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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第五章「思いの果て」
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Act.69「狂気」

※病気・医療・不妊治療・ドナー等に関する描写は現実と異なる場合がございます。

恐れ入りますが、予めご了承の上お読み頂けますよう宜しくお願い致します。

翌日。

俺はいつものように仕事の合間を縫って沙織のいる病室を訪れた。

彼女に、ある事を伝える為に・・・・。


(――――ん?)


ドア越しに微かな話し声が聞こえ、俺は開けるのを躊躇った。


『――――沙織さん、どうか治療を受けて下さいな。このままじゃあなた、本当に死んでしまいますのよ?』


(この声は・・・・千歳!?)


ぼそぼそと聞こえてくるその声は、確かに千歳のもののようだった。


(どうしてここに?それに治療って、一体何の話だ?)


意味深な言葉に興味を持った俺は、ドアの前で様子を伺う事にした。


『――――出来ません。だって私は、お兄ちゃんの・・・・・』


沙織が何事か話した。声が小さくて、最後まで聞き取れない。


『何ですって!!あなたまさか、だから治療を拒んでたんですの!?』


千歳の声が驚愕と怒気に彩られた。


(治療を拒む!?どういう事だ!?)


思わず耳を澄ませる。


『――――ええ。私は・・どうせ・・・から、せめて・・・だけでも・・・』


沙織の声は小さくて、途切れ途切れにしか聞こえない。

中へ踏み込もうとした時、扉の向こうから一際大きく千歳の声が響いた。


『どうして!?どうしてアナタが!!一さんの妻は、わたくしですのに!!』


『―――― 千歳さん!?』


次の瞬間、悲鳴のような千歳と沙織の叫び声と、争うような物音が響き、俺はたまらず病室へと踏み込んだ!


「沙織!!千歳!?」


病室の中には、窓辺に立つ沙織と、果物ナイフを手に、“立っている”千歳の姿があった。


「どういう事だ!?千歳!!君は、歩けない筈じゃ・・・・!?」


千歳はこちらを振り向き、妖艶に笑った。


「あら一さん、ちょうどいいところに。今、嘘つきの魔物を退治するところですのよ」


その目に、いつもの気高さは無い。あるのは・・・・


―――――― 狂気!!


思わず叫ぶ。


「千歳!!やめろ!!沙織は悪くない!!悪いのは全部俺なんだ!!」


すると、千歳はさも可笑しそうに笑った。


「いやですわ一さん。貴方はこの魔物にたぶらかされただけ。だって、子供が出来たから治療を受けたくないだなんて、そんな馬鹿みたいな嘘吐くんですのよ?」


「なっ・・・・子供・・だって・・・・!?」


ツカツカと二人の方へ歩み寄りながら問いかけた。


「どういう事だ!?子供って、まさか俺の・・・・?」


沙織はこちらを見て、震える声で答えた。


「ごめん・・・・あたし・・・・」


その声を遮り、千歳が金切り声をあげた。


「黙りなさい!!こ、子供だなんて!!ゆ、許せません!!アナタなんか、アナタなんか!!」


ナイフを持った千歳が、沙織に向かって歩を進める!


――――――― まずい!


全力で走り出す。


――――――― 間に合え!!


滑り込むように沙織の前に立ちふさがり、手を広げた。


「・・・・・ぐっ・・・・!!」


痛みが走る。


「お兄ちゃん!!」


後ろから沙織の悲痛な声が響いた。

俺はホッと安堵の息を吐き、振り向いた。


「・・・良かっ・・た・・。無事・・で・・・」


刺された腹が、焼けそうに熱い・・・・。


カラン!

ナイフが、目の前に落ちた。


「・・・・わ・・わたくし・・・何・・を・・・」


千歳は真っ青な顔で、震えながらこちらを見た。


「・・・・ちと・・せ・・・・」


名を呼んだ。

直後、グラリと視界が揺れた。


「・・・・ごめ・・ん・・・・約・・束・・・守れ・・なく・・・」


最後まで発せず、そのまま崩れ落ちた。


「一さん!?」


瞬間、薔薇の香りに包まれた。


「しっかりして下さいまし!!一さぁああああん!!!!」


微かに聞こえた、悲鳴のような呼び声。

嗅ぎ慣れた甘い香りの中、俺の意識は、途切れた―――・・・・。

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