44話 学校七不思議の調査依頼
この国に来て7ヶ月がたった。
ジャイフの一件以来、特に変わったことはなかった。
講義もサークルも研究もぼちぼちである。
1つ変わったこととしては、カナルが分身を上級まで扱えるようになったことだ。
今は発声練習中である。
そんなある日、俺は理事長に呼び出された。
「どうしました?理事長」
「実は…依頼がありまして」
「依頼…ですか?」
「はい」
最近、俺はナナ師匠の便利屋にあまり顔を出せていない。
というか、便利屋自体、あまり依頼が来ていない。
なので、少しありがたい。
「それで…依頼というのは?」
「…レオリオスさんは、この学校の七不思議をご存知ですか?」
七不思議?なにそれ?
この世界にもそんなのあんの?
「その七不思議は、特に危険というものはないのですが…最近、七不思議を研究していた生徒が連続で失踪しまして…」
「なるほど、つまり失踪原因を調べてほしいんですね?」
「はい…お願いできますか?」
「ナナ師匠と話してみます」
ただ事ではないな…
急いで調査したほうがいい
「この学校の七不思議…まだあったんですね…」
その夜、俺はナナ師匠に相談した。
「あれ?ナナ師匠、七不思議について知ってるんですか?」
「知ってますよ。一応卒業生ですから」
「え!?卒業生!?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
「初耳です」
この人…ここの卒業生だったのか。
学校の案内中、念話で鼻歌歌ってた理由が今わかった。
すみません、暇な時間にしてしまって…
「あ、」
「どうしました?」
『七不思議については念話で話しましょう』
わお…久しぶりの念話だ。
『どうしてですか?』
『この七不思議、結構リアルなんですよ。2人に聞こえたら面倒なので…』
『なるほど…わかりました』
『今回行方不明になっている人たちは全員、七不思議その3に行っています』
『つまり、それが怪しいと?』
『はい』
『ちなみに、その3の内容は?』
『たしか…「月が見える夜に学校の西にある光魔術の実験室の中で、突如として影魔術が発生し、その中にいる人を縛りつける」というものでした』
『金縛り…ですか』
『まあそんな感じです』
『どうします?調査します?』
『被害が出てる以上、行くしかないですね』
『じゃあ、明日行きますか』
『そうですね』
こうして、調査の決行が決まった。
しかし影魔術か…
一応サークルにも声かけとくか。
「さて…行きますか」
次の日の夜。
俺達は早速調査に行った。
メンバーは俺、ナナ師匠、モラ、エル、ラーラ、カナルだ。
影魔術関連の事案ということで、理事長に許可をもらい、サークルメンバーを連れてきた。
カナルは分身ではあるが、結界魔術を使えるので誘ってみたところ同伴してくれた。
あとは有志である。
ライナはロングスリーパーらしく、「寝たい」と言って拒否した。
フェイは「3つ目の目が痛い」と言って断ってきた。
だが、ルカいわく「それは断り文句です」とのことだ。
とりあえず、今日は6人で活動する。
俺達は早速光魔術実験室に向かった。
「光魔術研究室ですか。初めて入りました」
「ここに影魔術が?」
「さあ?私も昔の噂話なので、本当かどうかまでは…」
『お腹へった』
「おや?」
「ラーラ。念話に本音がでてるぞ」
「え!?」
ラーラは心伝族なため、念話が使える。
俺とナナ師匠以外の念話使いは初めてだ。
………。
…なんか変だな。
さっきから実験室の中をくまなく見ているが、特に違和感はない。
至って普通だし、不気味なほど静かだ。
音1つも聞こえない。
…音1つ?
こんなに全員歩いているのに。
足音1つ…聞こえない。
「…!?」
俺はハッとして実験室の床を見る。
暗くて気づかなかった。
床は一面黒くなり、元々の木の床の原型すらない。
そして床は波打つように歪んでいる。
間違いない。
これは影魔術だ。
「カナル!床に結界魔術をはれ!」
掛け声に驚いていたが、カナルはすぐに床に結界魔術を展開した。
ズズズ…
しかし、影魔術はその結界を飲み込み始めた。
まずいな…
このままだと全員飲み込まれる。
「光柱・斑!」
俺が考えていると、ナナ師匠が光魔術を出した。
「…あ!」
そうか。
ナナ師匠は複数の光源を作って影を消そうとしてるんだ。
「光襲の矢・雨!」
俺はナナ師匠の意図を読み、光源を複数発生させた。
すると、影はだんだん薄くなり、消えていった。
「フ〜…助かりましたナナ師匠」
「私も慌ててしまいました…間違ってこの実験室壊しそうになりました」
一体何を出そうとしたんですか…ナナ師匠…
「なにか気づいたことはあったか?」
すると、エルが手を上げた。
「どうした?」
「影の中から、かすかに人の匂いがしました」
人の匂い?
