Act.39「凶報」
会長室を出た俺は、すぐさま自分の部署へと取って返した。
「イチ!!どこ行ってたんだ!!」
俺を見るなり、そこにいた職場の先輩、山田さんが怒声をあげた。
「すいません山田さん!ちょっと・・・・」
言葉を濁す俺に、山田さんは血相を変えてまくしたてた。
「いいから早く病院行け!カヨが倒れた!!」
「えっ!!カヨが!?」
「富士乃宮市立病院だ!仕事はいいから早く行け!!」
瞬間、走り出していた。
「はぁはぁ・・・・」
人が行き交う廊下を抜け、走って走って、ようやく駐車場のハイエースが見えて来た。
ポケットに入れていた鍵束を取り出し、もどかしい思いでエンジンスターターとロック解除ボタンを押すと、すぐさま運転席へと駆け寄った。
「くっ!!」
軽い筈のスライドドアさえ、こんな時は酷くもどかしい。
俺は焦る自分を叱咤しながら、大急ぎで運転席に乗り込んだ!
ドルルルン!キュキュキュキュキュ!!
激しい音をたて、滑るように車を発進させた。
ほぼ無人に等しい就業時間中の駐車場からあっという間に抜け出し、すぐに市道へと抜ける。
「カヨ!カヨ!!」
無事でいてくれ!!祈るような気持ちで車をひた走らせた。
信号待ちに引っかかる度、イライラとしながら考えを巡らせる。
(一体どうしてカヨが?)
倒れて運ばれた、と聞いて慌てて出て来てしまったが、一体何が起こったのか詳しい事が全くわからない。
「そうだ!電話!!」
慌てていて電話に気付かなかった!
俺は胸ポケットから携帯電話を取り出した。
・・・・トゥルルル
呼び出し音がもどかしい!早く出てくれ!!
『・・・・はい、富士乃宮市立病院です』
「あの!カヨは!杉崎加代子の容体は!?」
『落ち着いて下さい。入院患者さんの御家族ですか?』
「そちらに運ばれた杉崎加代子の恋人です!カヨは、彼女は今どうなってるんですか!?」
矢継ぎ早に尋ねる俺に、電話の相手は少し落ちつくようにと繰り返した。
『杉崎加代子さんですね。少々お待ち下さい』
電話が保留音に変わり信号が青になった。
俺は慌ててハンズフリーに携帯電話を切り替え、すぐに車を発進させた。
『・・・・お待たせしました。杉崎さんは今、意識を取り戻して一般病棟の個室にいらっしゃいます。こちらにお見えになるのでしたら、この時間はまだ面会時間内ですから受付でおっしゃって頂ければ大丈夫ですよ』
「そうですか!良かった・・・・。すぐにそちらに向かいます」
電話を切り、俺は再び運転に集中した。
日中の交通量の多さが恨めしいが、それでも病院まではあと5分もあれば着く筈だ。
「カヨ・・・・」
意識を取り戻したと聞いてホッとしたが、それでも不安は拭えない。
早くアイツの顔が見たい。
カヨの笑顔が浮かんで消えた。
「早く会いたい・・・・」
会って、安心したい。
そう思いながら車を走らせ続けた。