえぎった。ナイスフォロー。


「なるほど、そういうことね」


女将さんはなにか得心したように頷いた。


「それで女将さん、今日はこの子の分もご飯を用意して欲しいんだけど。お金はちゃんと払うから」


「いや、お金なんていいよ。それよりマコトさん、この子をちょっとあずかるよ?」


「と言うと?」


「こんなに汚れてちゃ、せっかくのべっぴんさんが台無しだ。だからお風呂で体洗って、綺麗な服着させてあげるの」


「いや、そんなことは『よろしく、女将さん!』」


今度は俺がミシャの言葉をさえぎった。


「ミシャ。人の好意は素直に受け取るもんだ」


「でも……」


「いいんだよ!私が好きでやってんだから。さ、靴脱いでこっちきな!!」


「あ、ちょ、ま……」


そのまま女将さんはミシャを引きずってお風呂場のほうへ……


「マコトさ~ん!ご飯までもうちょっと時間かかりそうだから、部屋でくつろいでておくれぇ~……」


「ごゆっくり~」


徐々にフェイドアウトしていく2人に手を振って部屋に戻った。




(はぁ……なんだか今日は疲れたな)


一人畳の上でごろごろする。


(ぼくもつかれたよ……)


なぜかアスールもげんなりしている。


(アスールは特になんにもしてないだろ?)


(せいしんてきに、だよ。いろんなことがあったし、どんかんなおとこもいるし……)


(誰、それ?)


(しらなぁい。はぁ……)


よくわかんないな、今日のアスールは。


コンコン


扉がノックされた。


「はいは~い。開いてるよ」


引き戸を開けて女将さんが入ってきた。


「ごめんねマコトさん。なかなかミシャちゃんの服が決まらなくて……」


とは言うもののミシャの姿が見えない。


「肝心のミシャはどこに?」


「そこにいるんだけど、恥ずかしがって出てこないんだよ。ほら!おいでミシャちゃん!!」


女将さんがミシャの腕を引っ張って、強引に部屋に上がらせた。


「うぅ~……」


ミシャは顔を赤らめ恥ずかしそうにモジモジしながら立っている。


お風呂あがりだからだろうか、髪はサラサラ、お肌スベスベだ。


髪の色と同じような緋色の腰丈の着物を黒地に緑の帯でしめ、下にはスパッツのようなものを履いている。


「本当はちゃんとした着物を着せてあげたかったんだけどね、ミシャちゃんが動きづらいのは嫌だって言うもんだから……どうだい?」


(うん。ミシャの活発な感じに合ってるし、なんか妙に仕草とかがかわいい)


(ろりこんなの?)


(断じて違う。これは小動物を愛でてるようなもんだ)


(そっか、ざんねん)


(なんでさっきと言ってることが違うんだよ?)


(ぼくは、こいするおとめのみかただから)


(意味がわからん)


ミシャは俺の答えをうかがうように、頬を染めながら上目使いで俺を見ている。


「どう……だ?変じゃないか?」


「うん。よく似合ってるよ」


そう言いながらミシャの頭を撫でてやる。髪の毛がふわふわして気持ちいい。


ミシャも頭を撫でられて気持ちよさそうな顔だ。


うわ、耳と尻尾がパタパタ動いてる。かわいいな。


(ろりこ……)


(違う!)