「しかもさっき、影は光の柱も飲み込もうとしてたな」
「まるで、何か意思を持っているような動きでした」
…なるほど。
つまり、
「あの影の中には人がいる。そして、影を操ってるやつがいるってことか」
「どうします?」
影の中に人がいる。
だとすると、中にいるのは術者か行方不明者のどちらか、あるいは両方となる。
だとするとやることは1つ。
「俺が影の中に入ろう。そして事が終わったら念話でナナ師匠とラーラに合図を送り救出するということにしよう」
「「「わかりました」」」
「1人で大丈夫ですか?」
「はい。むしろ場合によっては1人のほうがいいかもしれません」
「それはどういうことですか?」
えっと…。
みんなが聞いても理解できないだろうしな…
ラーラに聞こえるが念話で話そう。
『ー…ー……」
「「え!?」」
2人ともすごく驚いた。
「それできるんですか!?」
「やる価値はあります」
「先生の実力でもそれは難しいんじゃ…」
「俺を信じろ…大丈夫だ。一応俺は影魔術の専門家だぜ?」
「…わかりました。ただし、危なかったらすぐ教えてください」
というわけで俺達は、再び影が現れるのをまった。
そして、そのタイミングはすぐに来た。
ズズズ…
影が再び出てきた。
「カナル、モラ。みんなを結界と土で守ってくれ」
「わかりました」
2人が魔術を出したのを確認して、俺は影に飛び込んだ。
影の中。
「暗いな、さすが影魔術といったところか」
中は四方すべてが影でできていた。
模倣眼を開いてみると、ジンッと痛みだした。
「この痛み…神級か?」
かなり痛い。
その痛みはかつて、転送結界を見たときに近い痛みだった。
「なぜだ?」
そう考えていると、影の奥から声がした。
見ると、そこには全身傷だらけの男が立っていた。
「なぜ影に飲み込まれない!?」
「飲み込んでるさ。足にずっとへばりついてる」
「お前以外は全身飲み込まれていた。それなのになぜだ!?」
…ん?
俺はやつの話などよりも、その後ろに意識がいった。
そこには、服がボロボロになり倒れている人たちがゴロゴロいた。
被害にあった人たちだろう。
…女性が多いな。
被害者のリストを見てなんとなくそう思っていたが、そんなレベルじゃない。
多分こいつ、ここ以外でもやっていやがる。
「キモいな、お前」
「お前に何が分かる?」
「わかりたくもないね」
模倣眼で倒れている人達を見る。
魔力が…枯渇してる?
人の体に本来ならあるはずの外側にある魔力が見えない。
他の術と同じく、これは模倣眼で見えるはずだ。
となると…
「魔力を…吸い取ってるのか…」
…許せない。
魔力は人の身体にある生命エネルギーの1つだ。
それを吸うということは、命を吸い上げているのと同じだ。
「ここでお前を止める」
「無駄だ。ここは俺の空間だ」
「たしかにな。だが…」
俺がそう呟くと、男は不思議そうな顔でこちらを見る。
「ここからは…」
ズズズ…
「俺の空間だ」
その瞬間、俺の足元からこの空間とは違う影がじわじわと広がっていく。
「な!?」
「どちらの影が強いか、力比べといこうか」
俺は足元から「影の領域」を出した。
そして、相手の影を侵食していく。
「この影を乗っ取ってやるよ」
「貴様!!」
その発言と同時に相手も影に魔術を込める。
ここからは影の押し合いだ。
が、そんな真っ向からやる気はない。
「影分身」
「「光襲の矢・雨!」」
俺は分身を出し、分身は相手に光の矢を放った。
「なに!?」
「別に真剣勝負してるんじゃないんでね」
相手が怯み、影の力にムラができた。
その瞬間を見逃さない。
俺は影の領域に最大限の力を込めた。
そして影は、とうとう俺の影に飲み込まれた。
「しま…った」
「お前の負けだ」
俺はつかさず分身を出し相手に剣を向けさせた。
相手はというと、
「影の雨!」
攻撃しようとしていた。
…しょうがない。
「「「「「「断地!」」」」」」
分身全員が断地を放ち、相手にぶつかった。
「カハッ!…」
相手は気絶した。
そりゃそうか。
加減したとはいえ奥義6発だ。
相当なダメージだろう。
『ナナ師匠、ラーラ。終わりました』
そう言うと、地上から2人が降りてきた。
「まさか本当に成功するなんて…」
「影纏先生。すごいですね…」
「それはあとで。まずは救出するぞ。もうすぐこの空間は壊れる」
「「え!?」」
数分後。
「ハァ…ハァ…」
「レオ…突然無茶言わないでください!」
俺達は被害者を救出して地上に出た。
いや…しょうがないじゃないですか。
術者気絶しちゃったんだもん。
「まあ…これにて解決です」
「はい…お疲れ様でした」
「「「お疲れ様でした」」」
「今日はもう遅いから帰りなさい。後始末は俺がしておく」
「ありがとうございます影纏先生」
「…以上が今回の事件の真相です」
翌日、俺はジルさんに報告に行った。
「犯人を調べたところ、人さらいの一味だったようで、自分が魔力を吸った相手を売り払おうとしていたらしいです。幸いなことに、売り払われる前だったようで、全員無事でした」
「そうでしたか。全員無事で良かったです」
というわけで一件落着である。
「報酬の方はどうしましょう?」
「自分はこれから業務があるので、ナナ師匠にお願いします」
「わかりました。届けておきます」
俺は話を終えて理事長室をあとにした。
その後、ナナ師匠に届いた報酬が金貨60枚という大金だったので、参加者全員で10枚ずつ割ったのは、また後日の話である。
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