Act.49「再発」
※病気・医療・ドナーに関する描写は現実と異なる場合がございます。
恐れ入りますが、予めご了承の上お読み頂けますよう宜しくお願い致します。
その日俺は、医師から話があるとカンファレンスルームへと呼ばれた。
「――――再発!?」
驚く俺に、医師は頷き、重い声で答えた。
「・・・・ええ。白血病細胞が、再び増殖してしまっているんです」
骨髄移植をしたとしても、それで完治する訳ではない。
投薬治療は続けなければならないし、場合によっては、再発の危険だってある。
移植手術前、医師から聞かされ、恐れていた事が現実になってしまった。
ずっと調子が良かっただけに、俺は動揺を隠せなかった。
「そんな・・・じゃあ、カヨは・・・・」
目の前が、真っ暗になった。
――――最悪の場合も、覚悟しておいて下さい。
医師の言葉が、重く、のしかかった。
その日から、カヨはまた激しい戦いへと逆戻りした。
会うのは無菌室のガラス越し。会話は室内に設置された電話越しでしか出来ない。
手を触れる事はおろか、傍らに行く事さえ許されない。
もどかしく、辛い毎日が続いた。
それでもカヨは、きっと治ると信じて疑わなかった。
――――来年は一緒に桜を見に行くんだから。
それがカヨの口癖だった。
病状は一進一退を繰り返し、カヨは懸命に立ち向かった。
季節は移り過ぎ、やがて年が明けた。
健闘が実り、無菌室を出られたのは、桜が散る頃になってからだった。
「イチ、今年はもう、無理かなぁ?」
点滴を受けながら、カヨはふいに尋ねて来た。
「ん?エゾ山桜か?そうだなぁ。向こうは今が咲き始めってとこだけど・・・・」
「じゃあ、今からでも大丈夫なんだ!?」
ぱぁっと顔を輝かせたカヨに、俺は苦い顔で言った。
「ダメだよ。まだ病気、良くなってないんだから」
「え~、イチのケチ」
ぷぅっと顔を膨らませたカヨに、俺はそっと手を伸ばし、その頭を撫でた。
「ごめんな。良くなったらいつでも連れてってやるから」
「う~、本当?」
「ああ。約束したろ。一緒に行こうって。だから安心して、ゆっくり治せばいいよ」
するとカヨは、安心したように笑った。
「・・・・うん。ありがとう、イチ」
―――――今になって思う。あの時、おぶってでもいいから、連れて行ってやれば良かった、と。
その時の俺は、カヨと桜を見る事が出来なくなるなんて、微塵も考えてなかった。
きっと良くなる。そう、信じていた――――――。
病院を後にした俺は、いつものごとく会社の仕事と子会社のオーナー業務に追われ、部屋に帰りついたのは深夜になってからだった。
なだれ込むようにベッドに入った俺は、すぐに眠りに落ちた。
Piririririri・・・・・・!
枕元に放り出していた携帯電話の音で目が覚めた。
「・・・・誰だよ、こんな時間に」
不機嫌に枕元の携帯電話を引きよせ、ディスプレイを見た。
「―――――――――っ!?」
瞬間、飛び起きて通話ボタンを押した。
「もしもしっ!」
『笹宮さんですか!?』
「はいっ!!」
『こちら富士乃宮市立病院です!杉崎さんの容体が急変しました!すぐにこちらに来て下さい!!』