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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第一章「始まりの雨」
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Act.9「そして歯車は動きだす」

ダシのきいた、なめこと三つ葉の味噌汁。ざっくり潰したポテトとゆで卵の入った濃い味のポテトサラダ。見事な半熟具合の卵に三つ葉の緑が綺麗な親子丼。

彼女が用意してくれた親子丼定食は、見た目だけでなく味もなかなかのものだった。


「うーん、これは確かにイケるな」


俺は感心しながら箸を動かし、あっという間に全てを食べ終えていた。


「ごちそうさま」


まだ戻って来ない料理の作り主に感謝を込めて言った。

食後の満腹感でいっぱいの至福の時を味わいながら俺は、微かに聞こえて来るシャワーの音に、ふとこの後の事を考えた。


食べている間は気にしないで済んだが、この後彼女が風呂からあがって来たら、俺は一体どうするつもりなんだ?


そもそもこうなったきっかけは、ずぶ濡れになった彼女をそのままにしておけなかった、ただそれだけの事だった。

しかし、本音を言ってしまえば、あわよくば彼女とどうこうなりたい、という気持ちがない訳ではない。俺だって健全な若い男なのである。狭い部屋に二人きりっていうのは、やっぱりそれなりに期待してしまうのが自然というものだろう。


とはいえ、彼女はまだ未成年で、俺は一応20歳を超えた成人男子。

彼女自身にその気がないのに手を出すのは、大人の男として卑怯ではないだろうか。


じゃあ、彼女にもしその気があったら?その時は一体どうするつもりなんだ?


俺は自分自身に問いかけた。

俺は彼女を、どうしたいと思ってるんだ?彼女と、一体どうなりたいと思ってるんだ?

考えてみたが、答えは出なかった。よく、わからない。それが今の本音なのだ。


“アイツ”以外の誰か、を想う事。それが、今の俺に出来るのか?


彼女に惹かれているらしい事は確かだ。でなきゃデートに誘ったりしない。

だけど、それとこれとはやっぱり別だ。

俺の中に未だ居続ける“アイツ”。その想いを凌駕する事なんて、今はまだ考えられない。

中途半端にどうこうしても、彼女を傷付ける事になりかねない。


「ふぅ・・・・」


小さく溜め息を吐いたその時だった。


「お風呂ありがとうね」


彼女がお風呂から戻って来た。


「どうだった、味?」


尋ねられて、俺はすぐに笑顔を浮かべて答えた。


「おぅ。美味かった。お前、意外と料理上手いんだな」


その答えに、何故か彼女は表情を曇らせた。


「そう?なら、いいんだけど・・・・」


「ん?どうした?」


尋ねた俺に、彼女は微妙な表情を浮かべた。


「え?」


「え、じゃないだろ。何でそんな顔してんだ?」


俺の問いかけに、彼女はためらうような表情を浮かべて口を開きかけ、すぐにいつもの明るい表情に戻った。


「何でもない。それより、作ってあげたんだから、当然後片付けはあんたがやってくれるのよね?」


「仕方ないな。まあ、洗い物は得意だし、やってあげてもいいぞ」


「あはは。得意なんだ?じゃあよろしく」


いつものようにカラカラと笑う彼女の声は、もうすっかりいつもの明るさを取り戻していて、俺はそんな彼女をメインルームに残し、キッチンで一人洗い物を始めた。


この時俺は気づいてなかった。いつものように笑う彼女の中に、どんな想いが隠されていたのか。鈍感な俺は、ちっとも解ろうとしてなかったんだ。いや、気付いてて見ないふりをしたかったのかもしれない。



カチリ。

運命の歯車が音をたてて廻り始めた事に、俺はまだ、気付く由も無かった――。

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