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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第四章「見えない明日」
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Act.46「不本意な再会」

※病気・医療・ドナーに関する描写は現実と異なる場合がございます。

恐れ入りますが、予めご了承の上お読み頂けますよう宜しくお願い致します。

「どういう・・事・・ですか?」


あまりの事に、俺は茫然として尋ねた。


「・・・・適合したドナーの方が、骨髄移植を拒否されたんです」


「そんな!だって、移植する意思があるからドナーバンクに登録していたんじゃ!?」


「よくあるんですよ、こういう事は。いざ移植となって、色々な事情から足踏みしてしまう方も少なくないですから・・・・」


小さく溜め息を漏らした医師に、俺は思わず声を荒げた。


「何とかならないんですか!?せめて、そのドナーの人と話させて下さい!!お願いします!!」


「残念ですが、それは出来ません。ドナーはプライバシーを守られる権利があります。患者やそのご家族にドナーの情報をお渡しする事は、法律で禁止されているんです・・・・」


「そんな!それじゃカヨは、アイツは・・・・・・」


うなだれる俺に、医師は静かに言った。


「こうなった以上、新しいドナーが出てくれる事を祈るしかありません。お気の毒ですが・・・・」


目の前が真っ暗になった。

どうして、こんな・・・・・・。


失意のまま病院を後にした。

重い身体を引きずるように車に乗り込み、元来た道を引き返す。

とりあえず会社に戻ろう。

仕事に打ち込めば、一時でも忘れられる。そう思った。


「笹宮!お前、どうしたんだ!?早退したんじゃなかったのか!?」


オフィスに入った途端、そこにいた山田さんが驚いた顔で振り向いた。


「ああ、その、意識、戻ったんで、顔だけ見て、戻ってきました」


「そうか!良かった。意識戻ったんだな!しかし、それにしてはお前、うかない顔してるな。どうした?」


心配そうに顔を覗き込む山田さんに、俺はなんとか笑顔を浮かべた。


「大丈夫です。ちょっと疲れてるだけですから」


「そうか?あまり無理すんなよ。何かあったら遠慮しないですぐ言えよ」


「はい。ありがとうございます」


笑顔で頷いたその時だった。


Rururuururu・・・・・・!


俺のデスクの電話が鳴りだした。


「はい、生産技術部 開発課 1係 笹宮です」


『お忙しいところ恐れ入ります。会長秘書の磯貝です。その節はどうも』


思わぬ相手からの電話に、俺は眉をしかめ、低い声を出した。


「・・・・あなたでしたか。今日はまたどんなご用件ですか?」


『はい。実は、もう一度会長室にお越し頂きたいのです』


「何を馬鹿な。あの件についてなら、はっきりお断りした筈ですが?」


『その件ではございません。会長は、杉崎さんのドナーの件でお話したいとの事でして』


「――――今、何と!?」


思わず聞き返した俺に、磯貝さんは冷静に言った。


『ええ、ですから、会長は杉崎さんのドナーの件でお話があると』


「・・・・分かりました。すぐにそちらに参ります」


『では、第10会議室でお待ちしております』


電話を切った直後、俺はオフィスを飛び出していた。


まさか・・・・。


嫌な予感に囚われながら、俺は本社ビルへと向かった。

受付に申し入れると、やはり既に鍵は開いているとの返事が返って来た。

俺は速足で廊下を進み、第10会議室へとやって来た。

そのままノックもせずにドアを開ける。


「磯貝さん、これは一体どういう事ですか!?」


中に既にいた会長秘書、磯貝さんに向かってまくしたてた。


「どうとは?笹宮さん、おっしゃる意味がよく分かりかねますが」


「カヨの事です!どうしてあの男がカヨのドナーの事で話をなんて言い出すんですか!?」


すると磯貝さんはその綺麗な顔に悲しげな表情を浮かべ、言った。


「申し訳ございません。私は何も聞かされておりません。ただ、さきほどの話をお伝えして会長の元へお呼びするように、とだけ・・・・」


その様を見て、俺は自分が間違えた事を悟った。


「・・・・すみません。磯貝さんに当るなんて、八つ当たりもいいところですね」


「いいんです。さ、会長室へご案内致します。どうぞ」


磯磯貝さんが扉を開け、俺達は廊下の外へと出た。

あの時と同じようにエレベーターホールを抜け、役員専用エレベーターを磯貝さんのIDカードで動かし、会長室のフロアへと移動した。

エレベーターを降りあの重厚なドアの前に辿りつくと、磯貝さんはドアホンの受話器を取った。


「会長、笹宮さんをお連れしました」


ガチャリ。

あの時と同じ金属音が響き、磯貝さんがドアノブに手をかけ、扉を開けた。


「どうぞ中へ」


促されるまま中へ入ると、後ろで静かにドアが閉められた。

俺が中に足を踏み入れると、窓際に立って外を眺めていた彼は、背を向けたまま静かに口を開いた。


「・・・・来たか」


「俺としてはもう貴方に会いたくはありませんでしたけどね」


せめてもの皮肉を言って睨みつけると、彼はこちらに向き直り、口の端を上げた。


「まあそう言うな。私がこれからする話は、お前にとっても悪くない話だと思うがな」


その張り付いたような笑みに、俺は寒気を覚えた。


――――なんだ?一体、何を考えている?


「単刀直入に言おう。杉崎加代子の適合者は、私だ」

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