Act.13「梅雨明けの曇り」
あれからもう二週間。
会社の喫煙所で、俺は自販機で買ったコーヒーを前に、窓の外を眺めていた。
すっかり梅雨明けした青い夏の空を見ながら、俺は大きな溜め息を吐いた。
その理由はただ一つ。彼女から電話が来ない。
「なんでだよ?」
使い方がわからない、なんてベタな事はないと思う。
きちんと使い方はレクチャーしたし、説明書も渡した。
あの携帯電話のアドレス帳はもう全部消去したけど、俺の持ってる仕事用の携帯電話の番号と、俺の部屋の電話番号はきちんと登録し直しておいた。
登録されたアドレス帳機能を使えば、難なく俺に電話がかけられる筈であり・・・・。
まさかとは思うが、俺に電話したくないとか?
彼女に何かあった、というのは考えにくい。
何故なら俺と彼女は仮にも同じ会社、それも同じ部署の人間同士だ。
実際に仕事をしている棟が違うとはいえ、彼女の身に何かあったなら、すぐに耳に入って来る事だろう。
それを考えると、電話がかかって来ない理由は、やっぱり単純に彼女に電話をかける気がないから、としか思えない訳で。
「まずったかなぁ」
思わず呟いた時だった。
「何がまずったんだ?」
「うわぁ!!」
背後から声をかけられ、俺は思わずびっくりして振り返った。
「や、山田さん!おどかさないで下さいよ~」
「はは。悪い悪い。そんなに驚くとは思わなくてな」
そう言って、声をかけた主、山田さんは豪快に笑った。
山田さんは俺の職場の先輩だ。
男らしいガッシリした体格もさることながら、面倒見のよさで他の同僚からも慕われている中堅社員である。
「で、お前、何昼間っから空見て溜め息吐いてんだ?何かあったのか?」
「いえ、その・・・・」
俺が口ごもると、山田さんはガシッと俺の肩をつかみ、こそこそと耳にささやいた。
「・・・・女か?」
その言葉に、俺はカーッと顔が熱くなるのを感じた。
「やや、山田さん!!」
慌てて腕を振りほどいた俺に、山田さんは笑いながら言った。
「はは。図星か。お前にしちゃ珍しい。しかし仕事中に女の事を考えるのはイカンぞ。今は仕事に集中しろ、な」
「・・・・はい。すいません」
「おいおい、そんなに落ち込むなよ。よし、今日は仕事終わったら久しぶりに飲みに行こう!俺がおごってやる。な!」
バンバン肩を叩きながら言う山田さんに、俺は思わず顔をほころばせ頷いた。
そうだ。この際山田さんに相談してみるのもいいかもしれない。
そう思い、幾分軽くなった心で、俺は再び仕事場へと戻ったのだった。