表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第四章「見えない明日」
42/75

Act.41「激動」

あの会長からの呼び出しから数日が過ぎた。

最初はすぐにでもあの男が何か仕掛けてくるのでは、と思ったが、さすがに本気で俺を辞めさせるような真似はして来なかった。

内心構えていただけに、ちょっと拍子抜けしたものの、何も無いならそれに越した事はない。

準備は順調に進み、後は明日の技術発表会本番を残すのみ。

俺はホッと胸を撫でおろしていた。

ただ一つ気がかりなのは、カヨ・・・・。

――すぐに退院出来るから。

そうは言っていたものの、医師の勧めもあり、結局は休養を兼ねて一週間の検査入院となった。

俺は忙しい合間を縫うようにして、何とか時間を作ってはカヨを見舞いに行っていた。


「カヨ、いい子にしてたか?」


「何よイチ、その言い方、まるであたしが子供みたいじゃない」


むくれるカヨに、俺は笑って言った。


「だってお前、見てないところですぐに仕事しようとしてただろ?」


「だってイチ!この忙しい時にあたしだけ休むなんて・・・・」


「カヨ」


低く言った俺の声に、カヨはようやく観念したように手を上げた。


「・・・・わかった。ごめんなさい。もうしません!」


俺は優しく笑ってカヨの頭を撫でた。


「うん。いい子だな」


「う~~。イチ、退院したら覚えてなさいよ?献立はイチのキライな香菜のオンパレードにしちゃうんだから!」


うらめしそうに言うカヨに、俺は苦笑いを浮かべた。


「はは。何とでも言え。お前がちゃんと休まないと、俺だって安心して仕事出来ないんだからな」


するとカヨはふいにうつむき、暗い声を出した。


「・・・・・・ごめん。こんな時なのに」


「こぉら。そんな顔すんな。お前がそんなんだと俺、余計心配になっちゃうだろ。いいから気にしないで、ちゃんと休んどけ」


軽く小突くと、カヨはようやく笑顔を浮かべた。


「ん、ありがとうイチ」


「おう。それじゃ俺、明日のリハあるからそろそろ行くよ。悪いな、あんまり長居出来なくて」


「いいんだよ。それより明日、頑張ってね」


「ありがとな。明日はちょっと来れないかもしれないけど、勘弁な」


「うん。気にしないで。皆によろしくね」


俺は頷き、手を振って病室を出た。

見送るカヨの笑顔に、後ろ髪を引かれながら。



――――迎えた発表会当日。

俺は緊張の中、集まったマスコミと技術関係者達に新技術をお披露目した。


「・・・・以上で発表会を終了します。皆様、本日は有難うございました」


閉めの挨拶をし、盛大な拍手に送られ、俺は舞台を後にした。


「笹宮、お疲れさん!」


山田さんが声をかけて来た。


「有難うございます。山田さんもお疲れ様でした!」


「この後の慰労会、出るんだろ?」


「ええ。勿論出席させて頂きます。リーダーが欠席じゃ皆に悪いですし」


――――悪いな。


小さくささやかれたその声に、俺はそっとささやき返した。


――――大丈夫です。アイツは、わかってますから。


ニッと浮かんだ笑顔と共に、ちょんと肘で小突かれた。


――――式には呼べよ。


――――もちろん。


そんなやりとりの後、俺は皆に向かって言った。


「じゃあ皆さん!片付けて移動しましょう!今日は部長から寸志を頂いてますから、思いっきり飲んで食べて騒ぎましょう!!」


わぁっと歓声が上がり、俺は皆と共にバタバタと人波の引いた会場を片付けにかかった。

その時だった。


Bububububu・・・・・!


(電話?誰から?)


胸ポケットに入れておいたマナーモードの携帯電話を取り出し、ディスプレイを見た。


「――――――っ!?」


瞬間、俺は大急ぎで通話ボタンを押した。


「もしもしっ!?」


『富士乃宮市立病院です。笹宮さんの携帯電話で宜しかったですか?』


「はい!」


『すぐにこちらに来て下さい!杉崎さんの容体が、急変しました!!』


視界が、闇に消えた。

襲い来る冷たい感覚の中、俺は茫然と、その場に立ち尽くしていた――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