40話 研究の種
特別講師就任から1週間がたった。
俺には早くも悩みがあった。
「影纏先生。どうされたんですか?」
「ん〜実は魔術開発のアイデアが浮かばなくてな…」
そう。
研究内容が決まらないのだ。
「影纏先生もそういったことで悩むんですね」
「そりゃ生きてればそうだろ」
「初めて影纏先生の人間味を見たかも」
「俺、この1週間、そんなに人間味なかったか」
「「「はい!少なかったです」」」
…くッ!
「よし。お前ら3人、来週のレポートのノルマ2倍だ」
「「え〜〜!!?」」
「影纏先生、鬼ですよ!」
「…ってのは冗談だ。さあ、次の解説いくぞ」
お昼時。
俺は中庭で昼食をとっていた。
自作弁当である。
試しに味噌と醤油を使ってみた。
この世界の料理は味が薄いこともあり、わりかし何でもあう。
「どうも、影纏先生。それとも、レオリオス先生とお呼びしたほうがいいですか?」
飯を食べていると、誰かが声をかけてきた。
目の前には火の分身が一体いた。
「君は?」
「僕は保護生徒のアス・ドートです」
「分身で喋れるのか?」
「はい。2年くらい練習しました」
この学校に来て初めて喋る分身を見た。
2年か。
妥当だな。
「んで、先生はどうされたんですか?」
「いやーね、魔術研究の内容に悩んでてね〜」
「そうなんですね。…あ、よかったら僕の部屋に来てください。本とか結構あるので、参考になるものがあるかもしれません」
「なるほど…じゃあいかせてもらうか」
「はい。では案内します」
「これまたすごい量だな…」
アスくんの部屋は本だらけだった。
「僕、魔術が好きすぎて…」
「魔術オタクというわけか」
「『おたく』ってなんですか?」
あ、この世界に「オタク」って言葉は無いんだ。
「いや、気にするな」
俺は部屋にあった本を読み漁った。
「先生…読むの速いですね」
「まあ、こういうの昔から好きだからな」
「もう半分ですか…」
部屋に来て3時間で、俺は約50冊くらいを読み漁っていた。
読むのが好きというのもあるが、分かる魔術は模倣眼ですぐ判断して飛ばしている。
だからめっちゃ速いのだろう。
「…ん?」
「なにか見つけました?」
「この『禁忌の結界』ってなんだ?」
「あぁ…それ禁術…というか、解析不可能になった術ですね」
「解析不可能?」
「はい。異世界からきたって名乗る人が作ったらしいんですが…構造が複雑すぎて模倣眼持ちも解析できなかった術で、自然消滅した術ですね」
パンドラの箱…をイメージしたってことか?
説明を見るが、発想がすごすぎてわからん。
けど…
「これに似たものを作れれば役に立つかもな…」
「確かに、封印とかで使えるかもしれませんね」
(…よし)
「どうします?」
「これを研究するか」
「わかりました。頑張ってください」
やっと目標が決まった。
よし、ここから頑張っていこう。
「図書館に行って研究するのがおすすめです。あと…」
「あと?」
「保護生徒に、結界魔術が得意な『カナル』という生徒がいるので、研究に詰まったら、その人も当たってみてください」
カナル?運河?
「わかった、ありがとう」
まあいい。
とりあえず、こいつの研究をしよう。
俺は図書館に行き、早速「禁忌の結界」について調べ始めた。
が、これといった文献は見当たらなかった。
そりゃあ「解析不可能になった術」だ。
詳しく記載されたものなんてあるわけがない。
とりあえず、高等の結界魔術を最初からマスターしてみるか。
…それにしても結界魔術か……
ちゃんとはやってなかったな。
ナナ師匠にも「結界はあまり覚えなくてもいいです」って言われて中級止まりだったし…
…いや待てよ。
上級を1つ覚えていたような…
あ、そうだ。
俺は急いで中庭に出た。
ここなら大丈夫だな。
随分前に竜獣と戦ったときに使っていたナナ師匠の上級結界魔術を覚えていた気がする。
たしか…
「外透結界」
俺は結界魔術を発動した。
出せたな…
やっぱり模倣眼でコピーしてたのか。
なら、この結界をさらに解析して結界魔術について深めよう。
ドンドンドン!
ん?
結界の中から音がしたような…
「…あ」
結界の中に人影が見えた。
しまった…
閉じ込めちゃったか。
俺は急いで結界を解いた。
「ごめんごめん。大丈…夫?」
そこにいたのは分身だった。
「君はたしか…初日に俺を追いかけてた」
あの水と結界で作った分身を使っていた子だった。
女子生徒?のように見える。
髪が肩くらいの高さまであり、何故か左耳が歪んで見える。
まだ分身は不完全のようで、顔の形はよくわからない。
…ん?
「君の結界…」
あることに気づいた。
分身は不完全だが、結界がえげつない精度で構築されているのだ。
形の変化をミリ単位で捉え、形状を変えている。
そして俺はさっきアスくんが言っていた人物が頭に浮かんだ。
「君…もしかして『カナル』さん?」
分身は頭を縦に振った。
そうか、この人が…
「君に結界魔術について教えてもらいたいんだけど、部屋の前まで…」
そう言いかけると彼女は首を横に振った。
なるほど…接触禁止の生徒のようだ。
「さてどうするか…」
そう考えていると、カナルは俺の肩を叩いてきた。
「ん?どうした?」
するとカナルは自身の口を指さした。
どういうことだ?
………。
………。
………。
…あ。
もしかして…
「喋り方を教えてってことか?」
カナルは首を縦に振った。
「そうか…なら、2日に1回、昼過ぎに俺のところに来てくれ。そうしたら教えよう。その代わり、喋れるようになったら、俺に結界魔術について教えてくれ」
そう言うと、カナルはなんだか嬉しそうに首を縦に振った。
そして、分身は消えていった。
…そうか。
ならしばらく研究は後回しだな。
自分でもやってみるが、本格的に始めるのはカナルが喋れるようになってからにしよう。
「ただいま帰りました〜」
「おかえりお兄ちゃん!」
今日は部屋に珍しくカオルが先にいた。
「お兄ちゃん!見せたいものがあるんだ」
「ん?どうした?」
カオルが見せたいもの?
なんだろうか。
「は!」
「…!?」
カオルは力むと同時に、俺の部屋に持ってきたのであろう丸太を平手で粉砕した。
「お前…それ…!?」
「衝術覚えた!」
えぇぇぇぇ!?
俺のできない体術の上級をマスターしやがった。
「…もしかして今、奥義練習中か?」
「うん!特級衝術使い目指して頑張ってます」
体術には奥義が各術1つずつあり、それを覚えれば特級だ。
さらに、その上で術をつなぐ「型」ができるようになれば王級、それに奥義を加えれば神級だ。
「模倣眼で覚えたのかそれ?」
「うん!結構簡単に覚えられた」
簡単に…か…
「よし、じゃあ頑張れよ!」
「うん!お兄ちゃん」
「あと、木くずは掃除していくように!」
「…はい。お兄ちゃん……」
俺も負けてられないな。
もっと自分を研磨していこう。




