ザインの長い一日 前編
やっと女の子とからめます。
ザインまで到着し、その足で冒険者ギルドまで出向いた。
「頼まれていた依頼、やってきたぞ」
この前と同じ受付嬢に話しかけた。
「もうですか!?まだ3日しか経ってないのに……」
「ああ。はい、これ」
「ジャイアントモスから剥ぎ取ったクリスタルをカウンターに置く。
「少々お待ちください。ただいま副支配人を呼んでまいります」
クリスタルを受け取ると受付嬢は奥に引っ込んだ。
(おどろいてたね)
(まあ本来俺はFランクだからな。大方失敗するか時間がかかると予想してたんだろ)
(ふ~ん。でもこれで、ちゃんとみとめてくれるよね?)
(たぶんな)
受付嬢とゼクトはすぐに戻ってきた。
「いや、お早いお帰りでしたね。驚きましたよ」
ゼクトは若干わざとらしく驚きながら話しかけてきた。
「依頼は成功でいいのか?」
「はい。クリスタルも鑑定しましたが、ジャイアントモスのもので間違いないようです。あとは依頼主の村長に伝書鳩を送って確認を取りますが、おそらく大丈夫でしょう。成体さえいなければ、卵は一般人でも駆除できますからね」
「そうか。で、俺のランクはどうなる?」
「それは先日お話しした通りBランクに認定されますのでご安心を」
とりあえずは一件落着かな。
「報酬についてですが、100万フレのほかに、このクリスタルも買い取りたいのですがよろしいですか?」
「ああ。構わない」
「では依頼の報酬金額とクリスタルの買取額を合わせまして、180万フレになります。お受け取りください」
ゼクトから報酬を受け取る。
「あとの詳しい話は、このイリヤにお聞きください」
受付嬢――イリヤがお辞儀をしてきた。
「では、私は仕事がありますので失礼いたします」
そう言ってゼクトは奥に消えていった。
「Bランク認定、おめでとうございます。引き続き、私がお話をさせていただきます」
よくよく見ると、イリヤはなかなかかわいい。
服装はゼクトと同じだが、ブラウンの髪を頭のうしろで結い、ポニーテールにしている。顔は人受けがよさそうで目がクリっとしているのが特徴。
なにより……
(意外と胸が大きい)
(あるじさまのえっち)
(俺だって健全な青年だ!)
(……)
「あの……なにか不備がございましたか?」
じぃ~っとイリヤを見ていたら首をかしげられた。かわいい……じゃない!
「いや、なんでもない!説明を続けてくれ」
(むっつりあるじさま)
(うるさい!)
「は、はい。それではこちらがギルドカードになります」
イリヤから銀色のカードを渡された。表面には冒険者ギルドのモチーフである剣のエンブレムが象られている。
「裏面をご確認ください。お名前が記載されているはずです」
確かに名前は記載されているが……
「ランクは載ってないのか?」
「ランクに関しては、ギルドカードの色で判断します。Fが白、Eが緑、Dが赤、Cがブロンズ、Bがシルバー、Aがゴールド、そしてSランクは黒です」
「なるほど」
俺はBランクだからシルバーと。
「これからはBランク以下の依頼は自由に受けていただけます。あちらの依頼ボードから好きなものを選んでいただいて受付まで持ってきてもらえば受注できます」
あとでちょっと見てみよう。
「それと、ランクに関してなんですが……少しお耳を拝借してよろいしいですか?」
イリヤに耳をよせる。ちょっと恥ずかしい。
(今回のマコトさんのBランクへの昇進は、はっきり言って異例です。冒険者ギルド内でも話題になっています。ですので、ほかの冒険者のやっかみやチームへの強引な勧誘があるかもしれません。お気をつけください)
「わかった。注意する」
「……私からの説明は以上です。なにかご質問はありますか?」
「特にない。ありがとう」
「ではこれからのご活躍楽しみにしています。がんばってください、マコトさん!」
「ああ、期待に添えるようにがんばるよ」
キザったらしく答えて受付をあとにする。
(ああ、イリヤさん癒されるなぁ~)
(でれでれだね)
(否定はしない)
そのまま依頼ボードを確認しようと歩きだすが、嫌な気配を感じる。
あの3人か……忠告を受けて早くも面倒なことになりそうだな。
3人の男がテーブルに座って酒を飲みながら俺を見てニヤニヤしている。
(正直、面倒事はごめんだ。今日は宿に帰ろうアスール)
(わかった)
踵を返してギルドを出る。
大通りを歩いて宿に向かおうと思ったが、さっきの3人が尾行してきた。
(まだついてくるか)
(どうするの?)
