Act.8「いただきますの前に」
やがて彼女が戻って来た。
「出来たよ~。ご飯よそってくれる?」
彼女の手には丼が一つ。
「あれ?一つだけ?お前のは?」
「あたしはお風呂入るから、その間に食べててもらおうと思って」
「そうか。わかった。じゃあ、お言葉に甘えるよ」
俺は丼を受け取り、ご飯をよそった。
「運ぶのってそこのテーブルでいいの?」
彼女はテレビの前に置かれた小さなテーブルを指して尋ねた。
「ああ、そこ置いて」
ガラスの器に盛られたポテトサラダと、木の器に入ったみそ汁が運ばれて来た。
「へー、けっこう美味しそうだな」
ポテトサラダはゆで卵の黄身を潰したものだろうか、黄色の粒状の物が上にかかっていて、まるで市販のやつみたいだった。
「ふふーん。あ、丼貸して。具入れて来るから」
俺は彼女にご飯の入った丼を手渡した。キッチンから戻って来た彼女が持って来た丼には、卵でとじられた具が入っていた。
「おお、親子丼か」
「そうだよ~。ふふふ。けっこう自信作なんだから。見てよこの半熟具合」
テーブルに置かれたそれは、確かにぷるぷるの半熟具合が見て取れた。三つ葉のアクセントが美しい、まるで食堂で出て来るようなちゃんとした親子丼だ。
「うん、見た目はスゴイ美味そうだ。味はどうかな?」
「あはは。食べて驚きなさい。あたしはお風呂入って来るから」
「おう。入って来い。タオル、これ使っていいから」
俺は彼女にバスタオルを手渡した。
「ありがと。じゃあお風呂借りるね」
扉の向こうへと消える彼女を見送り、俺はテーブルに並んだ料理を前に座った。