33話 会得と完成
この国に来て4ヶ月がたった。
俺は本来もう2ヶ月長く時間をかけようと思っていた剣術奥義の習得と魔術開発を急ピッチに進めていた。
そして本日はその技たちの確認日だ。
俺の今の状況。
そんなの決まっているだろ。
3文字で表してやる。
魂抜け!!
交代で来るカオルとローザさんの修行。
低頻度に来る依頼。
その中での研究。
俺の頭と体はもうオーバーヒートしている。
「やめてくれ!俺のライフはもうゼロだ!」と叫びたいタイミングも数回あった。
でも、その生活も今日で一区切りだ。
ここで成功させる。
てか成功しないと困る。
「レオ。始めますよ。大丈夫ですか?」
「えっと…大丈夫かと言われると…」
ナナ師匠の質問を聞いた後、俺は視線をナナ師匠の後ろに向けた。
「お兄ちゃん頑張れーー!」
「レオさん、頑張ってください」
「レオリオスさん、頑張ってください」
「レオリオス殿、成功を祈っております」
カオルとルカはわかる。
なぜローザさんとセリーヌさんがいるのだ!?
「あの…2人はどうしてここへ?」
「ルカさんから『今日は大事な日なんだ』というふうに伺っていたので、見学兼応援に来ました」
そうか。
情報源はルカか…
まあルカもそういう意味で言ったわけじゃないのはわかる。
しょうがないか…
…ただ人目が多いのはやはり慣れないな。
けどやるしかない。
「では始めます」
まず確認するのは剣術だ。
今回会得を試みた「界外剣」を確認する。
界外剣は流剣術の基礎であるカウンター技の究極系だ。
自身の間合いに入った攻撃に対してすべて反撃する。
デメリットとしては、その間は一歩もその場から動けないということだ。
そして技の発動後、しばらく剣力を込められないという点だ。
今から何をするのかと言うと、これから10秒間、ナナ師匠とカオル、さらに俺の影の分身2体が絶え間なく攻撃する。
俺はそれらの技全てに反撃することだ。
ちなみに補足すると、分身は影の領域を展開しなくても発動できる。
ただし分身は、自身と同じ動きをさせるごく一般的な分身は初級、魔術等を使えるようになれば中級、独立した動きや技の発動をさせることができれば上級、分身を通して会話が可能になれば特級、独立した思考や感情をもたせることができれば王級となる。
俺は「影分身」という影魔術の分身を王級、つまり最高レベルで使える。
なんなら3日前、分身プラス俺で討論大会をしてみた。
結果俺は負けた。
それほど独立した分身を作れるようになっていた。
ただ、この技を発動する時、誤って「影分身の術!」と叫ぶ時がある。
「他に名前はなかったのか?」とひそかに文句を言っている。
それだけが悩みだ。
なので分身とはいえ、何の技が来るかはわからない。
完全に4対1の構図だ。
「では、10秒始めます」
さあ来るぞ…
「用意…」
………。
………。
………。
「スタート!」
スタートの合図と同時に分身2体が動き始めた。
「岩雨!」
「風の連撃!」
いきなりの連撃。
分身は本気で俺を潰しにくるようだ。
カウンターは…うまく発動しているようだ。
「水の槍!」
1秒くらいでナナ師匠も加わった。
今のところは問題なくカウンターが発動している。
「光襲の矢・雨!」
2秒後にはカオルも加わった。
…ちょっと待て。
今カオルは「光襲の矢・雨」を発動したのか?
カオルはこれを無詠唱ではまだ1人でできないはず。
最低でも「光襲の矢」を2人以上で発動しないといけないはず。
詠唱したとしても5秒はかかるはずだ。
…2秒?
まさかカオル…お前…
詠唱を短縮したのか!?
と考えながらカウンターをし続けた。
辺りには永遠と魔術と剣がぶつかり、弾かれる音が響き続ける。
技発動から7秒後、攻撃が4人から2人になった。
なぜかは知らん。
けれど、
「「光襲の矢・雨!」」
ナナ師匠とカオルが最大出力で多段技を出してきた。
人数が減ったはずなのに、更にきつくなった。
だがそれは一瞬だった。
2秒後だ。
ラスト1秒というところで攻撃が一瞬途切れた。
「炎戒の龍!」
「岩塊の龍!」
それとほぼ同時に2体の龍が飛んできた。
最後は大技で決めにきた。
「フーーーー……」
俺は息を吐き、腕に全力を込めた。
そして俺は回転斬りで2つの技を…弾いた。
ドドーン!