(とりあえず話をつけるか)
大通りを逸れて脇道に入る。
それから適当な角に身を隠した。
男たちは俺を見失ってキョロキョロしている。
角から出て、男たちを睨みつけた。
「俺になんか用か?」
男たちの表情が一瞬凍ったが、すぐにさっきのニヤニヤ笑いに変わった。
そしてリーダーらしい男が話しかけてきた。
「そんな怖い顔しなさんな!別にケンカ売りにきたわけじゃねえ。オレの名前はジーノだ。あんたの名前は?」
「……真だ」
「マコトか……いい名前だ」
「どうして俺を尾行してきた?」
「なぁに。最近うわさのルーキーがどんなやつか気になってな」
「それだけか?」
ジーノはニヤケ面から一転して、困ったような表情をした。
「いやあ……それがな。最近依頼の失敗続きで生活が苦しくて。どうしようかと思っていたところにあんたが来た。オレは確信したね!これは運命だと!!」
「なにが言いたい?」
「人助けだと思ってオレらとチーム組んでくれねえか?」
「俺になんのメリットがある?」
「オレはこう見えて顔が広いんだ。結構役にたつぜ?」
正直とてもそうは思えない。
「残念だが、俺も自分のことでいっぱいいっぱいだ。他をあたってくれ」
そのまま大通りに歩いて行く。
「おい!待ちやがれ!!」
ジーノの手下の一人が俺の肩をつかもうとする。
「よさねえかっ!」
それをジーノが一喝して止める。
「すまねえな。ウチの連中は血の気が多くてならねえ。今日のところはオレも諦めるぜ」
つまりまた来るってことか……やっかいだな。
そのまま歩いていって、大通り出た瞬間。
ドンッ!
赤い髪の獣人の子供がぶつかってきて、すぐに走り去っていった。
(なんだあれ……?)
(さぁ?)
「あぁ、やられちまったな」
うしろからジーノが声をかけてきた。
「なにがだ?」
「スリだよスリ。あんたを狙ってたんだろ」
外套の中を確認する……ッ!!
「金を入れた袋とギルドカードがない……」
「やっぱりな」
ジーノはやれやれといった表情をした。
そして、ニヤッとした顔で俺に向かって提案してきた。
「どうだい兄さん。俺たちがあのガキ捕まえて、あんたのギルドカードと金を取り返したらオレらのチームに入ってくんねえか?」
……
「悪い条件じゃないと思うがな?」
「……考えておく」
「今はそれで十分だ。取り返したらあんたの泊まってる宿まで行くから、それまでに決めておいてくれ。じゃあな」
ジーノたちはそのまま去っていった。
一度ギルドに戻り、イリヤに事情を話したが、
「申し訳ありません……一度発行したギルドカードを再発行するには、手続きの関係で3ヶ月近くかかってしまうんですよ」
「その間は依頼を受けられるのか?」
「規則で原則不可になっています……本当にすいません」
「いや、イリヤが悪いわけじゃない。俺の不注意だ。手間かけさせたな」
そのままギルドを出る。
それからザイン大通りを中心にスリを探したが。日が落ちるまで探しても見つからなかった。
「クソ……!」
(あるじさま、きょうはあきらめてかえろう?)
