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影を纏う転生者 〜平凡な高校生の異世界人生録〜  作者: 仮想猫
影纏の術師編 〜ドラマルト〜
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61話 去る前に故郷の味

事件から2ヶ月と1週間。

今日はニナと一緒に食堂にいた。

俺達は4人がけのテーブルに座った。

俺とニナが同じサイドに座っている中、逆サイドにはジャイフのメンバーが座っている。

「というわけで、お越しいただきありがとうございます」

「お疲れ様。そっちは大丈夫だったのか?」

「それはもう…大変でした…」

「あ…なんかすまんね…」

ソオによる襲撃…いや、正確に言えば俺とソオとの戦闘により、校舎は崩壊はしなかったものの、中が多少ぐちゃぐちゃになってしまった。

馬骨の衝突が学校を揺らし、俺の魔術が周囲の温度を変えてしまった。

それにより、この食堂も多少被害があった。

俺は怪我をしたり、他の復興の手伝いをしたりなどで、食堂に顔を出せていなかった。

「あの襲撃のあと、器具は割れてるわ、食材の一部がダメになってるわで大変でした」

「すまんね…俺のせいで…」

「いやとんでもない!あなたがいなきゃ、私達はもう料理ができなくなってましたよ!」

そう?

そう思っていいのかい?

いいっていうんだったら…一旦この話はおいておこう。

「んで。今日は何の用だ?」

「言わなくっても分かってるでしょう?実食ですよ」

そう。

今日は実食会である。

俺が春に旅立ということを知ったジャイフは慌てて作業を始め、「最後に味見してください!」って感じでこの会を急遽開催した。

味見役としては、前世での味を知る俺と、この学校のニーズに合うかを確かめるためのニナが担当することになった。

「じゃあ早速始めようか。まずは何だ?」

こうして実食会が始まった。

「まずは日本らしいものを…どうぞ」

そう言って前に出されたのは…


「…豆腐?」


目の前に出されたのは豆腐だった。

よく見ると、豆腐の上にはヒラヒラした何かと、黒い液体がのっている。


「これ…冷奴か?」


「はい、そうです」


待て待て?

ここは学食だよな?

学食で冷奴ってあんま聞かないんだが…


…ん?


てか…このヒラヒラしたの…


まさか!?


「鰹節!?なんで!?どうやって作った!?」

「ファジサイトに行ったメンバーから『似た魚が手に入った』と連絡を受けまして、試しに作ってみました」

…落ち着け。

そういうのはあってもおかしくないだろ。

問題は味だ。

そう頭の中で繰り返し、俺は一口食べた。

「…ん!」

「どうでしょう…?」

「…間違いない…冷奴で…鰹節だ」

「「「よし!」」」

それを聞き、対面に座っていたメンバーはもちろん、厨房にいた面々も声を出した。

「けどそれはあくまで通過点だ!問題は次だ」

そう言って俺はニナの方を向いた。

そこには…


「凄っ…濃い味なのにとても美味しい!」


言う前にもう食ってるーーー!

ニナは俺が「どうぞ」と言う前にもう食べていた。

…あ…そうか……

前回の試食会は、ニナは分身しかいなかったんだもんな。

よっぽど食べたかったんだろう。

いや…けど俺…その時試食会の飯、部屋に届けたよな…?

「…まあいい、次行こう」

「はい」






「お待たせしました。次はこちらです」

そう言って前に出されたのは…麺だった。

少し醤油の匂いがして、麺の上にはきのこらしきものが添えられている。

これって…


「…醤油パスタだよな?」


「はい」


「日本食外れるんだ…」


「焼きそば作ってたら…開発したソースが失敗してしまい…醤油で代用したらできちゃいました」


もうそれ…日本食の食堂じゃなくね?

…まあいっか。

この世界の人だったら…

言わなかったらバレないか。

「…とりあえず…いただきます」

そうして俺は、用意されたフォークとスプーンでパスタを巻き、ひとくち食べた。

「…バターがほしいな」

「それは近日で…」

発酵乳製品はまだ開発中らしい。

「レオ!これも美味しい!」

ニナはそんな事を考えている俺と関係無しに目の前の食事にがっついていた。

ニナ…お前、もしかして…かなりの食事好きなのか?

