22話 恐怖の子
「お腹へった〜〜」
旅を始めて4日がたった。
現在俺達はファジサイトを囲む山脈を登っている最中だ。
カオルは早速疲れたらしい。
はぁ〜……この世界に車があればな〜……
せめて馬くらいは買うべきだっただろうか?
次の旅では買うとしよう。
「そうだな、今日はここで休むか」
旅は順調とは言えない。
ペースは予定より若干遅い。
まあ、想定内ではあるが。
2人は俺よりも体力がないのは前々からわかっていたので、そうなるだろうと考え、計画をねっていた。
だが、その計画はこのあと更に狂うことになる。
俺は今日、そのまま休息を取った。
………。
………。
…ジュッ!
「…ッ!?アッツーーーーー!?」
俺は飛び起きた。
眠り始めて数時間後。
まだ深夜だ。
俺の顔面に焼けるような痛みが走った。
俺は何が起きたのかが理解できないまま立ち上がり、周囲を見渡した。
…え?
山火事?
俺はさらに状況が理解できなくなった。
今日は別に乾燥しているわけじゃない。
ましてや、日中は雨が降っていたから木々も湿っている。
家事が起こる原因が謎なのだ。
…って考えてる場合じゃない!
このままだとみんな丸焦げだ。
ナナ師匠とカオルはまだ寝ている。
できれば起こしたくない。
ここで2人を起こしてしまうと、明日の旅で2人の体力がもたないかもしれない。
俺1人でどうにかしてみせる。
「水竜巻!」
俺は魔術で巨大な水の渦を出した。
それを森に向かって前進させて、火を渦で絡め取り、水で消火していった。
それを20分ほど繰り返した。
火はなんとか消火することができた。
出火原因は未だ謎だが、それは明日にしよう。
今日はまず寝る。
………。
………。
「寝れねえな…」
その夜、俺は眠れずに過ごした。
「おはようお兄……ってお兄ちゃん!?どうしたのその顔!?」
「どうしましたカオル……って、なんでレオの顔に火傷があるんですか!?あと、なんでそんなにげっそりしてるんですか!?」
翌朝。
俺は結局不眠だった。
さらに、あまりの出来事で顔にできた火傷の治癒を忘れていた。
「それは…これから話します…」
あぁ、めっちゃダルくなってきた。
俺は2人に昨夜のことについて説明したあと、顔に治癒魔術をかけ、軽く朝食をとり、火元であろう場所に向かった。
火元はすぐに判明した。
そこは辺りすべてが焼け焦げていて、まだかすかに煙がたっていた。
一体ここで何があったのか…
と思っていると、
「レオ…これって…」
ナナ師匠が指を指す方向には槍が落ちていた。
さらに周囲を見渡すと、黒焦げになった何かの塊が転がっている。
その塊には鱗のようなものがついていた。
よく見ると鎧のようなものもついている。
そして、肉を焼いたような、腐敗したような臭いがする。
…そういうことか。
ここで戦闘があったんだ。
それも竜獣との戦闘が。
相手はわからないが、火魔術の発動で火事が起こったんだ。
原因はわかった。
特にようもない。
なら旅路に戻るか…
そう考えていると、
「お兄ちゃ〜ん。子供がいる〜!」
子供?
俺は駆け足でカオルのところへ行った。
そこには子供が倒れていた。
鱗はない。
竜獣の子ではないらしい。
髪は赤く、そんなに長さはないが後ろで束ねている。
おおよそ4・5歳くらいの女の子とみた。
そして、なにか違和感がある。
なんだ?
