プロローグ
できれば読んでやってください。
大学4年になって早7ヶ月。つまり11月。
「無理だ……あと1ヶ月で終わるはずない……」
深夜2時、薄暗い部屋の中、パソコンの前で一人頭をかかえる。
目の前の画面はほとんどまっしろだ。
「卒論提出しないで留年とかダサすぎる。ってか母ちゃんに殺される……」
自分で言うのもなんだが、アホな状況になっているもんだ。いや、冷静になる前に状況を打開しないと。
30分ほど粘ってみた、が
「……はい。なんにも変わりませんでした、と」
なにも言わないで。わかってるから。
とりあえずタバコでも吸おうかと箱に手をのばすが、軽い。中身ない。さらに萎える……
なにか気分転換になるようなものはないかと、きょろきょろすると、パソコンラックの上にある箱に気がついた。
「いいかもしれない。ちょっと試してみよう」
ラックの上から箱の中身を取り出してみる。
「インド人?から買った怪しいお香〜」
その名の通り謎のインド人?から買ったお香。額になんかつけた彼の説明によると、これを焚きながら寝ると別世界に飛べるらしい。
もう今日は論文も書く気はないし、ストレス軽減にはピッタリだね!
ライターで火をつけて、灰皿の上に置き、ベッドに横になる。
甘ったるい匂いが部屋中に広がってきた。
「あぁ……なんかキマってきた」
冗談だ。でもなんだか妙に眠くなってきた。催眠効果でもあるんだろうか?
「目が覚めたら卒論が終わってますように……」
俺はそのまま眠りに落ちていった。
……声が聞こえる。なんだか優しい声が。
あたりを見渡してもなにも見えない。自分の体さえも。完全なる闇。
「な、……か」
また聞こえる。さっきより鮮明い。しかし体の感覚もない。こりゃ夢かな。
「汝は、何を欲する?」
はっきり聞こえた。男か女かわからない不思議な声が。
「汝は、何を欲するのだ?」
また聞いてきた。なにが欲しいか……そうだな、とりあえず卒業論文がない世界かな。
「それだけか?」
言葉に出していないのに伝わったようだ。いや、今俺は喋れないのか。
「それだけでよいのか?」
催促された。意外とせっかちだな。まぁ今はとりあえずほかのものはいいかな。
「ふむ、無欲だのう。まあ、あちらでも苦労しないほどの力は与えよう」
サンクス。
「では、送るぞ」
おう。なんか知らないけどドンと来い。どうせ夢だ。
「転送開始」
その言葉とともに、闇の中に小さな白い光が見える。しばらくすると、その光に吸い寄せられる感覚が襲ってきた。
こりゃダイ○ンもビックリな吸引力だな……なんて考えていると、後ろほうから声がした。
「あちらの世界にお共を用意した。詳しい話はそやつから聞くといい」
よくわからないけど、ありがとう。じゃあ吸われてきます。
「息災での」
その言葉を最後に。視界は白一色に……
「空がきれい」
白い光が収まると、なぜか仰向けで空を仰いでいた。
体を起こして周囲を見回すと、どうやら草原のようだ。空気もおいしい。
風も心地いいし、陽気も春っぽくて、いい昼寝日和だ。
「って、夢の中まで寝ようとしてどうすんねん!?」
……一人ツッコミをしてしまった。なんだかちょっと寂しい。とりあえず虚空にむなしく振りぬかれた手でそのまま頭叩く。
「まいったね、こりゃ……あ?」
痛い。叩いた頭が痛い。
あれかな。お約束もやっちゃおうか。
「うん。つねったほっぺも痛い」
ポケットの携帯も調べたが圏外。メールの受信BOXも見たが、ちゃんと読める。夢じゃ文章は読めないはずだからな。これは確定かな。
「これはリアルじゃあ!」
吼えてみた。依然として状況変わらず。
……どうしよう?てか、ここどこよ?
ぽかーんと、空を見上げる。
「空が青いねぇ」
のどかだ。
「おちついてるね、あるじさま」
後ろから少し舌足らずで子供のような声がした。後ろに顔を向けると、指輪が落ちている。金色の輪に青い宝石がちょこんとついている。
「きこえてるね?」
指輪のほうからまた声がした。
「……指輪が喋ってるのか?」
「うん。それにしても、あるじさまはじゅんのーせーがたかいね。ふつう、もっとおどろくよ?」
「いや、十分に驚いているんだが、頭の回転が追いついてないのかもしれない。こんな状況だし」
「じゃあ、ぼくがじょうきょうのせつめいをするよ」
この指輪は頭の回転が速そうだ。いや、そもそも指輪に頭はあるのか?今はそんなことどうでもいいか。
「とりあえず、ここはどこなんだ?」
「ここは“えるがいあ”というほし。くわしいばしょはわからないけど、あるじさまのいたせかいからみると、いせかいみたいだね」
「異世界?」
「うん。いせかいだよ」
「……」
「……?」
「マジか?」
「まじだよ!」
元気いっぱいに言われちゃった。
「異世界か、まあそれは置いといて、俺はなんでここにいるんだ?」
「それは、あるじさまがのぞんだからだよ」
うそぉん。
「あるじさまが“そつぎょーろんぶん”のないせかいをのぞんだから、ここにおくられたんだよ」
「確かに卒論はないんだろうけど、それどころじゃ……」
「よかったね、あるじさま。おねがいがかなったよ!」
ソウデスネ。
「どうすりゃいいんだ。俺は帰れるのか?」
「むりだね。このせかいでいきてくしかないよ」
バッサリ。
「声質のわりに厳しいな、おまえ」
「おともだからね」
どこか誇らしげだ。
「あるじさまはなにがしたいの?」
どうしようかな〜。あんまり思いつかないな〜。……とりあえず本能に従うか。
「まずは、飯だな」
「じゃあ、とりあえずたべものさがしにいこう!」
そこからか、まあなんとかなるだろう。
おもむろに立ち上がって、近くに落ちている指輪を拾って、俺はなんとなく歩きだした。
旅の始まりだ。
描写がぬるいっすね、次がんばります。