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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第四章「見えない明日」
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Act.45「ドナー」

※病気・医療・ドナーに関する描写は現実と異なる場合がございます。

恐れ入りますが、予めご了承の上お読み頂けますよう宜しくお願い致します。

病院から電話があったのは、その翌日の事だった。


「本当ですか!?すぐ向かいます!!」


俺はすぐさま早退届を書き、課長に突きつけた。


「すいません、急用が出来たので、早退させて下さい!!」


課長は何も言わず頷き、黙って書類にハンコを押してくれた。

俺は課長に深々とお辞儀をすると、すぐさまデスクに取って返し、パソコンの電源を切り、書類を乱暴にデスクにしまい、カバンをひっつかんで足早に駐車場へと向かう。

息を切らせながら走り、ようやく愛車であるハイエースの元へ辿り着いた。

ロックを解除し、エンジンをかけ、運転席へと乗り込む。


ギュルン!キキキキキ!!


車は凄い音をたててあっという間に駐車場を抜け、市道へと飛び出した。


(カヨ!カヨ!!)


焦る気持ちを抑え、車を走らせる。

やがて病院の駐車場に着くと、まっしぐらに受付を目指した。


「すいません!連絡受けて来ました!笹宮です!杉崎加代子に面会を!!」


警備員から書類を受け取り、急いで記入した。

それを確認した警備員は、どこかに電話した後、俺に向き直り口を開いた。


「集中治療室の患者さんですね。場所はわかりますか?」


「はい!」


瞬間、警備員が次の言葉を紡ぎ出すより早く、足を踏み出していた。

早く、早く!!

下足をスリッパに履き替えると、パタパタとせわしない音をたてながら院内を駆け抜けた。


「ちょっと!院内では走らない――と、笹宮さん!貴方でしたか」


カヨの担当ナース、今井さんだった。


「今井さん!アイツ!カヨは!?」


「落ち着いて下さい。大丈夫です。意識はちゃんと戻ってますから」


「良かった・・・・。あの、会っても、大丈夫ですか?」


不安気な顔で聞くと、今井さんはにっこりと笑った。


「ええ。大丈夫ですよ。無菌服をお貸しします。どうぞ着いていらして下さい」


スタスタ歩く今井さんの先導に従い、俺はカヨのいる集中治療室へと向かった。

あの日入ったのと同じ部屋で、俺は身体を消毒をし、無菌服一式を身に付けた。


「どうぞ」


今井さんに扉を開けて貰い、俺は中へと足を踏み入れた。


「・・・・・・カヨ?」


声をかけると、微かに体が動いた。


「・・・・・・イチ?」


ああ。カヨの声だ!掠れてはいるけど、間違いなく、アイツの声!!

俺は嬉しくなって駆け寄った。


「カヨ!!」


透明なベールの中にある白いベッドの上に横たわっているカヨは、先日見た時よりさらにやつれたように見えた。

あの時と同じく、酸素マスクをつけ、幾つものチューブに繋がれてはいるが、今度はちゃんと目が開いていて、ちゃんと俺を見ている。


「カヨ・・・・良かった・・・・」


ぎゅっと手を握った。


「・・・・ごめんね。発表・・会、大丈夫・・だった?」


「ああ。大丈夫だ。お前は何にも気にしなくていいから、な」


「ありがと、イチ・・・・」


握った手が握り返された。

その手があんまり弱々しくて、思わず泣きそうになるのを堪えた。

ふと、今井さんが後ろから声をかけて来た。


「笹宮さん、あまり長くは・・・・。杉崎さんの身体に障りますから」


「あ、はい。解りました。カヨ、ごめんな、また来るから」


カヨは小さく頷き、微笑んだ。


「うん・・・・」


名残惜しく思いながら手を離して部屋を出た。


「笹宮さん、この後お時間ありますか?先生がお話したい事があるそうなんですが」


「俺にですか?分かりました。伺います」


無菌服を脱いだ俺は、その足で医師が待っているというカンファレンスルームへと向かった。


「失礼します」


会釈して入った俺を見て、医師は満面の笑みを浮かべた。


「笹宮さん!お待ちしてました!喜んで下さい!ドナーが見つかりました!!」


「えっ!?本当ですか!?」


「はい!つい先ほど連絡が入りました。運のいい事に、ドナーの方は富士宮市在住の方だそうで、すぐにでも移植出来るとの事でした」


「あ・・・・ありがとうございます!!」


何て幸運だろう!こんなに早くドナーが見付かるなんて!!

思わず医師の手を握り締めて感謝の意を表していたその時だった。


Rururururururu・・・・・・!!


カンファレンスルームの電話が鳴り出し、医師がそれを取った。


「はい。こちら2階カンファレンスルーム。・・・・ええ、私です。・・・・えっ!?なっ、そんな!何とかならないんですか!?・・・・ええ、ええ。・・・・そうですか、分りました・・・・」


電話を切るなり、医師はさきほどまでの明るさが嘘のように暗い表情でこちらを見て口を開いた。


「・・・・笹宮さん、落ち着いて、聞いて下さい」


「・・・・え?先生、あの、一体どうしたんですか?」


驚き戸惑う俺に、医師は躊躇いがちに告げた。


――――ドナーが、移植を拒否した、と・・・・。

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