50話 夜勤
新学期から1ヶ月。
サークルも安定し、自分の研究に専念できる時間が増えた。
そんなある日のこと。
俺は例のごとく理事長室に呼ばれた。
「今日の案件はなんでしょう?」
「まだ何も言ってませんよ?」
この1年、俺は度々ジルさんから依頼を受けていた。
今日もそうだと思っていたが、少し違った。
「今日の当直をお願いします」
「当直…ということは夜勤ですか?」
「まあ、そんな感じです」
夜勤か…
この世界にもそんなのがあったのか。
「でもなんで突然?」
「元々の当直が女子の保護生徒の部屋に侵入したらしく、捕まりました」
「あ、なるほど」
だからジルさん…疲れた顔してるのか…
「なので、今日だけ変わってくれませんか?」
「構いませんよ」
「ありがとうございます」
こうして俺の夜勤が決定した。
夜になり、俺は飯を済ませてから保護生徒エリアに向かった。
当直の仕事は主に研究室と保護生徒エリアの見回りだ。
しかし夜勤か〜
人生初だな。
前世でもやったことない。
…まあ、前世は学生だからやるわけないが。
俺は早速当直を始める。
「まあ移動面倒だから分身出すか…」
俺は「影分身」をして配置した。
そして、保護生徒エリアの中央の位置で椅子に座った。
………。
…暇だ。
何もやることがない。
脳内には分身のため息も聞こえてくる。
そう考えていると…
「……っ」
「…ん?」
なんか気配がした。
誰だ?
こんな夜中に?
保護生徒?
もしくは侵入者?
そう考えていると。
「レオ先生?」
そこにはカナルが立っていた。
正確には分身だが。
「カナルか。どうした?」
「眠れなかったので散策です。先生は?」
「当直代行」
「あ、お疲れ様です」
…なんだろうか。
カナルが喋れるようになったからなぜか気分が浮ついている。
分身ができるようになってくれたのがよっぽど嬉しかったのだろうか?
よくわからん。
「私も当直、付き合ってもいいですか?」
「寝ていいんだぞ?」
「眠れないので」
「なら…いいが…」
カナルの最近様子がおかしい。
なんというか…だいぶ人懐っこくなった。
会話の量はまだしも、人との距離が近いし、サークルにも1番積極的だ。
なにかいいことでもあったのだろうか…
「先生って夜はいつも何してるんですか?」
「ん〜いつもはだいたい研究してるか家族と戯れてるな」
「そういえば家族を探してるって言ってましたけど、どれくらい見つかったんですか?」
「妹と師匠は旅で見つかったな。姉は自力で故郷に帰ったらしい」
「自力ですか!?」
「そうらしい。まだ会ってはいないが」
「…それで、あとは誰を探してるんですか?」
「あとは一緒に暮らしてた友人だな。この国にいると思っているんだが…まだ見つかってない」
「そう…ですか…」
………。
………。
…なんで空気が重くなった?
なんか変なこと言ったかな?
「そういえば、カナルはこれからなにかしたいってのはあるのか?」
「私ですか?」
そう聞くと、少し考え込んだ。
「私は…とりあえず故郷に帰ろうかと」
「故郷か…俺とほぼ同じだな」
「ふっ…」
そう言うと、カナルは笑った。
「どこにおもしろ要素があった?」
「ほぼと言うか、全く同じですよ!」
全く?どういうことだ?
「そうなのか?」
「そうですよ!」
…この顔。
どこかで見たことがある気がする。
「そういえばカナルの出身ってどこなんだっけ?」
「それは口外禁止なので」
「あ、すまん」
「全然大丈夫ですよ」
会話はこんな感じで続いていった。
夜は長いようで、会話が続いているのに時間はあまり流れていない。
まだ日は登らないし、騒がしくもない。
窓から月光が差し込むだけである。
「先生はどうして魔術を研究してるんですか?」
魔術を研究する理由…か…。
「…俺には目標が何個かあるんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ。その目標の1つは師匠だ」
「師匠ですか?」
「俺には2人の師匠がいる。1人は剣術を教えてくれて、もう1人は魔術を教えてくれた」
「そうなんですね」
「剣術の師匠は、エイサールの事件の後、俺につきっきりで修行をつけてくれた。今は父さんのサポートをしてくれている。魔術の師匠は、今も俺と共に行動をして、俺の研究や生活を手伝ってくれている」
「なるほど」
「俺は2人に恩返しすること、そして2人のように何かを極めたいと思っているんだ」
「いい目標ですね」
「そして、俺にはもう1つ目標がある」
そう言うと、カナルは聞いてきた。
「もう1つは…」
俺は少し考え込んだ。
こういった内容は言っていいものなのか…
けど、俺は話すことにした。
「…母の仇を倒すこと」
そう聞くと、カナルの目の色が変わった。
「仇…ですか?」
「…俺は旅で2つの目的を掲げていた。一つは家族探し、もう1つは…俺の情報を流した真犯人を殺すことだ」
「…はい」
「旅の途中、俺の前に仇を名乗るやつが何度か現れた。俺はそいつを目指して研究をしている」
「そう…なんですね…」
「…すまん。重い話にしてしまって」
「いえ。むしろありがとうございます!」
ありがとう?
「なぜ?」
「私…というか私達、先生のことを知れてなかったので、こうして話してくれたのが嬉しくて…」
…言い訳だと、最初は思った。
けど、そうではなかった。
カナルは俺に向かってはにかんで笑っていた。
この笑顔に…俺は安堵した。
「俺も話せてよかった…ありがとう」
「え!?あ、お礼はしないでください!私、こういう話をしてみたかったんです」
「こういう話?」
「はい!人の深い部分まで見れるような、そんな話を!」
…そうか。
カナルは人との関わりが好きで大切なんで。
だからこういった、腹を割った話し合いが、カナルの心に深く刺さるんだ。
そう考えていると、窓から光が差し込んできた。
「夜明け…ですか」
「…お前徹夜してるが…大丈夫か?」
「大丈夫です。今から寝ます」
「体には気をつけろよ」
「…はい」
そう言ってカナルは去っていった。
不思議なこともあるもんだ。
カナルと話してたら、俺がまだ他者に共有できてない話まで出てきてしまった。
カナルには、人の心を打ち解けさせる力があるのかもしれない。
そんな反省会をしながら、俺は自室に戻った。
…あ。
分身のこと…忘れてた。
分身の継続時間が長かったせいで、俺はこのあと、部屋でぶっ倒れるのだった。




