Act.3「その日も雨は降っていた」
待ちに待った日曜日。外はやっぱり雨が降っていた。
「また雨かよ。まったく・・・・」
俺は今日ほど梅雨ってやつを恨んだ事はない。せっかくアイツとのデートだってのに。
あの雨の日の再会から、俺は会社のメールを使って何度もアイツとやりとりをしていた。
今日のプランは山にでも行ってピクニックの予定だった。
しかし、期待に反して朝からこの雨である。
「さて。どうするかな」
彼女は、雨天の場合はその場でどうするか決めよう、と言っていた。
最悪『今日は出かけるのやめよう』などと言われかねない。
どうしようかと作戦をあれこれ考えていたところ、気がつけば約束の時間が迫っていた。
「仕方ない。とりあえず出かけるか」
中止と言われたらその時はその時だ。
俺はとりあえず彼女との待ち合わせ場所に向かう事にした。
「来てねぇし!!」
待ち合わせ時間きっかりに着いた俺は、そこに彼女どころか人っ子一人いない事に気付いて愕然としていた。
「何やってんのアイツ?」
彼女は電話を持っていない。
携帯電話はおろか、寮の自室にさえ電話がついていないという。
つまり、連絡をとるには寮の受付窓口に電話して取り次いで貰うしかない。
降りしきる雨の中、俺は仕方なく彼女の寮に電話する事にした。
『はい。第3本山寮ですが』
電話口に受付の女性が出た。
「すいません、笹宮と申しますが、401号室の樹本 沙織さんをお願いしたいんですが」
少々お待ち下さい、との言葉の後、保留音が流れた。
しばらくしてガチャリと再び電話が繋がった。
『お待たせしました。樹本さん、今外出中みたいです』
「そうですか。ありがとうございました。失礼します」
電話を切った後、俺はしばし考えた。
この状況が示す答えは多分この3つだ。
①彼女は電話を拒否した
②彼女は約束を忘れて出かけた
③彼女は今こっちに向かってる
正解はどれだ?
①だったらショックだな。しかし、それなら『御取次出来ません』と返答されるだろう。
次に②。これはちょっと考えにくい。2日前の金曜日。俺は確かに彼女と約束の時間と場所を確認しあっている。たった2日で忘れるってのはいくらなんでも無いだろう。
とすると残りは③?などと俺が考えを巡らせていた時だった。
「はぁ、はぁ・・・・。ごめん、遅れた・・・・」
約束の時間から10分遅れで彼女がそこに現れた。
「お前っ!この雨の中自転車って何考えてんだ!?」
彼女は雨の中、傘もささずに自転車で爆走して来たのだ。
「あは・・は。ちょっと、寝坊しちゃって・・・・。待たせちゃ・・悪いと・・思って、急いで・・来たん・・だけど」
途切れ途切れ、息を切らせながら話す彼女に、俺はとりあえず傘をさし出した。
「アホ!風邪ひいたらどうすんだ!まったく・・・・」
「アホは酷いなぁ。せっかく一生懸命走って来たのにさ」
苦笑いする彼女に、俺は何だか顔が熱くなるのを感じた。
「ほら、とっとと貸せ。積んでやるから」
俺は彼女から自転車を奪い取ると、サッと後部座席に積み込んだ。
「何してんだよ、早く乗れ」
やや無愛想に助手席のドアを開けて彼女を促した。
「ん、ありがと」
彼女は短く礼を言い、俺のハイエースの助手席へと乗り込んだ。
俺も運転席へ乗り込み、シートベルトを締めると車を発進させた。
「とりあえずお前、その格好何とかしろ。ずぶ濡れじゃ風邪ひくだろ」
「んー、いいよ。着替えに帰る時間勿体ないじゃない?」
などと言う彼女に、俺の口をついて出た言葉はこうだった。
「なら、俺の部屋来いよ。風呂と着替え貸してやるから」
「ホント?じゃあそうしようかな」
その彼女の返答に、俺は一瞬ドキリとして、でも顔には出さずに言った。
「おぅ。じゃあ決まりな。狭い部屋だけど、我慢しろよ?」
冷静な口調とは裏腹に、俺の頭の中は若干パニックだった。
おいおい、マジかよ?いきなり部屋に来るって、しかも風呂って、意味わかってんのか?
何しろ相手はまだ19歳。未成年だ。男の部屋に行くって意味もわかっちゃいない危険性だってある。
とりあえずだ。何かすると決まった訳じゃない。ここは意識しないようにしとかないとマズイだろう。冷静さを保つ為、俺は何とか運転に集中しようと試みるのだった。