「うん。気にいったみたいだね。ミシャちゃん。その服はあげるよ」


「えっ、いいの女将さん!?」


「ええ。その服だって似合う子に着てもらって喜んでるよ」


「ありがとう……」


「どういたしまして。それじゃあ私は夕飯の仕度をしてくるよ。すぐ食べるかい?」


「うん。ミシャも俺も腹ペコだから、お願い女将さん」


「はいよ」


そう言って女将さんは階段を降りていった。






「「ごちそうさまでした!」」


「はい、お粗末さまでした。マコトさん、お茶はちゃぶ台の上に置いておきますよ」


「ありがとう女将さん」


「それじゃあ失礼します」


女将さんは食器をさげて部屋を出ていった。


「あたし、あんなに美味しい料理初めて食べたよ!」


「だろ?ここのご飯は最高だ」


ミシャとちゃぶ台をはさんで話す。ふぅ、お茶がうまい。


「マコト……今飲んでるのはなに?」


「ああ、これか?これは緑茶っていうワノクニの飲み物だ。飲むと心が落ち着くぞ。飲むか?」


「いいのか?」


「おう。あいよ」


ミシャに俺が飲んでいた湯呑みを渡す。


「え、このまま……これって間接……」


ミシャはなぜか頬を染めて湯呑みを凝視している。


「飲まないか?じゃあ、湯呑み返して……」


「待て、飲む!飲む飲む!!」


「お、おう。どうぞ飲んでくれ。ただそんなに慌てて飲むと……」


「熱いっ!!」


「ほら、言わんこっちゃない。というか、猫っぽいと思ったら本当に猫舌なんだな」


ミシャは舌をパタパタ手で扇ぎながら、こっちを恨めしそう見ている。


「猫舌はともかく、なんでマコトはこんな熱いの飲めるんだ?」


「日本人だからなぁ……」


「ニホンジン……なんだそれ?」


やべ……口が滑っちゃった。


「なんでもない。気にすんな……」


「ふぅん……」


ミシャはなぜか不満げだ。まぁいい、それより……


「さてと。ミシャ聞きたいことがあるんだけど」


少し真剣な顔でミシャに話しかける。ミシャもなにか察したようで真剣な表情になる。


「……なんだ?」


「どうしてジーノなんかと一緒にいた?」


空気が少し硬くなった気がした。


「それは……マコトも話聞いてたんだろ?あたしはジーノに拾われたんだよ」


「その経緯は教えてくれないのか?」


ミシャは押し黙ってしまった。


「まぁ……話したくないなら、無理に話さなくてもいい」


少し迷ったようだが、ミシャはうつむいたまま、ぽつぽつと喋り始めた。


「あたしは……あたしは昔孤児院で暮らしていたんだ」


「そうなのか」


「うん。物心ついたときには、もう孤児院にいて、孤児院の暮らしは貧しかったけど、でもみんなと一緒にいたから楽しかった」


「それで?」


「孤児院の経営が危ないのは知ってたんだけど、つい2週間前ぐらいに潰れちゃって。それで孤児院にいた子供はあたしを含めてみんなバラバラの里親に引き取られた」


経営難で孤児院が潰れたね。どこの世界もそういうところは変わらないな。


「あたしも里親に引き取られて、わりと裕福な家で、よかった。ここでなら生きていけると思った。でも、引き取られた2日目の晩に、里親が商人と喋ってるのを聞いたんだ」


「その商人ってのは?」


「奴隷商人さ。孤児なんかを引き取って、貴族に売りつけるんだ。あの里親、あたしが高く売れるって聞いて、高笑いしてた。あたしが盗み聞きしてるのも知らないで」


奴隷商人か。盗賊ギルドの話といい、この世界もけっこうキナ臭いな。


「その晩に里親の家から飛び出して、町の外に行く馬車に忍び込んだ。馬車の中に何日か潜んで辿り着いたのがこのザイン」


「そこで路頭に迷ってるミシャを拾ったのがジーノってわけか」


「そう。あとはマコトもご存知の通りだよ」


なんか壮絶な人生だな。でもちょっと俺に似てるかもな。


「ミシャも一人ぼっちだったんだな」


「マコトもそうなの?」


「いや、俺は周りに恵まれてたから今は一人ぼっちじゃない。俺の帰りを待ってくれてる人もいる」


グレオやギジェットさんは元気かな?


「よかったね」


「ああ、それに俺にはいつでも一心同体の相棒がいるしな」


「相棒?」


「アスール。普通に喋っていいから自己紹介しな」


(ほんとにいいの?)


(ああ)


「こんばんは!ぼく、あすーる。あるじさまといっしょにたびをしてるんだ!!」


ミシャが驚愕の表情している。


「俺の相棒。喋る指輪のアスールだ」


「あるじさま、あいぼうじゃないよ。おともだよ!」


「大して変わんないだろ」


「だいもんだいだよ!ぼくのぷらいどがかかってる!!」


「そんなもん知らん」


「あるじさまのばか!」


……


「「いつもこんなもんだよ」」


ミシャはすごく面白い顔をしている。


「意思があるマジックアイテムなんて初めて見た……」


「まぁ、普段は念話使ってるから喋る必要がないんだけどな。アスールが話せるのを知ってるのは、俺以外で2人目だぞ、ミシャ」


「すごいことだよ!あるじさまは、なかなかほかのひとのまえでしゃべらせてくれないんだから!!」


「あ、ありがとう」


ミシャは困惑しているようだ。





「さて、ここからが本題なんだが……ミシャ、おまえどこか行くアテはあるのか?」


「……ない」


「そうか、じゃあ俺のとこにいろ」


「えっ、でも……」


「金のことだったら気にしなくてもいい。意外と俺は甲斐性があるんだ」


「でも、あたしなんていても迷惑なだけだよ……」


「さっきも言ったけど、俺も最初は一人ぼっちだったからわかる。飯と寝る場所くれる人の優しさや、ありがたさを。だからそういうときは、素直に甘えればいい」


「……」


「ミシャは今までいろんな大人に騙されてきたけど、今度は大丈夫だ」


「……」


「それとも、会ったばっかりの俺や女将さんじゃ信用できないか?」


「そんなことないッ!!」


ミシャは半泣きで叫んだ。


「だったら、俺たち大人にもうちょっと甘えてくれ、ミシャはまだ子供なんだから、な?」


そう言ってミシャの頭を撫でてやる。


「ぐすっ、うぇ……ありが、とう……ヒックッ……」


とうとう本格的にミシャが泣いてしまったので、頭を撫で続け、泣き止むのを待った。


(なかせた!おんなのてき!!)


(女性の扱いは苦手なんだよ!)


そのまま15分ぐらいしてミシャが泣き止んだ。


「……少しは落ち着いたか?」


「うん……ありがと」


目を真っ赤にしてちょっとくしゃっとした笑顔を見せてくれた。なんとなく愛おしく思える。


(ろり……)


(黙れ。アスール)


「ミシャ。なんかやりたいことあるか?」


グレオに言われて嬉しかったことをミシャにも聞く。


「あたしは……。あたしもマコトと同じ冒険者になりたい!」


「大変だぞ?」


「それでも、やりたい!」


決意は堅そうだな。


「……わかった。ミシャがそう言うなら、俺が全力でサポートしてやる」


「うん!おねがい!!」


「素直でいい子だ」


もう一度頭を撫でてやる。


トロンとした表情が本当に可愛らしい。


(ろ……)


(もう口きかなくなるぞ?)


(ごめんなさい)


「それじゃあ明日は朝一番でギルドに行くか」


「うん!」


「よし、そうと決まったら寝るぞ!!」


「「お~う!!」」


女将さんに頼んでもう一組布団を用意してもらった。


これからミシャも泊まるということで、料金を払おうとしたが、女将さんが受け取ってくれなかったので、無理やりカウンターに捻じこんできた。


「それじゃあ、おやすみアスール、ミシャ」


「おやすみ、あるじさま、みしゃちゃん」


「おやすみ、マコト、アスール」




(このまま夢の中まで……)


(ごー!だね!!)









本当に長い一日だった……


女の子書くのは大変ですね。

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