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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第五章「思いの果て」
68/75

Act.67「熱」

※病気・医療・不妊治療・ドナー等に関する描写は現実と異なる場合がございます。

恐れ入りますが、予めご了承の上お読み頂けますよう宜しくお願い致します。

あの再会からもう二週間。

俺は毎日時間を作っては、沙織の病室を訪れていた。


「お兄ちゃん、こんなに毎日、お仕事は大丈夫なの?」


心配そうに尋ねる彼女の頭を、俺はくしゃくしゃと撫でまわした。


「心配すんな。何度も言ってるだろ。外での商談と商談の間とか、空いた時間に来てるんだって。だから、本当にお前が気にする必要はねぇんだよ」


すると彼女は、ようやく安心したように頷いた。


「・・・・うん。ありがとう、お兄ちゃん」


ふと、初めて会ったあの日を思い出した。

見た目はどうみても健康そのものの、大して細くもない身体なのに、触れたら消えるんじゃないかと思うくらい儚なげに見えたコイツ。

口を開いたらえらい粗野なやつで、儚げな印象なんて一瞬で消し飛んじまった。

だけど、知る度に解って来た。それがコイツなりの強がりなんだって事。

どれだけ辛い思いをしても、コイツはずっと一人で頑張って来たんだって。

上手な甘え方なんか知らず、ただただ自分で頑張る事だけを考えて、今まで生きて来たんだって。

それがどれほど辛く悲しい事か、俺は知ってる。

甘えたくても甘える相手がいない、そのやりきれなさ、孤独。

一人で立つ事の難しさ。気を抜くと支配される、心の闇・・・・。

似てるんだ。コイツと俺は。

だから俺は、初めて会ったあの日からずっと、心の何処かでコイツの危うさを感じてた。

俺と同じ痛みを抱えながら、それでも一人で立とうとするコイツは、俺なんかよりずっと強い。だけど、その強さと同じくらい、脆い。

コイツの強がりがどうしようもなく歯痒くて、だけど愛しくて、堪らなかった。

守りたかった。せめて俺の前でくらい、強がりを言わなくてすむように・・・・。


「お兄ちゃん?」


ふと物思いにふけっていた俺を、心配そうな瞳が見つめていた。


「・・・・ああ、悪い。ちょっと考え事してた」


「考え事?何か、あったの?」


くしゃり。頭を撫でた。


「大丈夫。なんでもねぇよ」


優しく微笑んだその時だった。


「お兄ちゃん・・・・あのさ・・・・」


躊躇いがちに口を開いた彼女に、俺は優しく問いかけた。


「ん?何だ?」


「・・・・こうやって、来て貰えるのは嬉しいんだけどさ、その・・・奥さんは、いいの?」


その瞳に、不安と躊躇いの色が浮かんでいた。

俺は思わずその額めがけてピンッと指をはじいた。


「痛っ!も~、いきなり何すんのお兄ちゃん!?」


「ば~か。お前が変な心配するからだろ。俺にはとこうしてお前と過ごせる時間の方が大事なのにさ」


「そんな・・・・。気持ちは嬉しいけど、あたしのせいで奥さんに嫌な思いさせる訳には・・・・」


うつむき、黙り込んでしまった。


(ああ、まぁた悪い癖が出たな)


何でもかんでも自分のせいにして自分を責めるのは、コイツの悪い癖だ。

一緒にいて、散々そういう面を見て来た俺は、いつも歯痒い思いをしていた。

こういう時のコイツは、口で何を言っても無駄だ。


「沙織、ちょっとこっち向け」


言ってみたが、やっぱりうつむいたまま顔を上げようとしない。


(仕方ないな・・・・)


俺はおもむろに彼女の顎を掴み、強引に上を向かせた。

案の定、泣きそうな顔をしてる。


「まったくお前は、いつになったらそういう悪い癖が抜けるのかな。傍で見てるこっちの方が辛いっての」


「あ・・・・。ごめん・・・・・」


「だ~から~、謝るなって。お前が謝る必要なんかないんだからさ」


「ご、ごめん・・・・あっ」


「まぁた謝ってる。まったくもう。そういう子はお仕置き決定だな」


顔を近づけ、その唇を塞ぐ。


「・・・・ふっ・・・・んんっ・・・・」


漏れる甘い吐息に、どんどん熱が増してく。

そのままベッドに押し倒して、患者服の胸元へと手を伸ばした。


「んっ・・・んんっ・・・・」


ささやかな抵抗を見せたその腕を掴んで、片手で枕元に押さえ付けた。

水色の患者服の襟元から手を入れ、彼女の柔らかな曲線を掌で優しく包み込む。

そのまま身をよじって抵抗する彼女の肢体に手を伸ばし、その先にある場所を指で弄ぶ。

ビクリと彼女の身体が震え、塞いだ唇から甘い声が漏れた。

すかさず塞いだ唇を離し、その耳元に甘く囁く。


「・・・・沙織、やらしい」


俺の言葉に、彼女はかぁっと頬を紅く染め、小さく呟く。


「・・・・やっ、そんな・・・事・・・」


潤んだ瞳と紅潮した頬が色っぽくて、クラクラする。


「沙織・・・・・」


懇願するように名を呼ぶと、彼女は掠れた声で答えた。


「・・・・ダメ・・・見られ・・ちゃう・・・・」


「大丈夫。もうとっくに鍵、閉めてるから」


そう言って、もう一度唇を塞いだ。

もっと彼女を感じたい。それだけが、俺を支配していた。

伝わり合う温もりだけが、全てを忘れさせてくれる。

冷たく横たわる現実を見ないように、俺はそのまま、熱に身を任せた。

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