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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第四章「見えない明日」
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Act.42「現実」

カンッ!カラカラカラ・・・・・。


固い音が響いた。

目の前が真っ暗だ。クラクラする。

急変?カヨが?どうして!?


「もしもし?・・・・・・えっ!?・・・・はい、はい、わかりました!すぐそちらに向かわせます」


誰かの声と、せわしない足音が聞こえる。


「イチ!!おい、しっかりしろイチ!!」


肩を掴まれて揺すられ、俺はようやく視界が戻った。


「・・・・山田・・さん?」


「ああ!俺だよ!!しっかりしろイチ!!お前がそんなでどうする!!」


ほらこれ、と、俺の携帯電話を押しつけられた。


「あ・・・・これ、なんで山田さんが?」


「いいから早く行け!こんなトコで呆けてる場合か!!」


怒鳴られ、ハッとなる。

そうだ。カヨが!!


「すいません、あと、お願いします!!」


返事を待たず、駆け出した。

どよめく皆の間を抜け、会場の外へと飛び出す。

すれ違う何人かにぶつかったが気になどしていられなかった。


やがて駐車場へと辿り着きハイエースが見えた。

俺は走りながら胸ポケットから鍵を出し、ロックを解除してエンジンスターターボタンを押した。


「はぁはぁはぁ・・・・」


息も荒いまま、スライドドアへと手をかける。

ちくしょう!早く!早くしないと!!

焦りながら運転席へ乗り込み、車を発進させた。


ギュルン!キュキュキュキュ!!


凄い音をたて、駐車場を抜けた。

幸いにもまだ市道はそこまで込む時間帯ではなく、車は滑るように走り抜けて行く。

俺は思いっきりアクセルを踏み、ほとんど信号にひっかかる事なく病院へと辿り着いた。

車を降りるなり、そのまま玄関へとひた走った!


「はぁはぁはぁ!連絡受けて来ました!笹宮です!カヨは!?杉崎加代子は!?」


受付の守衛に向かい、荒い息のまま一気に尋ねた。


「お待ち下さい」


この間とは違い、すぐにどこかに電話をかけ始めた。


「こちら受付です。笹宮さんとおっしゃる方が。・・・・はい、そうです。・・・・・はい、わかりました」


電話を切った守衛は俺に向き直り、口を開いた。


「集中治療室だそうです。場所は1階突き当り奥。手術室の右隣りです」


「ありがとう!」


下足置き場に向かい、急いでスリッパに履き替えて中へ進んだ。

パタパタと音をたてながら院内を走る俺を、すれ違うナースが見咎めた。


「ちょっと!院内では走らないで――、笹宮さん!?」


カヨの担当ナース、今井さんだった。


「今井さん!アイツは!カヨは今どうなってるんですか!?」


「・・・・杉崎さんは今、意識不明で集中治療室にいます」


「どういう事ですか!?アイツはただの貧血と過労だったんじゃ!?」


今井さんは顔を曇らせ、静かに言った。


「詳しい事は先生からお話しします。カンファレンス室へどうぞ」


俺は頷き、今井さん先導の元、カンファレンス室へと移動した。

あの、カヨが入院した初日に通された、患者とその家族、医師が話をする為の部屋だ。

中に入ると、座っていた担当医が立ち上がった。


「笹宮さん、どうぞお座り下さい」


促され、俺は医師の目の前に置かれた椅子に座った。


「・・・・で、先生、一体どういう事なんですか?アイツは、カヨはどうしてこんな事に!?」


医師は固い表情を崩さず、静かに口を開いた。


「初めに確認しておきます。杉崎さんにはご家族がいらっしゃらない。間違いありませんか?」


「・・・・はい。カヨの家族は、10年以上前に他界して、親族とも連絡がとれない。そう聞いてます」


「そうですか・・・・。では、今現在杉崎さんのお身内に近い方は笹宮さん、貴方だと見て構いませんか?」


「・・・・ええ。彼女とは、結婚する約束もしてますから」


すると医師は少しだけ考えるように黙り込んだが、やがて決意したように口を開いた。


「・・・・落ち着いて、聞いて下さい」


知らず、ゴクリと唾を飲んでいた。

一体、何を言おうとしているのか・・・・。


「・・・・杉崎さんの病名は、急性白血病です」


「あの、それは、どういう・・・・」


「簡単に言うと“血液の癌”です。血液の中の細胞に異常が起こり、腫瘍が出来る病気です」


白い部屋の中、医師の言葉は重く、静かに響いていた。

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