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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第五章「思いの果て」
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Act.58「美しき華」

お嬢さんの言葉に、俺は思わず耳を疑った。


「あら、何をそんなに驚いてますの?」


にっこり微笑む彼女に、俺は思わず立ち上がり声を荒げた。


「あんた正気か!?この話を受けるって、意味わかってんのか!?」


口元に手を当て、お嬢さんはくすくすといかにも可笑しそうに笑いながら答えた。


「それが本質ですの?やっぱり一さんて面白い方ですわね」


ギロリと睨みつけてやったが、彼女は全く気にも留めないようにくすりと笑うばかりだった。


「話にならないな。とにかく俺はこの話を受ける気はない。他に心に決めた相手もいるんでね」


その言葉に、隣にいたあの男がガタッと音をたてて立ち上がり声を荒げた。


「なんだと!?一、お前、またどこの馬の骨とも知れない女にうつつを抜かしているのか!?」


物凄い形相を浮かべるあの男に、俺は微塵も臆せず堂々と言い放った。


「ハン!アンタの決めた相手と結婚なんてまっぴらごめんだね。俺の結婚相手は自分で決める!!」


俺は三城院氏を見やり、頭を下げた。


「すいません三城院会長。そういう訳で、このお話、お断りさせて頂きます」


一礼し、スタスタと出口へ向かって歩き出した。

後方からあの男が何やら怒声をあげていたが、知った事ではない。

これだけ派手にぶち壊しにすれば、まさか先方も話を進めようなどとは思うまい。

会社間の事は多少気がかりではあるが、三城院氏はこれをネタにどうこうするような器の小さい人間ではないだろう。

大方俺とあのお嬢さんを結婚させて両社の繋がりを深くしようといった算段だったんだろうが、まったく馬鹿げた茶番に付き合わされたものだ。


「お待ち下さいな、一さん」


パタパタと草履の音を響かせ、晴れ着姿のお嬢さんが俺に追いついて来た。


「・・・・はぁはぁ。足、早いんですのね。追いつけないかと思いましたわ」


胸に手を当てて呼吸を落ちつけながらにっこり笑みを浮かべた彼女に、俺は出来るだけ冷たく言い放った。


「何の用です?あなたとのお話はさきほどお断りした筈ですが」


「あら。その前にわたくし、申し上げましたでしょう、お受けしますと。わたくし、一さんの事が気に入りましたの。断りを了承するつもりはございませんわ」


そう言って彼女は、華のように美しく笑った。


「は!?何でまた?あんたくらいのお嬢さんなら、相手くらい腐るほどいるだろ?」


これだけの美貌で、しかも三城院という名家のお嬢様だ。それこそ相手など選びたい放題だろう。なんだって俺なんかに・・・・?

そんな俺の疑問をよそに、彼女は口元に手を当て、いかにも可笑しそうにくすくす笑い出した。


「何がおかしい?」


思わずムッとなった俺に、彼女はあくまでにこやかに答えた。


「ごめんなさい。やっぱり一さんて面白い方だと思いまして。今までの方なら、わたくしを前にした途端目の色を変えてましたから」


その様は容易に想像がつく。この美貌だ。引きあわされた相手はすぐにでも夢中になったろう。


「それに、三城院の力を手に入れられるチャンスを、ああも簡単に投げ出されるなんて。ますます面白いですわ」


興味深そうにこちらをじっと見つめるお嬢さんに、俺は思わず溜め息を吐いた。


「俺はあんたに興味はないし、三城院の力をそんな形で手に入れるつもりはない。もしやるなら、自力で手に入れてみせるさ。あんたっていうツール抜きでな」


するとお嬢さんは満面の笑みを浮かべて言った。


「面白い方。こんな面白い方、他にいなくてよ。一さん、わたくし、決めましたわ」


「は?決めたって、何を」


「わたくし、あなたの妻になります。覚悟していて下さいね」


そう言って彼女は、いっそう美しく微笑んだのだった。

その姿はいっそ見惚れるほどに美しく、その瞳は輝きに満ちていた。


(・・・・・厄介な事になっちまった)


思わぬ事態に、俺は嫌な予感が的中した事を悟った。

やっぱりこのお嬢さんに関わっちゃいけなかった。

面倒な事になりそうな気配をビシビシ感じながら、俺は今日の見合いを受けると言ってしまった事を、今更ながら後悔するのだった。

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