Act.7「雨のち風呂の料理予報」
やがて車はハイウェイ高架下にある小さな二階建てのマンションにたどり着き、俺は駐車場に車を停めた。
「着いたよ」
俺は運転席から降りると後部座席に積んだビニール袋を取り出し、彼女を先導して歩き出した。
「けっこういいマンションね。新しいんじゃない?」
「んー、それほどでもないよ。不動産屋は築3年って言ってた」
カンカンと鉄製の階段を昇り、二階の真ん中にある俺の部屋の前へ辿り着いた。
ビニール袋を提げたまま、俺は手に持った鍵束にある鍵の一つをドアの鍵穴に差し込む。
ガチャッと音がしたのを確認して、俺はドアノブを開けた。
「どうぞ。狭いし散らかってるけど」
「ありがと。お邪魔します」
彼女が入った後に続き、俺は中へと入り、ドアを閉めた。
ガチャリと鍵を閉めると、玄関前に佇んでいる彼女に声をかけた。
「ほら。狭いんだから遠慮しないで早くあがってよ」
「あ、うん・・・・」
彼女はおそるおそる靴を脱ぎ、室内へと足を踏み入れた。
俺もそれに続いて狭い廊下にあがった。
「そこのドア開けて中入ってて。コレ、冷蔵庫にしまっちゃうから」
「ん、わかった」
彼女は頷いて正面に見えるドアを開け、その向こうにある俺の部屋へと入って行った。
「適当にくつろいでて」
俺はそう声をかけると、玄関から見えるシンクの横に設置した冷蔵庫に食品をしまい込む。
すっかり冷蔵庫にしまい終えた俺は、そのまますぐそばにある風呂場の扉を開けた。
バスタブの栓をして、お湯のコックをひねると、ジャバジャバと音をたててお湯が溜まり始める。
俺は風呂場を出ると、彼女が待つ俺のメインルームへと向かった。
「お待たせ。今風呂にお湯はってるから、もう少し待ってろ」
「ありがと。いい部屋だね」
「そうか?まあ、何にもないけど、とりあえずテレビでも見る?」
俺はとりあえずテレビをつけた。日曜の昼間だけあって、大した番組はやってないようだ。
「あ、そうだ。お湯がたまるまで、とりあえずタオルで身体拭いて着替えてきたら?ほら、これ貸すから」
俺は衣装ケースからTシャツとジャージを取り出し、干してあったタオルと一緒に彼女に手渡した。
「玄関からすぐ右手の扉開ければ洗面所だから、そこで着替えなよ。濡れた服とタオルは、とりあえず脱衣かごに入れておいていいからさ」
「あ、ありがと・・・・」
彼女はためらいがちにそれを受け取り、扉を開けて洗面所へと入って行った。
残された俺はとりあえず大して面白くないテレビを見て気を紛らわせようと試みた。
覚悟していたとはいえ、やっぱり彼女とこの部屋に二人きりというシチュエーションはかなり緊張する。別にどうこうするつもりはないが、ここに人を入れた事自体随分久しぶりなのだ。
そうだ。考えたら、最後に俺以外の人間がここに入ったのは、もう一年以上前になるんじゃないか?
“あの時”以来、誰かをここに入れた事は無かった。
俺がそんな事を考えてちょっとだけ感傷的な気分になっていた時だった。
「着替え、ありがと」
俺の渡した服を着た彼女が部屋に戻って来た。
俺のでかいTシャツとジャージで、元々小さい彼女の身体が余計に小さく見える。
「やっぱり俺のだとでかいな」
「ん、そうだね。でもいいよ。小さいより大きい方が楽だし」
彼女はそう言って、はにかむように笑った。
ヤバイ。今の表情、俺的にかなりヤバい。
こいつ、普段はガサツっぽいくせに、たまにこう、ドキッとさせるような表情するんだよな。
「どうしたの?」
黙り込んだ俺に、彼女が不思議そうに尋ねて来た。
「あ、いや、何でもない」
「そう?あ、そうだ。お風呂のお湯たまるまで時間あるよね。その間に料理やっちゃうね。台所、借りるよ」
彼女はそう言うと台所へと出て行った。
「ねえ、包丁とか鍋とかってどこにしまってるの?」
「ああ、ちょっと待って」
俺は台所へ行き、一通りのキッチン用品、調味料の場所を彼女に教えた。
「あと、冷蔵庫の中の物は適当に使っていいから」
「わかった。じゃ、待ってて。すぐ作っちゃうから」
彼女が言い、俺は再び部屋へと戻った。
さて。一体何を作ってくれるのやら・・・・。
やがてキッチンからジュージューと何かを炒める音が響き始めた。
漂って来るいい匂いに、お腹がなり始める。
「ふぅ~・・・・」
キッチンから彼女が戻って来た。
「お、もう出来たの?」
「ん、まだ。今煮込んでるから、味染みるまで一休み」
「そっか。あ、ちょっとそこ座って待ってて。風呂見て来る」
目の前のクッションに彼女を促し、俺は風呂場へ向かった。
湯はいい具合にたまっていて、温度も丁度いいくらいだった。
俺はメインルームへ戻ると、彼女に声をかけた。
「お待たせ。もう入れるよ」
「ありがと。料理が出来たら入らせてもらうね」
そう言って彼女は再びキッチンへ行ってしまった。
うーん、本当に一体何が出てくるのやら・・・・。