2体の龍はまっすぐに飛んでいき分身に直撃した。
それと同時にリミットである10秒が経過した。
「そこまで!」
ナナ師匠の号令とともに、俺は技の発動を止めた。
「…ナナ師匠、結果は?」
「結果は…」
ゴクリ…
「…文句無しの合格です!見事完成できましたね!」
「よ、よかった~…」
まずは1つクリアだ。
そう思っているとセリーヌさんが口を開いた。
「では、剣術指南資格の申請をこちらでしておきましょう」
「え?できるんですか?」
「はい。資格の付与は王宮の務めですから」
「ならよろしくお願いします」
そう話していると、
「「「「「「グゥ〜〜〜〜〜…」」」」」」
………。
全員の腹の虫が同時になった。
「…次のチェックは昼食の後にしましょう」
「「「「「はい…」」」」」
ここが人目のつかないところで良かった。
そうでなければ、危うくローザさんとセリーヌさんが赤っ恥をかくところだった。
そして俺らはその場で昼食をとった。
昼食後。
俺は再び全員の前に立った。
ここからは開発した魔術の検証だ。
俺が開発していたのは「瞬間移動」の技だ。
これが発動するかどうかを確かめる。
「ではやりましょう。レオには今いる地点からどこまで移動できるかを確かめます」
「お兄ちゃん、これ本当にできるの?」
「さあ。どうなんだか」
というわけで、早速始めることにした。
「レオ、いつでもどうぞ」
「…いきます」
俺は走るときのスタートのポーズを取った。
そして…
ビュッ!
風を切るような、もしくはレーザーが飛んでいくような、そんな音をたてて俺はおよそ100メートル先くらいまで移動した。
速さ的にはおよそ0.01秒といった感じだろうか。
「成功…です!」
ナナ師匠の声が聞こえた。
俺は走ってみんながいる場所に戻った。
みんなを見てみると、ナナ師匠以外は全員驚きの表情を浮かべていた。
「すごい…ですね、レオリオスさん」
「レオさん。あれどうやったの?」
「模倣眼でも構造わかんなかったよ。何あれ?お兄ちゃん」
模倣眼でもわからんだろうなそりゃ…
…って模倣眼!?
「カオルお前、あれ見ちゃったのか!?」
「うん。今すごく左目が痛い」
だろうな。
「まあ今から説明するよ」
術名「閃光移動」。
この技にはいくつかの手順がある。
まずは光と影の魔術で作った不可視の分身を光魔術で高速移動させる。
次に水魔術、土魔術によって分子レベルまで分解させた自分の体を、分身の型にはめるように高速移動する。
これを可能にするのは魔力の特性にある。
この世界の魔力には、同一人物の魔力同士は引き寄せ合うという性質を持っている。
この性質を使って、分身に分子化した体を魔力ごと引き寄せさせる。
最後に、型にはまった分子を治癒魔術で連結させて体を再生する。
これで完了だ。
最初は分子を飛ばすだけと考えていたが、それだと障害物激突で簡単に分子が散ってしまい再生できないと考え、こうした。
これにより安全性は上がり、移動で死んでしまうこともほぼ0と言えるだろう。
デメリットとしては、水・土・光・影・治癒の5種混合魔術なため、消費魔力が多いのと、移動中はほぼ死亡しているようなもののため、思考力がなくなるという点だ。
まあ思考停止はほぼデメリットではないだろう。
0.01秒だし。
ともあれこれで完成だ。
後は採点だがどうするか…
「神級…ですね…」
セリーヌさんが呟いた。
「…?それはどういうことですか?」
「あ!?すみません。実は私、採点資格を持っているので…クセでつい…」
ん?てことは…
「神級認定でいいんですか?」
「はい。いいと思います。あ、一応証明としてこれ渡しておきますね」
と言ってセリーヌさんは証明状を渡してきた。
…どこから出したんだ、この人。
まあいいか。
これにて確認終了。
俺は全員に解散を告げてから事務所に戻った。
その後にローザさんから魔術本の作成依頼がきてしまったのは、また別の話である。
やることは達成したが、まだ眠れない日は続きそうだ。




