23話 旅路に再び
旅を始めて2週間がたった。
山はまだまだ続いている。
…やはり馬を買うべきだった。
俺達の団体は4人になっていた。
三眼族の少女…ルカ。
彼女のことは最初こそ警戒していたが、次第にそれはなくなった。
最近ではナナ師匠とよく話している。
ナナ師匠はというと、最初から警戒せず、「1人の子供」として接してくれている。
カオルは…警戒はしていないものの、まだ気軽に話せる仲ではないようだ。
そんな俺達は今日、山脈の中腹にあったエルフの村に泊めてもらうことになった。
エルフ。
魔族の一種で、森の力を利用した魔術を得意とする。
魔族の中でも長命であり、200〜300歳まで生きるとか。
森の力を使う魔術は、「操林魔術」と言われ、エルフの秘術とされている。
竜族の「炎戒の龍」のようなものだ。
俺とカオルは族長に許可をもらい、模倣眼で「操林魔術」をコピーさせてもらった。
理由としては、旅の最中に森でなにか起きても対処できるようにするためだ。
例を挙げると、森で魔獣と遭遇したが、木々が邪魔で剣は振れず、周りへの被害を考え、魔術も使えないとき、これを使えば何も不自由なく対処できる、というわけだ。
俺とカオルが解析をしていると、
「……!?」
俺の体に、何かが流れてくるような衝撃が走った。
この感覚は何度か経験したことがある。
これは、解析が完了したときの感覚だ。
「操林魔術」の解析が終了した?
いや、この魔術は結構複雑だから、こんなに早く終わるはずがない。
じゃあなんだ?
何の解析が完了したんだ?
…あれ?
なぜだ?
俺がこれまで見てきた術を思い出していると、なぜか詳細に構造がわかる術が1つだけあった。
それを試してみると…
「…え!?お兄ちゃん!?」
カオルは俺を見て驚いた。
彼女は俺を見上げている。
いつもより高く。
そして、カオルは俺の足元に視線を移した。
俺の足が…地面から離れていた。
そう、浮いていた。
俺は、ローブの女が使っていた飛行魔術を使えるようになっていた。
ローブの女。
奴は俺の前から姿を消す際、飛行魔術を使って逃げた。
俺の解析はそこから始まっていた。
魔術が複雑だったこと、俺が解析を意識していなかったこと、他の術の解析もしていたこと等が重なり、あの魔術を見てから約1年、ついに解析が完了したらしい。
ただ、この術は相当高難度なものなのだろう。
飛行は10秒が精一杯だ。
そんな術で何十秒も飛び続けていたあいつの異常さがわかる。
やはり只者ではない。
そう考えていると夜になっていた。
俺はあまり眠気がなく、外で星を眺めていた。
膝までの高さくらいの岩に腰を掛け、空を見て、考え込む。
(ルカに関しては、カオルも少しずつ打ち解けてきているし大丈夫だろう。ニナはどこにいるのだろうか?早く会いたい)
それから、自分のことについて考える。
(飛行魔術に関しては戦闘にはあまり使えそうにない。索敵と逃走に使おう。他の魔術は、もう少し精度をあげておきたいな。剣術は…)
そんな事を永遠と考え続ける。
辺りは寝静まり、とても静かだ。
………。
………。
………。
………。
「三眼族の子とは、うまくやれてるみたいだね」
ゾッとした。
背後、いや、それよりも若干高い位置から声をかけられた。
俺は反射的に振り返った。
「1年ぶりくらいかな?『佐々木 守』くん」
そいつは宙を浮き、全身にまとったローブをなびかせながらそう言った。
忘れもしない。
仇と名乗った、あいつだ。
「おっと。今回は突然襲ったりしないでほしい。今日はただ、君と話に来ただけなんだから」
「…信用できるとでも?」
「まさか。2回目だけど、私は君の”仇”。信じてもらうつもりなんて微塵もない。それに、前回襲ってきたのは君でしょ?」
「”仇”と言われ怒りを抱かないやつがいるとでも?」
「フフッ…否定はしないよ」
行動の意図が読めない。
こいつは本当に何をしに来たんだ。
「簡単だよ。君の行動の仕方を見に来た。私の命を狙っているんだから、当然でしょ?」
「…!?…なるほど…お前が俺の前世の名前を知っている理由がわかった気がする」
今の発言からすると…こいつは…
「そう。私は対象の思考と魂が見える。君の今考えていること、今と昔の名前、姿、なんでも見える。君の姿が見えている限りね…」
「そうか。キモいな」
「私は君の今後の行動を見に来た。話すことでその情報把握の時間を稼ぐ。ただそれだけ」
なるほど。
こんなに自分のことをペラペラ喋るのも時間稼ぎか。
こいつに見られている限り、俺は情報を吸われる。
おそらく逃げても追ってくる。
となると、自分の意志で帰ってもらうしかない。
ならこの状況、利用させてもらう。
「なら、俺から質問をさせてもらおう」
「なるほど。そうきたか…いいよ。なんでも聞いてごらん」
相手が俺から離れられない以上、何かをするしかない。
この提案も、奴は乗るほうが都合がいい。
俺の情報が吸われるんなら、こっちも情報を吸う。
等価交換の状況に強制的に連れ込む。
「お前は俺の”仇”というのはどういう意味だ」
「そのままだよ、私がエイサールを襲った連中に情報を流した張本人ってわけ」
「なぜだ?」
「それはまだ言えないな」
「そうか。なら質問を変えよう。お前は何者だ」
「何者…か…そうだな…放浪者って言ったところかな。名前が気になるなら…『ゼイ』って呼んで」
「それがお前の名前…いや、仮名か」
…なぜだろうか。
こいつと話すと、警戒心が抜けていく。
魔術か?
「はい、質問終わり。私はもう帰るよ」
クソッ、時間切れか。
やつ…ゼイは空を飛び始めた。
「次は、お前を斬る」
「ハハッ、楽しみにしてるよ」
そう言って、ゼイはその場を去った。
『レオ?何かありましたか』
念話がとんできた。
ナナ師匠が俺の異変に気づいたようだ。
『はい、実は…』
俺は状況を説明しながら、泊めてもらっている小屋に戻った。
翌朝。
俺は悩んでいた。
昨日のこともあるが、それとは別だ。
ルカについてだ。
ルカの額の目をどうするかを考えていた。
いつもは髪で隠れているが、風が吹いてしまえば見えてしまう。
と思っていたのだが、
「実は私、幻想眼を持ってます」
「「え!?」」
「お兄ちゃん、ナナさん。幻想眼って何?」
幻想眼。
相手に幻覚を見せたり、自身の姿の見え方を変えたりできる異能眼。
なるほど、額の目に関しては自分で隠せるということか。
なら問題ないな。
「よし、じゃあそろそろ出発するか」
「大丈夫ですか?レオは昨日の件が…」
「大丈夫ですよ。それに、俺が先に進みたいんです」
そう、俺は昨日、ゼイに行動をすべて把握されてしまった。
前に決めたプランで行くのは危険だ。
けど、それで旅を中断するわけには行かない。
ニナを探しに、家族のために動かないといけないのだ。
「行きましょう」
こうして、俺達はエルフの村を出発した。




