47話 分身に声は宿る
この国に来て1年がたった。
まだ雪は溶けていない。
外は極寒である。
今日は自室にいた。
カナルの分身と共に。
「さて、今日はテストだ」
コクリとカナルは頷く。
テスト。
何のテストかと言うと、分身のテストだ。
分身が喋れるかどうかを確認する。
これができれば分身は特級だ。
「やり方のコツは分かるか?」
そう聞くと、カナルは首を縦に振ったが、若干曖昧な感じの振り方だった。
…内容はわかってるが、感覚はわかってないらしい。
「よし、じゃあまずはコツから教えよう」
俺はそう言って分身を出し、実演を交えながら説明を始めた。
「まず、分身は基本は本体と魔力でつながっている。分身が魔術や剣術を使う時、魔力や剣力は本体から供給される。分身を喋らせる大前提として、この『本体からの供給』を利用するために、声や思考を魔力に乗せるんだ」
端的に言えばこんな感じだ。
前世の世界でわかりやすく例を挙げるとすれば、声が電波となって電話越しに聞こえるあれに近い。
「本体からの供給」と「同人物の魔力は引き寄せあう」の2つの法則を利用して、魔力化した声を分身に届けるのだ。
…まあ、突然こんな難しいこと言っても頭がゴチャつくだけだ。
これに関してはあとで教えよう。
「よし、まずは分身に魔術を出させてみよう」
カナルはその指示のあと、手から水魔術を発動した。
どうやら魔力を送る感覚をつかんでいるらしい。
「いいな。その感覚で声をおくってみろ」
そう指示出しすると、カナルは口をパクパクさせながら止まった。
多分声を送ろうとして本体がめっちゃ喋っているんだろう。
「…あ…が……ど…じゃ……」
お?声が出始めたぞ。
…だがこれだけ聞くと、やっぱり電話だな。
電波障害で音が途切れ途切れになっている状況と似ている。
「そんな感じだ。もっと魔力を込めてみろ」
「…は……わか…ま…た………み」
…てかカナルって、声聞こえなくてもこうやって喋ってたんかな?
いま、普通に返事してたよな。
「きこ…ます…やっぱ……ずかし…」
お、結構形になってきたぞ。
内容がわかる。
多分今「聞こえますか?やっぱり難しい」って言おうとしていたような気がする。
その時、
「あー、あー、聞こえてますか?レオ先生?」
あ!
「聞こえたぞ〜。今『あー、あー、聞こえてますか?レオ先生?』って言ったな?」
「え!?聞こえた!?」
…突然めっちゃ安定し始めたな。
コツつかんだってことかな?
「やった!ついに喋れる!やっと…やっと……」
ん?また途切れ途切れに…
………。
…違う?
途切れてるんじゃない。
泣いてるんだ。
カナルの本体が向こう側で泣いているんだ。
「おいおい泣くにはまだ早いぞ〜。まだ他のやつと話してないんだから」
「はい…すみません…って、え?」
何だ?何かあったか?
「レオ先生。なんで泣いてるんですか?」
「え?」
俺は目をこすった。
こすった手には水滴がついていた。
え?なんで?
なんで俺…泣いてるんだ?
「わからん。多分俺も嬉しかったんだろう。なにせ1年の集大成みたいなもんだからな」
…正直納得はしてない。
けどそれ以外に理由がわからなかった。
「きっとそうなんだろう」と、一旦自己完結させた。
「サークルメンバーの諸君よ。今日は嬉しいお知らせを持ってきた」
翌日、俺はサークルメンバーを招集して、「今後の活動方針の話し合い」という名目でミーティングを開いた。
「珍しいですね。全員招集するなんて」
「そんなに重要で大きなことなんですか?」
「もちろん。今後の活動幅も広がるビッグニュースだ」
「びっくにゅうす?」
あ、しまった。
この世界、こういう言葉は通じないんだった。
「ゴホン。カナル。まだ伝えてないな?」
カナルは頷いた。
実は昨日、カナルに「紹介まで誰にも話すな」と言っていた。
どうせ伝えるならサプライズがいいからな。
「カナルは知ってるんだ」
「なんだろうな…」
よし、渋ってもしょうがないし、伝えよう。
「カナル。自己紹介をしなさい」
「「「「「…え?」」」」」
「はい!わかりました、レオ先生!」
「「「「「…え!?」」」」」
「改めてになりますが、私の名前はカナルです!もうすぐ6年生で、みんなと関われるのはあと1年だけど、これからもよろしくね!」
「「「「「え〜〜〜〜〜!!!」」」」」
よし。
インパクトはバッチリである。
「カナルさん、喋れるようになったんですか!?」
「はい!この1年、レオ先生が1から教えてくれて」
「上達が早いと思ったらそういうことだったのか…」
「じゃあ、これからは喋って色々できるの!?」
「もちろん!たくさん話そ!」
「「やったーー!!」」
特に女性陣には大好評のようだ。
そりゃそうか。
今まで会話の男女比が4:2だったからな。
1人加わるだけで心強いだろう。
「というわけで、新体制ってわけじゃないけど、次の1年頑張ろう」
「「「「「「はい!」」」」」」
すげー。
返事が1人増えるだけでこんなにボリュームが増したように感じるんだな。
「そういえば影纏先生。先生って任期あと何年なんですか?」
「来年で終わりだが?」
「「「「「「え!?」」」」」」
「あれ?言ってなかったか?」
「じゃあ、このサークル、来年で終わりなんですか!?」
「そんなことはない。ちゃんと他の顧問はつくはずだし、俺も時々来るつもりだ」
「あぁ…なら良かったです…」
「ちなみにその後はどうするんですか?」
「竜族世界に寄ってから、エイサールに帰るつもりだ」
「あれ?そもそも先生ってどうしてこの国に来たんでしたっけ?」
「家族探しだ」
「家族…あ、あの事件関連で?」
「まあそんなところだ」
ふと、カナルに視線を向けると…
なんか…難しい表情をしている。
何かあるんだろうか?
「よし!まずこの話は一旦終わろう。活動方針決めるぞ〜」
「あ、それ本当にやるんだ…」
「口実には使ったが、やるのは本当だ」
ミーティングはその後1時間くらい続き、解散した後に各々の研究に移った。
俺はカナルと雑談していた。
「魔力消費はどんな感じだ?」
「なれてきたら、あんまり減らなくなりました」
「集中力的には?」
「問題ないです」
「よし。じゃあ大丈夫だな」
…なんだろう?
なんか頭がポアポアする。
興奮した空気にあてられたか?
実際そういうのは前世から弱いし。
「…あの…レオ先生…」
「んあ?どうした?」
「あの…」
なんだろうか?
「…いえ、すみません。また今度にしてもいいですか?」
「え?あ、うん。いいぞ」
なんだったのだろうか?
けどまあ、俺が気にしてもしょうがないな。
「とりあえず、次は分身を複数出す練習もしていこう」
「はい!よろしくお願いします」
こうして、俺はその場から離れた。
部屋に戻った俺はカナルについて考えていた。
というのも、昨日の段階で、カナルのプロフィール的なものを聞けたのだ。
カナル
年齢は14歳で、あと2ヶ月ほどで15歳になるらしい。
種族は秘匿情報らしい。
この学校には約8年いるらしい。
留年したというわけではなく、理事長が保護してくれているからだそうだ。
…約8年。
となると、エイサールの一件と同時期だな。
…なにか引っかかる。
けど、それがなにかはわからない。
今度、できるところまで調べてみよう。
…なんか言い方キモいな。
聞いてみることにしよう。