その違和感はすぐに分かった。
通常の人族や魔族にはない物がある。
額に…まぶたのようなものがある。
そこで俺はすべてを理解できた。
この子は…三眼族だ。
「………」
「………」
「………」
3人はその場で固まっていた。
理由は言うまでもない。
三眼族の子を拾ったからだ。
襲ってでもきてくれたらすぐに見捨てる決断もできたのだが、子供は気絶している。
三眼族を恐怖する気持ちと、子供を見捨てることへの抵抗で何もできずにいた。
「……んん…」
「「「…!?」」」
俺達は身構えた。
どうやら、子供が目覚めたらしい。
少女は3つの目でこちらを見ると、まるで恐怖したように縮こまり、涙を浮かべた。
カオルとナナ師匠は未だに警戒している。
しょうがない。
俺から話しかけよう。
「君は、ここで何を?」
「…!?」
少女は驚いていた。
そんなに予想外な質問だったのだろうか?
そう考え込んでいると、
「お兄さんは…私を……殺さないの…?」
少女は恐る恐る聞いてきた。
俺は言葉の意味がよくわからなかった。
「なぜ?」
「だって……みんな…私達が…嫌い…なんでしょ?」
…なるほど。
なんとなく質問の意味がわかった。
おそらく三眼族は、見つかり次第殺されてしまうのだろう。
世界の敵対種として。
「確かに俺達は三眼族を恐れている。しかし、直接会ったことはない。だから俺達は真実を知らない。三眼族は本当に危険なのか。君はどうなのか。だから、曖昧な理由で、小さな命を奪うことはしない」
少女の目には、涙が溜まっていった。
「だから教えてくれ。ここで何が起きたのか。三眼族とはなんなのかを」
「……うん…」
少女は涙を流して、頷いた。
その後、俺達は少女から昨晩の出来事について聞いた。
三眼族の一行が森を歩いていると、竜獣の集団に見つかり戦闘になったらしい。
少女はその一行にいた夫婦の子供だそうだ。
戦闘で、三眼族の一行は少女を残して壊滅した。
そして、少女も殺されるとなったときに、俺が放った水竜巻が戦場に直撃し、竜獣諸共押し流したそうだ。
まさか、俺の魔術が子供1人の命を救っていたとは…
「じゃあ次。分かる範囲でいいんだ。三眼族についてを教えてくれないか」
そう聞くと、少女は母に聞かされたという昔のことについてを話してくれた。
「私達はかつて、眼の能力を他種族に提供する(手伝いに使う)ことで共存していました。魔力センスは低く、戦闘もできないため、戦闘に長けた竜獣と関係を強く結んでいました。けれど、竜獣は他種族を裏切り、魔神カスラに加担しました。それを知らされないまま交流を続けていた私達は、世間から裏切り者とされました。それをあとから知った私達は、竜獣に反発しました。結果、竜獣からも敵対視され、住む場所も、他種族との関係も失い、放浪するようになりました。そして今に至るそうです」
それが真実か…
「君はこれからどうする?」
「仲間を探そうと…」
「どうやって?」
「………」
あてはないらしい。
さてどうしたものか…
「なら、私達と一緒に来ませんか?」
そういったのはナナ師匠だった。
「ナナさん、大丈夫なの?」
カオルはまだ不安らしい。
「私も、まだ三眼族は怖いですが、そういった可能性も考えたことがあります。それに、小さな女の子をおいてはいけません」
ナナ師匠の決意は固いようだ。
「そうですね。では……ところで君、名前は?」
「…ないです」
ないのか。
なぜ?
「私達は身分がバレないように、個人情報になってしまう名前をもらえないんです」
なるほど、独特だがわからなくはないな。
しかし、名前がないのは不便だな。
今は春か…
「…よし、今から君は『ルカ』と名乗りなさい」
「え!?はい…ありがとうございます」
最初、ハルカという名前が浮かんだが、あまり日本人っぽい名前は目立ってしまうので、「ハ」をとって「ルカ」にした。
少女…ルカの顔には少し笑みが浮かんでる。
名前をもらえたことが嬉しいようだ。
「よし、じゃあルカを加えて、旅を再開しよう」
こうして俺達の団体に、三眼族の少女が加わった。




