5話 魔術の祭典
昨日、遂に剣術の修行に区切りがついた。
それは課題が残り1つになったことを意味する。
だが、道は果てしなく長い。
1.5秒。
これが完成度50%レベルの『炎戒の龍』の最長継続時間だ。
『炎戒の龍』の完成形は、縦幅3メートルを超えて、長さは50〜100メートルが目安。
継続時間に関しては5秒が最低ラインだそうだ。
今の俺は、縦幅2メートル、長さは20メートルのやや小さめの龍だ。
ちなみに、ドーラ師匠は大きさは申し分ないが、継続時間は3秒だ。
…だから7割か。
正確な数値ではないと思うが納得だ。
今日からは剣術修行は通常の基本練習に戻し、魔術の練習に当てる。
魔術の練習はけっして『炎戒の龍』の練習だけではない。
前半は主に上級魔術や、それらを応用した実戦訓練を行う。
ナナ師匠と対面し、その場からは一歩も動かずに魔術をぶつけ合う。
大体は俺がふっ飛ばされて終わる。
しかし、ここ最近は試合の時間が延びてきている。
どうやら俺の力が少しずつナナ師匠に近づいてきているらしい。
最近はよく
「私もそろそろ焦ってきました」
とナナ師匠が言っている。
地声で。
念話を使う余裕がなくなるほどマジで焦ってるらしい。
後半は『炎戒の龍』の練習だ。
今は念話をしながらアドバイスを度々もらっている。
『魔力に少しむらができてるよ』
『もっと影魔術を利用してみて』
というような、結構的確なアドバイスがとんでくる。
ナナ師匠、この技はできないはずなのにすごいな。
これはおよそ1時間ほど続く。
最終的には俺が魔力切れでぶっ倒れてしまいだ。
このサイクルをひたすら繰り返す。
季節は移り、春が来た。
雪は溶け、辺りには青々とした草花が広がっている。
俺のやることは変わらない。
ひたすら練習だ。
『レオ、ちょっと家の中に来てください』
遠くから念話がとんできた。
『わかりました』
俺は念話で返事をして、家に入った。
すると、家族全員とドーラ師匠、ナナ師匠が椅子に座っていた。
姉さんもいるなんて珍しい。
なんだろう?
「明日から1カ月、私とウェストンまで行きませんか?」
ナナ師匠はそういった。
ウェストン。
『人族世界』の西の国だ。
港町として有名で、多くの貴族や冒険者が身分種族関係なく集い、英気を養い、頻繁に祭りが行われている『宴の国』だ。
「そこで10日後から魔術の祭典が2週間開催されまして、そこでは名のある種族や魔術研究者、魔術に自信がある人たちが互いの魔術を見せ合って、意見を交わしたり、伝授したり、競ったりが行われるんですよ。」
「その祭りは私も見たことがあるけど、かなりの迫力と熱狂でびっくりしたわ」
カーラが口を開いた。
彼女は職場がウェストンにあるということで、そういった祭りを度々目にしてるらしい。
バオスも口を開く。
「たしかにそこなら何かコツが掴めるかもな」
「けど行かせて大丈夫かしら?」
カレラは心配そうだ。
「大丈夫さ母さん。レオだってもう5歳だ。今の5歳児は学校に通うために王都に行っている子だってたくさんいるだろ?」
「そうじゃなくて、模倣眼よ」
「それに関しては問題ない」
ドーラ師匠も口を開く。
「この祭典は模倣眼持ちが見ても支障がないようにルールが作られている。だから、レオが行っても問題ない。」
「そう…ならよかったわ…」
カレラは安堵した。
「して、どうするんだレオ?」
そんなの断る理由はない。
「行きたいです。ナナ師匠、行ってもいいですか?」
「そうですか。では明日出発しますか。準備しててください。」
「はい!」
こうして俺は、はじめて村の外に行くことになった。
朝になった。
天気は快晴。
風がとても心地よい。
昨日はあの後部屋にこもって身支度をした。
ただ、荷物の半分はカレラがもう用意してくれていた。
準備中、いつもは静かなナナ師匠の部屋から鼻歌が聞こえてきた。
ナナ師匠も楽しみらしい。
そして俺は朝食を済ませた後、馬車に荷物を乗せた。
馬車はナナ師匠が操縦するらしい。
