Act.10「誘い?」
梅雨が終わった。
降り続いていた雨が嘘みたいに、窓の外には馬鹿みたくよく晴れた青空ばかりが見える。
照り付ける日差しは熱くて、季節はもうすっかり夏なのだと嫌になるくらい思い知る。
外はあんなにも晴れているのに、俺の心の中は未だに梅雨の最中にあるかのようにどんよりしていた。
「ふぅ・・・・」
小さく溜め息を吐き、俺はまた思い出していた。あの雨の日にあった、あの出来事を・・・・。
「ねえ、ドライヤー借りていい?」
洗い物をしている俺に、タオルで髪を拭きながら彼女が尋ねて来た。
「ああ。ちょっと待って」
俺はサッと手に付いた泡を水で洗い流すと、キッチンからメインルームへと戻った。部屋の隅の方に放置してあるドライヤーを取り、彼女に手渡した。
「ほいこれ。あ、コンセントはそこな」
すぐそばに見えるタコ足配線を示した。
「ん、ありがと」
短くお礼を述べてドライヤーを使い始めた彼女を残し、俺は再びキッチンへと戻った。やがて洗い物を終えて戻ると、ちょうど彼女がドライヤーを使い終わったところだった。
「これ、ありがとね。アンタもお風呂入って来たら?さっき買い物でちょっと雨に濡れてたでしょ?早めにあったまっといた方がいいよ。風邪ひくから」
「そうだな。じゃあ俺も入って来るか。あ、お前はテレビでも見てくつろいでてくれよ」
「うん。ありがと」
テレビを見始めた彼女を背に、俺はタオルを手に風呂へと向かった。若干ぬるいが、熱いのが苦手な俺には丁度いい湯加減だった。俺は風呂場の椅子に腰かけ、頭をガシガシと洗いながら考える。
彼女が風呂に入って、俺も風呂に入るよう促されて。
これは、もしかしなくてもそういう意図なのか?
いやいや、いくらなんでも安直すぎだろう。
何しろ彼女とは実際に知り合いになってまだ少ししか経ってないのだ。
それがいきなりそういう関係に、とか、いくら何でもないだろう。
単純に、濡れた俺を気遣って、と考えるのが自然だろう。
そう考え、俺は変な期待を心の奥へと強引に押しやった。
色々と考えてしまったが、とりあえず俺は風呂をあがって服を着替え、彼女の待つメインルームへと戻った。
「・・・・・・!?」
そこで俺が見たのは、実に意外な光景だった。