Act.29「彩りの中で」
やがて車は目的の山に着き、俺と彼女は人のいない静かな山道を二人で登り始めた。
「わぁ~、凄い!綺麗だねぇ!」
赤や黄色に色づいた木々を見て、彼女はキラキラと目を輝かせている。
「ああ。これだけ色づいてると本当に見ごたえがあるな」
「うん。それに、土と水の匂いがする」
彼女は嬉しそうに目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
「もう少し行ったら昼にしようか。いい場所があるんだ」
俺は彼女を連れて再び道成りに歩き出した。
「ほら、あそこだよ」
道の先に見える丸太の橋と川を指して言った。
「わぁ、綺麗な川!!」
「だろ?さ、川辺に降りてお昼にしよう」
「うん!!」
草の生えた土手を慎重に下り、俺達は川辺へと降り立った。
ごつごつした石に囲まれた小川は、陽の光を反射してキラキラと輝いている。
さすが自然の中の川だけあって、その流れは澄んでいて、小さな魚がそこかしこに泳いでいるのが目に入った。
「うわぁ、魚だよ魚!凄い!何か地元の山に帰って来たみたいな気分だよ」
彼女は懐かしそうに目を細めた。
「あ、そうだ。せっかくだから写真撮ってやるよ、ほら」
俺は持参したポラロイドカメラをバッグから出して見せた。
「わぁ!凄い!!準備いいね!」
「ほら、そこに立って、笑って~。ハイ、チーズ!」
パシャッ!!
ポラロイドの写真がジーッと音をたてて出て来た。
「出来たぞ。ほらこれ、やる」
俺は出来あがった写真を彼女に手渡した。
「ありがとう。大事にするね!」
彼女は、写真を見て嬉しそうに笑った。
「よし。じゃあ、お昼にしよう」
俺達は川辺の大きな石に腰かけて昼食を食べる事にした。
「じゃん!どうだ!!」
差し出されたぎっしりおかずの詰まった弁当箱を見て、俺は感嘆の声をあげた。
可愛らしい俵おにぎりに、ふっくらつやつやの卵焼き、唐揚げに、豚肉の生姜焼き、アスパラベーコン、ポテトサラダetc・・・・。
「凄いな。これ全部お前が作ったの?」
「勿論!ふっふっふ。凄いでしょ~。さ、食べて食べて」
どれにしようか迷いつつ、まずは好物の唐揚げを箸でつまんで口に入れた。
「んっ!これは美味い!お前、いい奥さんになれるな」
「奥さん・・・・」
ボッと顔を赤くした彼女を見て、俺は一旦箸を置いた。
うつむいた彼女の顎をくいっと持ち上げ、その唇を塞いだ。
「・・・・んっ、ふっ・・・」
熱い吐息が漏れる。
甘い痺れが全身を駆け抜け、あっという間に熱を帯びて行く。
歯列を割って内側へと入り込み、彼女のそれへと絡ませ、その身体を抱き寄せた。
拙いながらも懸命に応えようとする彼女のそれは心地よく、気を抜くとこちらの方が持たなくなりそうになってしまう。
もっと味わいたいという本能をおしのけ、俺は無理矢理理性を総動員して身体を離した。
「・・・・もう、終わり?」
熱を帯びた瞳でそんな事を問いかける彼女に、俺は一瞬クラリとして、けれど平静を装って答えた。
「これ以上はお預け。弁当食べたら山降りるぞ。連れて行きたいところがあるんだ」
「え?どこに?」
「内緒」
俺はニヤリと笑って再び弁当を食べ始めた。