Act.33「驚愕」
「じじ、次期社長って、お、お兄ちゃんが!?」
驚きの表情でどもる彼女をよそに、俺は極めて冷静に答えた。
「ああ。俺、一応現会長の孫だからね。子会社の一つは俺が権利を持ってるんだ。今はまだ外部に委託してるけどね。あ、これ、社内でもごく一部の役員しか知らない情報だから、他言はしないよう頼むな」
何やら口をぱくぱくさせている彼女を前に、俺はどうしたものかと考えあぐねた。
まさかここまでショックを受けられるとは・・・・。
「なあ、俺が普通の会社員じゃなかったのって、そんなにショック?」
「え!?あ、ショックっていうか、その、ビックリして・・・・」
「俺の事、キライになった?」
「き、キライになんて、そんな事あるわけ・・・・!」
そう言って勢いよく立ち上がった瞬間、彼女の傍らにおいてあったバッグが下に落ち、中身が勢いよくぶちまけられた。
ガシャン!!
音をたて、携帯電話が床へと落ちた。
瞬間、携帯電話の裏についた電池パックの蓋が勢いよく外れてしまった。
「あ・・・・」
彼女は慌ててそれを拾い上げたのだが、そのまま動かなくなってしまった。
「ん?どうした?」
そばに歩み寄った俺の前で、彼女は手に持ったそれを凝視したままボソリと言った。
「お兄ちゃん・・・・」
「ど、どうした?」
何やら重い気配を感じ、戸惑いながら尋ねた俺に、彼女は手にした蓋を俺に突き出し、低い声で言った。
「・・・・これ、何?」
そこには、一枚の小さなプリクラが貼られていた。
幸せそうな顔で肩を組む男女の。
その下には、『2008.3.10 イチ❤カヨ 婚約記念』と書き文字されていて・・・・。
「どういう・・・事かな?」
うつむいたまま発せられた彼女の低い声に、俺はサーッと血の気が引いた。
「これって、お兄ちゃんだよね?どうして?お兄ちゃん、婚約してたの!?」
「それは・・・・・・」
思わず言い淀んだ俺の前で、彼女の瞳が潤んだ。
「あたしに結婚しようって言ってくれたのは、嘘だったの?答えて!お兄ちゃん!!」
「違う!嘘なんかじゃない!」
「だったら何で!?この彼女はどうしたのよ!?」
「死んだんだよ!!」
カラン・・・・!
彼女の手から零れ落ちたプラスチックの蓋が、硬い音を立てた。
「死ん・・だ・・・・?」
「・・・・そうだよ。カヨは、もう一年も前に死んでるんだ」
俺は声を落とし、静かに言った。
出来ればこんな形で話したくはなかったんだが、この状況では仕方がない。
「ちゃんと話すから、まずは座って」
俺は茫然とする彼女を椅子に座らせた。
その隣の椅子を引き、腰かけた俺は彼女の目をじっと見つめて口を開いた。
「アイツ、カヨと出会ったのは、もう5年も前の事だ」
俺は、静かにその時の事を話し出した。