「さっきソースが失敗したって言ってたが…」

「ソースに入れたい香辛料が…かなり辛くって…ソースにするにはまだ時間がかかりそうです」

「そうか…わかった」

俺も後で作ってみよう。

「そういえばレオさん」

パスタを食べていると、ジャイフの1人が俺に話しかけてきた。

「なんだ?」

「次の旅ってどこに行くんですか?」

「最終的には故郷に帰ろうと思っている」

「あ…エイサールですか?」

「なんだ?」

「実は頼みたいことが…」

頼みたいこと?

なんだろうか…

「後で…麦を送ってくれませんか?」

「麦?」

なんで突然…


「TKGしたいんです」


え?

卵かけご飯?

「なぜ麦?」

「米がないので、麦で代用しようと思いまして。あと…麦がそっち方面の地方でしか育たないんです」

あ、なるほど。

じゃあしょうがないな。

「わかった。準備ができたら送っとく」

「ありがとうございます」

さて…次が最後の料理だ。






「最後の品は…こちらです」

そう言って前に出されたのは…鍋だった。

そして…昔懐かしい匂いがした。

忘れもしない…あの高級料理だ。


「この匂い…まさか…」


俺は熱そうな鍋の蓋を袖越しに掴み、開けた。

開くと、白い湯気の中に、茶色い液体に浸かった肉や豆腐など…

そう…これは…


「すき焼き!?」


「はい…できました」


とうとうこの世界に前世の高級料理が来やがった。


「…けどこれ…学食だよな…」


「一応ここ…夕食で来る人もいるんですよ」


あ、そうだったんだ。

「味付けは?」

「醤油と酒。あとは自作のみりんです」

一般的なすき焼きのようだ。

そして肝心なのは…

「んで…卵は?」

「もちろんあります」

そういって、俺の目の前に空のお椀と卵が置かれた。

俺はその卵を割り、かき混ぜた。


「え!?」


その光景を見たニナは驚いた。


「「え?」」

「卵…生で食べるの!?」


…あ。

もしかしてこの世界…

生卵の文化がない?

…まあそれは前世でもあったし…しょうがないか。

「じゃあニナ。俺の食べ方を見てろよ」

そう言って俺は肉を一枚取り、卵につけ、口の中に入れた。

…う…うまい…。

とても美味しい。

何年ぶりだろうか?

最後に食べたのが前世の12歳の時だから…

ざっと20年以上前か…

幸せだ…

「うまいよ…これ…」

「よかったです!これが今日の本命だったので…」

「…よしニナ…食べてみろ」

「う…うん」

そういうと、ニナは恐る恐る肉を卵につけて食べた。

「…ん!?」

「「ど…どうだ?」」

俺とジャイフのメンバーはニナの反応を待った。

………。

………。



「美味しい…」



「「シャッ!!」」


俺とジャイフの人はガッツポーズをした。

「じゃあこれ、商品化しても…」

「大丈夫だろう」

「よし!…では、明日から販売しようと思います」

こうして、実食会はお開きとなった。






「ニナ、卒業式っていつだ?」

「3週間後だね」

部屋に戻り、俺とニナは少しの時間、談笑していた。

「レオは…というか、私達っていつ出発するんだっけ?」

「卒業してから…1週間か2週間くらいかな?」

卒業式が終わるのと同時に、俺も特別講師の期間を終え、退職となる。

そうなれば、俺達はエイサールに帰る。

俺の4年間の旅…

さらに言えば、家族の捜索という目標を掲げてきた俺の9年間は終りを迎える。

旅の終わりには名残惜しさもある。

けれどそれ以上の達成感が、今の俺にはあった。

多くの人と出会い、経験をし、学び、教え、高めあった。

それは過去ではあるが、消えはしない。

今を生きることに意味があると、そう思っている。


「…もうすぐ終わりか……」

「レオ…なんかしんみりしてない?」

「あぁ…ごめん」

「いいよ…けど…」

「ん?」

「そういう顔…初めて見た!」


そして夜は更けていく。

時間はあっという間に過ぎ、旅立ちの日が近づいていく。

そんなことを思いながら、俺達は出発の準備を着々と進めるのであった。


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