「レオ、気をつけてね!怪我のないように!ご飯はちゃんと食べるように!後は…」
「お母さん、大丈夫だよ。レオ、そっちには私も仕事でいるだろうから何かあったら私を頼んなさい。」
2人とも大袈裟な。
俺が滞在するのは2週間だぜ。
「レオ」
バオスだ。
「しっかり学んでこい。」
「はい!」
俺は、バオスの目を見て返事をした。
バオスも安心したように見ている。
「そっちには俺の竜人仲間がいる。そこの宿に泊めてもらえ」
「ありがとうございます。ドーラ師匠」
「うむ、しっかりな」
こうして俺は、家をたった。
俺とナナ師匠はエイサール村からウェストン国までを11日、つまり1週間で移動する。
エイサール村とは、俺らが住む村だ。
本来なら6日ほどで着くらしいが、修行中の子供が乗っているということ、ナナ師匠の体力がやや少ないことを加味して、所々で止まっては、修行メニューをやったり、休息をしたりする。
それを逆算すると、大体1週間らしい。
そして、この旅で注意すべきことは、ズバリ魔獣種だ。
魔獣種とは、この世界に存在する(人に対して)殺傷能力を持つ生物のことだ。
鹿とか犬みたいな動物は、獣種というらしい。
基本的には魔獣種と獣種は意思疎通ができず、本能で動くやつが大抵らしい。
ただ、一部の獣種、魔獣種は念話が使え、心伝族に懐くやつもいるらしい。
ここら周辺には、危険度が高いやつはあまりいないらしいが、食料を荒らしたりするやつがいるらしいので、警戒はしている。
また、滅多にないが、『はぐれ種』というのがいることがあるらしく、そいつらを主に警戒しながら旅を続ける。
旅を始めて6日目。
ウェストンまであと半分だ。
今日は湖の近くで夜を明かすことにした。
俺は、家でしていたように本を読む。
…あぁ、久しぶりに楽器いじりてーな。
そんな事を考えていると、
『レオは今、将来の夢とかあるんですか?』
相変わらずの念話がとんできた。
『そうですね…今のところはないですが…』
『まあ、魔術と剣術は義務的なところが多いから、その気持ちは少しわかります』
『師匠もそんな時期が?』
ふと聞いてみた。
「そりゃあもちろんありました。それで家を出てからはゆっくりやってこって感じで軽いノリで冒険者になりました」
念話やめた。
珍しい。
「まあレオはゆっくり考えなさい」
「はい」
「けど、私みたいにゆっくりしすぎるのはだめですよ。私は心伝族なので時間にはルーズですので、参考にしないように」
「…そういえば、師匠ってやっぱり心伝族だったんですね」
「あれ?言ってませんでした」
「はい…」
「ちなみにドーラが竜人族なのはわかってますよね?」
「まあ、さすがに技を見れば…」
「…ッ、アハハハハ」
「アハハハハー」
この夜は2人で笑い合って過ごした。
出発して11日。
予想とぴったりである。
「着きましたよー」
遂にウェストンに到着した。
国ではもう祭典が始まっていて、いたるところで魔術と歓声が国を包んでいた。
「ドーラの知人の宿に物を置いたら、早速見に行こうか」
「わかりました!」
俺達はドーラ師匠の知人。サン◯…じゃなかった。
サンダさんの宿に荷物を預けて、早速広場に向かった。
「水衝線!」
「岩石壁!」
広場の中央では魔術の試合が行われている。
聞く話によると、この国には6つの大広場があり、うち2つでは試合が、2つでは魔術交換会が、2つでは魔術審査が行われているらしい。
魔術交換会とは、この前話していた、「特有魔術の伝授や意見交換」が行われている。
魔術審査では、5つのブースがあるうちの1つで、5人の審査員により「表現力」「威力」「実用性」「効率性」「難易度」で評価されるらしい。
魔術師はそれを元に、さらに研鑽を積むらしい。
俺とナナ師匠は今日は、宿に一番近い広場でやっていた魔術試合を見ることにした。
結果から言うと、今日は成果なしだ。
まあ、参考になるものはあまりないだろう。
その中からどうにかコツを見つけ出してやる。




