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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第五章「思いの果て」

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Act.64「愛欲」

※病気・医療・ドナー等に関する描写は現実と異なる場合がございます。

恐れ入りますが、予めご了承の上お読み頂けますよう宜しくお願い致します。

バタバタと白いシーツがはためく。

ひとしきり泣いた後、沙織は顔をあげた。

赤くなった目が痛々しい。俺はその涙を拭い、もう一度抱きしめた。


「・・・・・・沙織・・・。会いたかった・・・・」


ギュッと腕に力を込めると、沙織が苦しそうに呻いた。


「悪い、苦しかったか?」


慌てて身体を離すと、沙織は苦笑を浮かべてこちらを見た。


「お兄ちゃん、少し、痩せた?」


「そうか?お前こそ、何か随分痩せたんじゃないか?ちゃんと食べてるのか?」


本当に、目の前の彼女の身体は、何だか随分細くなっているように感じた。

丸かった筈の顔も、シャープになった、というか、何だか頬がこけたように見える。


「・・・・ん、あたしの事より、お兄ちゃんは?元気だった?」


曖昧に濁された言葉に、何だか妙な不安を覚えた。

あの頃より随分痩せた彼女。着ている病院の患者服。まさか・・・・・。


「俺は、大丈夫だよ。元気にやってる。忙しくはあるけど。それよりお前、ここに入院してるのか?どうしたんだよ、どっか悪いのか?」


俺の問いに、彼女は「ん・・・・」と曖昧に言葉を濁した。


「なあ、本当にどうしたんだよ?まさか・・・・」


嫌な予感がよぎる。

“あの時”のカヨと、目の前の彼女の姿が重なる。

俺は堪らず、彼女の肩を掴んだ。


「なあ、頼むよ。正直に言ってくれ!嫌だよ俺、大切なやつが、知らないところでどうにかなるのは、もう・・・・」


「お兄ちゃん・・・。分かったよ。本当はずっと話さないでいたかったんだけど・・・」


そう言って彼女は、まっすぐ俺の目を見つめた。


「・・・・あたしね、子宮癌だったの」


「なっ・・・・!し、子宮・・・癌・・・・!?じゃあ、まさか・・・・」


驚く俺の前で、彼女は静かに頷き、言葉を続けた。


「・・・・うん。ごめんね、“あの時”のあれは、子宮外妊娠だけじゃないの。腫瘍があったんだよ。子宮に・・・・」


「なんだよ、それ・・・・・・。そんなの、俺、知らない・・・・」


医師には、子宮外妊娠だとしか聞かされていなかった。まさか、そんな・・・・。


「・・・・先生には、黙っててってお願いしたの。あの時はまだ、悪性か良性かもわからなかったし、余計な心配かけたくなかったから」


それに。と彼女は続けた。


「カヨさんの事があるのに、もしあたしまでどうにかなったら、お兄ちゃん、今度こそ本当に死んじゃうじゃないかって、心配だったから・・・・」


ああそうか。俺がカヨの後を追って自殺未遂した事を話したから、沙織はそんな心配を・・・・。


「・・・・ごめん。俺があんな事話さなければ、お前が一人でそんな事抱え込まなくて良かったのに」


「違うよ!あたしが勝手に黙ってただけだもん。勝手に黙ってて、勝手に別れた。本当に、それだけなんだから・・・・・」


必死に否定する彼女に、俺は思わず涙が出そうになった。

コイツは、いつだってそうだ。いつだって、何でも自分一人で抱えようとして、一人で泣いて・・・・。


瞬間、俺は彼女を抱きしめていた。


「―――― お兄ちゃん!?」


驚く彼女を抱き寄せたまま、片手で頭を優しく撫でながら静かに言った。


「・・・・もういい。もう、いいから・・・・」


――――辛かったよな。苦しかったよな。一人で、ずっと・・・・。


「・・・・何も言わなくていい。傍にいさせてくれ。頼む・・・・」


「・・・・お兄ちゃん・・・・」


頭を撫でていた手を、そっと彼女の顎にかけた。

上を向かせ、その唇を塞ぐ。

温かい感触。熱が、彼女の唇から伝わる。懐かしい、彼女の温もり・・・・。


「・・・・・んっ・・・・ふぅ・・・・」


漏れる熱い吐息に、ドキリと心臓が跳ねる。

夢中で歯列を割り、中へと侵入した。口内の隅々まで、味わうように蹂躙し、彼女のそれと絡ませてくすぐる。

互いの身体がどんどん熱を増して行き、熱い吐息が漏れる。

久しく味わっていなかった彼女の感触。鼓動。熱。匂い・・・・。

鮮やかに蘇る感覚に、このまま、もっと先まで行きたい衝動に駆られる。

すぐそばではためくシーツを下に引っ張り、その影に隠れるように彼女を誘導した。


「沙織・・・・愛してる・・・・」


再び口付け、彼女の患者服の襟元から、その柔らかな身体の曲線に手を伸ばした。


「あっ・・・・だめ、こんなとこで・・・・・」


熱のこもった声が漏れ、彼女の手が僅かな抵抗を見せた。

俺はそれを強引に振り払い、片手で拘束した。

抑えられない衝動が、俺を突き動かしていた。


「愛してる・・・・・」


耳元に囁き、再び唇を塞いだ。

たとえどんな現実があったとしても、今だけは――――。

互いの熱で溶けてしまいたい。

その情欲だけが、俺を支配していた。

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