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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第四章「見えない明日」
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Act.34「邂逅」

それは、会社に入って最初の配属日だった。


「君が今度配属されて来た新人君?えーと、笹宮 (イチ)君?」


声をかけて来たのは、えらい美人な女性だった。

二重瞼に、ぱっちりとした瞳、長いまつ毛、綺麗に整えられた眉に、スッと通った鼻筋。唇はまるで形の良い花弁のようで、しっとりとした艶を持ち、紅く煌めいていた。

真っ白なきめ細やかな肌に、ほんのり薔薇色の頬が色っぽくて。

艶やかな黒髪はきっちりと結いあげられ、白いうなじが美しい。

技術開発員が身につけるグレーの地味な作業服でさえ、彼女の前ではその凛とした美しさを引き立てる材料に変わっていた。


「あ、あの・・・・貴女は?」


「あたしは杉崎。杉崎(すぎさき) 加代子(かよこ)。今日から君の指導を任されてる職場先輩よ。よろしくね、イチ君」


「・・・・あの、俺、はじめです。笹宮 一」


戸惑いがちに名前の読みを正すと、彼女はカラカラと豪快に笑ってこう言った。


「なぁんだ、そっかぁ。はじめ君・・・・うーん、イチ君の方が呼びやすいな。ねえ、イチ君て呼んでいい?私の事は“カヨ先輩”でいいから」


「ハ、ハイ!」


一目惚れというものが本当にあるのだと知った。

カヨ先輩は仕事に厳しく、けれど優しく、そしてやっぱり、綺麗な人だった。

一挙一動が美しく、何をしていても絵になった。

美しく仕事も出来る先輩の姿に、俺はますます惹かれていった。

出会いから1カ月後、先輩からの直接指導が受けられる新人特別指導期間が終わる日、俺は先輩と二人で行った打ち上げの席で告白した。


「カヨ先輩!俺と付き合って下さい!!」


カヨ先輩は一瞬驚いた顔をして、それからにっこり笑ってこう言った。


「あたしと付き合いたいなら、もっと仕事が出来るようになって貰わないとね」


それから俺は、がむしゃらに頑張った。

先輩に認められたくて、必死に勉強して、色々な情報を積極的に収集して、自分の仕事に取り入れて。試行錯誤を繰り返し、失敗と成功を繰り返して。

そうして半年後、気が付くと俺は、若手のホープとして、部内の誰もが一目を置く存在にまで成長していた。


「笹宮、このプロジェクト、採用だ。お前がリーダーとしてやってみろ」


「有難うございます!!」


俺が発案した新しい技術開発プロジェクトが採用され、部長のゴーサインの元、開発期間3年をかけた新規開発プロジェクトのリーダーとして仕事を進めて行く事になった。

その日の夜、俺は「報告がある」とカヨ先輩を呑みに誘った。


「カヨ先輩!俺、今度プロジェクトリーダーやる事になったんですよ!」


「嘘!?ホントに!?凄いじゃないイチ君!!おめでとう!!頑張ってね!!」


それから二人で散々飲み明かした帰り道、俺達はちょっと一休みと公園のベンチに座った。


「いやぁ、それにしてもイチ君凄いよねぇ。たった半年でプロジェクトリーダーなんて!う~、ちょっと悔しい。あたしなんて3年はかかったのに。このこのぉ!」


茶化して笑いながら俺を小突く先輩を前に、俺は真剣な顔で切り出した。


「先輩、ちょっと真面目な話があるんですけど、いいですか?」


「え、真面目な話って・・・・」


先輩は小突くのをやめ、ちょっと緊張した面持ちでこちらに向き直った。


「カヨ先輩、この半年、頑張ってこれたのはカヨ先輩のおかげです。貴女に認められたい。貴女が隣にいて、恥じない男でありたい。そう思って頑張って来たんです。貴女がいたから頑張れた。俺は、貴女に隣にいて欲しい。仕事だけじゃなく、プライベートでも。ダメですか?」


するとカヨ先輩は華のように笑ってこう言った。


「イチ君、いきなりプロポーズは困るわ。私まだ結婚するのはちょっと・・・・」


「プ、プロポーズだなんて!俺、そんなつもりじゃ・・・・」


「じゃあ、どんなつもり?」


茶目っけたっぷりの笑顔で言うカヨ先輩に、俺は真っ赤になって言った。


「俺と・・・・付き合って下さい!!」


「いいわよ」


にっこり笑うカヨ先輩に、俺は思わず尋ねた。


「それって・・・・、オッケーって事ですか?」


「勿論。気付かなかった?あたしもずっと君の事、好きだったんだからね!」


瞬間、俺は先輩を抱きしめていた。


「いやったぁあああーーーー!!!」


「ちょっ、イチ君!もう!!」


困ったように笑う先輩の身体を離し、俺はその目をまっすぐ見つめながら言った。


「好きです。先輩!」


瞬間、俺の唇に先輩の柔らかな唇が重ねられていた。

驚く俺の前で、先輩はスッと唇を離し、耳元でささやいた。


「二人の時は“カヨ”って呼んで、ね」


「・・・・か、カヨ」


戸惑いがちに名を呼んだ俺に、綺麗な微笑みが向けられた。


「よく出来ました」


先輩――カヨの唇が、再び重ねられ、俺は彼女を抱きしめた。

秋の寒ささえ気にならないほど、身体が熱かった。

空には満月が光る、静かな、夜だった。

<作者のつぶやき>

ついにイチ君の過去編に突入です。

これまで詳しく語られなかった女性、カヨ。

彼女の人となりが読者様に少しでも伝えられればと思ってます。


最近お気に入りに入れて下さっている方も増え、アクセスも当初4~5人程度だったのが毎日何十人もの方が訪れて下さるようになり、本当にうれしい限りです!

読者の皆様、本当に有難うございます!!

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