表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第三章「軋む歯車」
31/75

Act.30「海辺の丘」

山を後にした俺達は、再び車を走らせていた。


「ねーえ、一体どこに行くの?」


「着いてからのお楽しみ」


そんなやりとりをしながら、車は滑るように街の中を進んで行った。

それから数時間後、もうすぐ陽も落ちるという頃になって、ようやく目的地へとたどり着いた。


「ほら、着いたぞ。降りて」


そこは、海が見える丘に建つ別荘だった。

白い壁と紅い屋根の、飾り窓が可愛らしい小さな一軒家だ。

シーズンオフだからか、周囲には車はおろか人も全く見えない。

俺は手にした別荘の鍵で扉を開けた。


「どうした?入れよ」


「う、うん・・・・」


何やら緊張した面持ちの彼女を、中へと促した。

ピカピカに磨きこまれた床に、ぱちぱちと赤く燃える暖炉。

置かれた家具は俺の趣味でイタリアから取り寄せたオーダーメイドで、この部屋に合わせた小さめの寸法で仕上げて貰っている。

オープンキッチンの台所は埃一つなく、ピカピカに磨きあげられている。

使わない間もきちんとハウスキーパーを頼んでおいた甲斐があったようだ。


「ここって・・・・」


戸惑い気味の彼女に、俺はにっこりと微笑みかけた。


「ああ。俺の別荘。しばらく使ってなかったんだけど、管理はお願いしてあるから、ちゃんと掃除はしてあるし、安心して使っていいから」


「そ、そうなんだ・・・・」


俺の言葉に、彼女はぎこちなく頷いた。


「どうした?こういうところ、キライだったか?」


「え!?いや、そうじゃなくて、その、ビックリしたっていうか・・・・。別荘なんて持ってたんだね、お兄ちゃん」


「ああ。別にこれくらい、大したもんじゃないよ。こんな小さいやつくらい、誰でも持ってるんじゃない?」


「だ、誰でも!?」


鳩が豆鉄砲を食らったような驚きの表情を浮かべた彼女に、俺は少しだけ考えを巡らせた。


(ちょっと待て。この反応。もしかして、あんまり喜んでないんじゃないか?)


「あの、お兄ちゃん、もしかしてお兄ちゃんて、すっごいお金持ちさんだったりするの?」


何やら遠慮がちにそんな事を尋ねられた。


「いや、別にそこまで金持ちじゃないよ。どうして?」


「だって、別荘とかって、普通、個人で持ってないと思うから」


「ああ、そういう事か。いや、ここは安かったから買っただけで、幾つも別荘持ってる訳じゃないよ。お前の給料でも買えるんじゃないかな」


すると彼女はほっと溜め息を吐いた。


「なぁんだ。そうだったんだ。でも安いって、いくらくらいだったの?」


「んー。たしか、中古で土地込みの1000万円かな」


「いいい、一千万円!?」


「いい値段だろ。普通ならもっと高いからな。それよりお前、お腹減ってないか?ダイニングの方に食事用意しておいてくれるよう頼んでおいたんだけど・・・・。お、あった」


ダイニングテーブルの上には、美味しそうなオードブルがズラリと並んでいた。


「手を洗って、食事にしよう。あ、洗面台はこっちだから」


彼女を伴って洗面所へ移動し、二人で手を洗ってからダイニングへと戻った。


「さ、お嬢さん、こちらへどうぞ」


椅子をサッとひき、彼女を席へと促した。


「あ、ありがと・・・・」


彼女が席に座り、俺はその向かい側の席へと着いた。

テーブルに用意されたシャンパンを開け、グラスへと注ぐ。


「さ、グラス持って」


俺に促される形で、彼女はスッとグラスを持って掲げた。


「乾杯!」


シャンパングラスなので、カチンと合わせる事はせず、ただ互いの目の前に掲げるだけに留まらせて口に含ませた。

芳醇な味わいが口の中に広がり、俺はふーっと感嘆の声を漏らした。

目の前には彼女がいる。

俺は、幸せな気持ちでいっぱいだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