Act.12「同類」
外ではまた強い雨が降り出していた。
テレビすらついていない室内には、窓に叩きつける雨の音だけがやけに大きく響いている。
そんな中で、彼女はまるで抜け殻のように固い床に身体を投げ出していた。
「寝てる・・・・のか?」
「ううん・・・・起きてる・・・・」
彼女のその声は、いつもの明るさが嘘のように無機質だった。
俺は驚いて彼女に近付いてその顔を覗き込んだ。
「・・・・・・!」
その表情を見て、俺は思わず凍りついた。
それはもう、まるで別人。冷たくて、無機質な・・・・・。
いつもの彼女からは想像もつかないその様子に、俺は思わずたじろいだ。
「お前・・・・どうしたんだよ、一体!?」
「別に・・・・。ちょっと、思い出しただけ」
「思い出した?何をだ?」
尋ねた俺に、彼女は答えた。
「言えない・・・・」
それは、明らかな拒絶だった。
「・・・・何で、そんな・・・・。俺、何かしたか?」
途切れ途切れの俺の問いに、彼女は無機質な声のまま答えた。
「違う。ただ、思い出しちゃっただけ。あるでしょ、そういう、どうしようもない時って」
彼女のその答えに、俺は戸惑いながらも自分にも同じような事があった事を思い出した。
“そういう時”は唐突にやって来て、あっという間に心を浸食していく。
それは、“そういう記憶”を抱えた者にしか解らないだろう特有の感覚なのだと思う。
「・・・・そうか。でも、俺の前でそんな顔するな。どうにかしたくなる」
胸を掻きむしられるような痛みに襲われて、俺は彼女を見つめた。
「・・・・そう。ごめん。今は、どうしようもない・・・・」
無機質なままの声で答えた彼女が、もう耐えられなくて、思わず彼女の上に覆いかぶさった。
「・・・・・襲うよ?」
すると彼女は、表情一つ変えず、無機質なまま答えた。
「あなたはそんな事しないわ。友達だもの・・・・ね」
その言葉に、俺は心臓を掴まれたような思いがした。
「信用・・・・してるんだ?」
「ええ」
無機質な、けれどきっぱりとした答えだった。それはもう、どうしようもないくらいの。
俺はそれ以上何も出来なくて、身体を起こした。
「・・・・悪い。ちょっと、外す」
俺は逃げるようにメインルームを出ると、急いで風呂場へ向かった。
身体が熱くて、頭がどうにかなってしまいそうだった。
頭をよぎるのは、彼女のあの姿。無機質なあの声と、あの、瞳・・・・。
彼女の中には闇がある。それは多分、俺と同種の物。
俺と彼女は、間違いなく“同類”なのだ。嫌になるくらい、思い知った。
俺は彼女に、何が出来るんだろう?
冷たいシャワーを頭から浴びてみた。それでも、俺の身体を侵す熱は、なかなか引いてくれそうになかった。