(……ッチ!しかたないか)
とりあえず今日はワノクニ亭に戻ることにした。
ワノクニ亭の前まで行くと、俺から金とギルドカードを盗んだ赤髪の獣人の子供が入り口近くに立っていた。
「あいつ!」
俺が駆け寄ろうとすると、相手も気づいたようだが、なぜか逃げない。
スリまで歩み寄り怒鳴りつける。
「おい!俺のギルドカードと金かえ……」
すると、スリが突然俺の目の前に袋を差し出した。
「ごめん!これ……」
呆気にとられるて袋を受け取り中身を確認する。
金も減ってないし、ギルドカードもちゃんとある。
「なんで……」
「本当にごめん!!大切なもの盗んで……じゃあ」
そう言うとスリは走り去っていった。
(どうするの?)
(追いかけるに決まってんだろ!)
そのままスリを尾行する。
(まさか狩りの技術をこんな街中で使うとは……)
(ぐれおさんにかんしゃしなきゃね)
(そうだな)
スリを尾行しながらアスールと話す。
スリは妙に用心深くて、歩きながら何度もキョロキョロと周りを見る。
まあ、だけど、俺は少し前までずっと野生動物と森の中で鬼ごっこしてたんだ。
一般人相手に見つかるわけはないし、見逃しもしない。
(だけど変だな……)
(なにが?)
(普通はスリが盗んだものをそのまま持ち主に返さないだろ。しかも直接渡しにくるなんて)
(たしかに)
(しかも妙に焦ってるしな)
(そうなんだ)
そうしているうちに、大通りからだいぶ外れた裏通りの建物に入っていった。
俺は扉の隙間から中の様子を盗み見る。
建物の中にはスリ以外に3人の男がいる。
「あれは……ジーノたちか」
なんとなく読めてきた。
聞き耳をたてて会話を聞く
「おい、こんな時間までどこにいってた?」
「……」
「答えろ!」
「……お金とギルドカードを持ち主に返してきた」
「てめえ……なんてことしやがる!!」
言葉と共にジーノが子供を殴りつけた。
「うわっ!」
顔面を殴られて地面の転がる。
「てめえのせいで計画がパアだ!なんのためにおめえを拾ったと思ってやがる!?」
「拾ってくれたことには感謝してる……でも、でも!人の大切なもの盗んだり、それを使って騙したりしたくないんだ!!」
「うるせぇ!この恩知らずがっ!!……もういい。ここで死ね」
手下が子供の腕と足を押さえつける。
ジーノが腰からナイフを抜いた。
(これ以上は見てられないな。いくぞアスール!)
(うん!)
扉を蹴破って中に入る
「「「「!?」」」」
中の4人の顔が驚愕に変わる。
「エアバレット」
シュシュシュッ
間髪いれずに魔法を放ち、手下2人を昏倒させ、ジーノのナイフを吹き飛ばす。
「まったく、今時流行らないテンプレートの子悪党っぷり発揮しやがって」
「て、てめぇっ!なんでここに!!」
「はっ。セリフまでテンプレートか……その子のあとを尾行してきたんだよ」
チラッと子供のほう見る。
「じゃあ……」
「話も全部聞いてたし、俺を騙そうとしてたのも知ってる。ったく、ここまで来るとマジでご都合主義だな」
「わけわけんねえこと言ってんじゃねえぇぇええっ!!」
ジーノが右腕を振り上げて叫びながら走りよってくる。
「だけどな……」
殴りかかってきた右腕をスウェーで避けて、カウンターストレートを顔面に叩き込む。
「……俺はご都合主義が大好きなんだよッ!!!」
グシャッと鈍い音がしてジーノが錐揉みしながら吹き飛ぶ。
……やりすぎちゃたかな?
