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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第二章「加速する想い」
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Act.12「お兄ちゃんと携帯電話」

シャワーからあがって来ると、彼女は窓に手をついて立っていた。


「もう大丈夫なのか?」


窓の外を見ていた彼女は振り返り、ぎこちない笑みで答えた。


「ん、ごめん。心配かけたね」


先程までの無機質さはもうない。

けれど、どこか悲しさを含んだ声だった。

俺は思わず抱きしめてやりたい衝動に駆られて、それをぐっと抑え込んだ。


「そっか。あんまり無理、すんなよ」


くしゃり。

彼女の頭を撫でると、彼女は困惑したような声で俺の腕を掴んだ。


「ちょっ・・・・子供じゃないんだから」


「はは。子供だよ、お前は」


そのままくしゃくしゃと頭を撫でてやった。

俺の腕を掴む彼女の手から力が抜けて、するりと下に落ちた。

ぽたり。

滴が、フローリングの床に落ちたのが見えた。


「・・・・・・・・!!」


瞬間、俺は彼女を、抱きしめていた。


「泣けよ。俺が、いてやる」


雨の音が、妙に耳に付く。

静かな部屋の中。

俺のシャツが、濡れていく。

腕の中にいる、小さな彼女の、体温。

震える小さな身体を抱きしめながら、俺はただ、守りたいと思った。

何があったかもわからない。

どうしていいかもわからない。

けど、こんなふうに泣くコイツを、どうして見ないフリ出来るだろう?


どれくらいそうしていたのだろう。

しばらくして、彼女はそっと身体を離した。


「もう大丈夫。ごめんね」


「気にするな。俺でいいなら、いつでも胸貸してやる」


「でも、そんなの悪いよ。赤の他人にそんな・・・・」


赤の他人。

その言葉がグサリと胸を刺す。

俺は、胸の痛みなど素知らぬ顔で笑って言った。


「いいって。他人で気が引けるならさ、今から俺の事、兄貴だと思えばいい」


「兄貴?」


「そう。兄貴。言ってみな。“お兄ちゃん”て」


すると彼女は、戸惑いながら口を開いた。


「お、お兄・・ちゃん・・・・」


「よく出来ました。じゃあ今からお前は俺の妹!な!」


コクリ。

彼女が頷き、俺はわしわしと彼女の頭を撫でた。


「これからは、泣きたい時はお兄ちゃんを呼びなさい。いつでも飛んで行ってやるから」


「・・・・・・うん」


小さく照れたように頷く彼女に、俺の胸は不覚にもまたドキリとし、でも、それを隠して言った。


「よし。じゃあいいものやる」


俺はごそごそと部屋の隅に置いたカバンを漁り、ある物を取り出した。


「これ。お前にプレゼント」


彼女に渡した。

それは、某ペンギンキャラクターの携帯電話だった。


「・・・・これって、電話?」


「そう。俺、二台持ってるんだ。それは予備のやつ。お前にやるよ」


すると彼女は、慌てたように言った。


「こんなの、もらえないよ!」


「いいんだよ。お前、寮の部屋に電話ないだろ?いちいち取り次いでもらうの面倒なんだよ。今日みたいに待ち合わせに困るし。頼むからそれ、持っててくれ」


そう言うと、彼女は渋々電話を受け取ってくれた。


「・・・・あ、ありがと」


「あ、請求書はお前に回すから、自分で払えよ?」


「もちろん!大丈夫。そこまで迷惑かけたりしないから安心して!」


ようやく、安心したように笑った。


うん。やっぱり彼女は、笑顔が一番似合ってる。


「よし。じゃあそいつは今日からお前の物な。大事にしろよ」


「うん!ありがとう!」


無邪気に笑った。

その笑顔が眩しくて、俺は目を細めた。


外はまだ、どしゃ降りの雨。

それでも俺達の心は、ちょっとだけ晴れたように思えた。

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