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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第三章「軋む歯車」
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Act.29「彩りの中で」

やがて車は目的の山に着き、俺と彼女は人のいない静かな山道を二人で登り始めた。


「わぁ~、凄い!綺麗だねぇ!」


赤や黄色に色づいた木々を見て、彼女はキラキラと目を輝かせている。


「ああ。これだけ色づいてると本当に見ごたえがあるな」


「うん。それに、土と水の匂いがする」


彼女は嬉しそうに目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「もう少し行ったら昼にしようか。いい場所があるんだ」


俺は彼女を連れて再び道成りに歩き出した。


「ほら、あそこだよ」


道の先に見える丸太の橋と川を指して言った。


「わぁ、綺麗な川!!」


「だろ?さ、川辺に降りてお昼にしよう」


「うん!!」


草の生えた土手を慎重に下り、俺達は川辺へと降り立った。

ごつごつした石に囲まれた小川は、陽の光を反射してキラキラと輝いている。

さすが自然の中の川だけあって、その流れは澄んでいて、小さな魚がそこかしこに泳いでいるのが目に入った。


「うわぁ、魚だよ魚!凄い!何か地元の山に帰って来たみたいな気分だよ」


彼女は懐かしそうに目を細めた。


「あ、そうだ。せっかくだから写真撮ってやるよ、ほら」


俺は持参したポラロイドカメラをバッグから出して見せた。


「わぁ!凄い!!準備いいね!」


「ほら、そこに立って、笑って~。ハイ、チーズ!」


パシャッ!!


ポラロイドの写真がジーッと音をたてて出て来た。


「出来たぞ。ほらこれ、やる」


俺は出来あがった写真を彼女に手渡した。


「ありがとう。大事にするね!」


彼女は、写真を見て嬉しそうに笑った。


「よし。じゃあ、お昼にしよう」


俺達は川辺の大きな石に腰かけて昼食を食べる事にした。


「じゃん!どうだ!!」


差し出されたぎっしりおかずの詰まった弁当箱を見て、俺は感嘆の声をあげた。

可愛らしい俵おにぎりに、ふっくらつやつやの卵焼き、唐揚げに、豚肉の生姜焼き、アスパラベーコン、ポテトサラダetc・・・・。


「凄いな。これ全部お前が作ったの?」


「勿論!ふっふっふ。凄いでしょ~。さ、食べて食べて」


どれにしようか迷いつつ、まずは好物の唐揚げを箸でつまんで口に入れた。


「んっ!これは美味い!お前、いい奥さんになれるな」


「奥さん・・・・」


ボッと顔を赤くした彼女を見て、俺は一旦箸を置いた。

うつむいた彼女の顎をくいっと持ち上げ、その唇を塞いだ。


「・・・・んっ、ふっ・・・」


熱い吐息が漏れる。

甘い痺れが全身を駆け抜け、あっという間に熱を帯びて行く。

歯列を割って内側へと入り込み、彼女のそれへと絡ませ、その身体を抱き寄せた。

拙いながらも懸命に応えようとする彼女のそれは心地よく、気を抜くとこちらの方が持たなくなりそうになってしまう。

もっと味わいたいという本能をおしのけ、俺は無理矢理理性を総動員して身体を離した。


「・・・・もう、終わり?」


熱を帯びた瞳でそんな事を問いかける彼女に、俺は一瞬クラリとして、けれど平静を装って答えた。


「これ以上はお預け。弁当食べたら山降りるぞ。連れて行きたいところがあるんだ」


「え?どこに?」


「内緒」


俺はニヤリと笑って再び弁当を食べ始めた。

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