そのままジーノの脈を確認したが、生きているようだ。
まあ顔面は酷いことになっているが、因果応報ってことで。
「……生きてるのか?」
うしろから子供がおずおずと聞いてくる。
「ああ、一応手加減したからな」
そう言って子供に向きなおる。
年齢は12歳ぐらいかな。
赤い髪に同じ色の瞳。セミショートの髪の中に猫の耳のようなものが見える。
薄汚れた服の隙間から細長い尻尾も見える
「獣人族か……」
「なんだ、珍しくもないだろ?」
そう言う子供に近づき、顔に手を当てて怪我の具合を診る。
「これは腫れそうだな」
「わっ……馬鹿離せ!!」
俺の手を振りほどいて後ずさる。妙に頬が赤い。いや、殴られたとこじゃないよ?
「……なに照れてんだ?」
(あるじさま、このこおんなのこだよ)
「えっ?」
顔をよく見る。少しツリ目気味だが凛とした瞳。綺麗に通った鼻筋。小さめ唇に少し泥に汚れているが白い肌。
シャツとハーフパンツから覗く手足は長くしなやか。
そして胸も若干膨らんでいる。
(なるほど、よくよく見れば女の子……美少女と言ってもいいな)
(ろりこん?)
(あと5年後ぐらいは楽しみだけど、残念ながら今のあの子には欲情しない)
(よかった)
「なにを人のことじろじろ見てるんだよ!」
俺のことを睨みながら騒ぐ。
「おまえ女の子だったんだな。気が強いから男だと思ってたよ」
思ったことを口にする。
「なっ……当たり前だろ!勘違いするんじゃない!!」
(怒られた……)
(あるじさまは、おとめごころがわかってないね……)
(うっさい!)
「せっかく綺麗な顔してるんだ。女の子だったらなおさら顔にあざなんて残したくないだろ?怪我、見せてみな」
「綺麗なって……いやいや、違う違う!」
真っ赤になって頭抱えながら顔振ってる。なんだか知らんけど面白い子だ。
「ほら、手をどかせ」
右手で腕をとって、患部に左手を添える。
「ちょっ、なにして……」
「ホーリーヒール」
左手から出た白い光がジーノに殴られた頬に染み込んでいき、あっという間に怪我が治っていく。
(ごういんだなぁ……)
(言うこと聞かないやつはこんなもんでいいんだよ)
(まったくあるじさまは……)
最近アスールが愚痴っぽい気がする。
「よし。これで大丈夫だろ」
殴られた痕はきれいさっぱりなくなった。
「今のは神官魔術……おまえ神官なのか?っていうかさっき風系統の魔術も使ってたよな!?どういうことだ??」
「秘密だ」
「秘密ってそんな……」
「そんだけ元気なら、もう大丈夫そうだな。もう悪いことするなよ。じゃあ俺は行くから」
そのまま蹴破った扉のほうへ歩いて行く。
「あっ……待って……」
きゅうぅぅぅぅ……
なんかかわいい音がした。
女の子のほうへ振り向く。
「今のお腹の音か?」
女の子は顔を真っ赤にしてうつむく。
沈黙は肯定と見なす。
「腹減ってるなら、飯食わせてやろうか?」
「えっ……ホントに?いいのか!?」
嬉しそうな顔でこっちを見つめてくる。
現金な子みたいだな。
「とりあえず俺の宿まで行くからついてきな」
「あ、うん!」
女の子は俺のうしろにとことこついてくる。
「おまえ、名前は?」
「ミシャだ」
「ミシャか。俺の名前は真。武藤 真だ。一応覚えといてくれ」
「わかった。マコト!」
(嬉しそうだな。そんなに腹減ってたのか?)
(のーこめんと)
(なんだよ、それ?)
(きづいて、あるじさま。いや、おうじさま?)
(ますますわからん)
(はぁ……まぁいいや。はやくかえろうあるじさま)
(おう。余計な荷物が増えたけど、当初の予定通りワノクニ亭に……)
(ごー!だね!!)
なんか疲れたな……
後編に続く。