14話 弟子と師匠の気持ち
ファジサイトに来て1日。
俺はナナ師匠とカオルと再会した。
まさか旅を始めて訪れた最初の街で再会するとは。
…いや、最初の街ではないか。
そういえば鬼族とドワーフの村にも行ったな。
だが、1つ失敗した。
俺はナナ師匠が借りている貸家に滞在することになった。
それは嬉しいことだが、1つの損失を与えた。
1日も泊まらないまま、宿を出たのだ。
1ヶ月契約していたため、キャンセル料がかかってしまった。
滞在費は後払いで、それよりは安く済んだが。
そう。
今の俺は一文無しだ。
稼がなくては…
俺はナナ師匠がやっている便利屋で働かせていただくことにした。
内容は掃除や店番といった簡単なものから、周辺の魔獣の討伐依頼やその補助といったようなハードなものまである。
これを1人でやっていたナナ師匠はやはりすごいと思わされる。
とはいったものの、依頼はそんなに多くない。
週に3〜5件程度だ。
つまり暇だ。
また別の街に家族を探しに行くことも考えたが、金がない。
まずは資金集めに力を入れよう。
「お、お兄ちゃん…」
そんな時、カオルが話しかけてきた。
彼女は実に立派になっていた。
魔術はすべて中級まで使えるらしい。
彼女は物心ついたときにはから、ナナ師匠としか関わってこなかったため、俺の存在をまだ不思議に思っているらしい。
そりゃ、突然「こいつがお前の兄だ」と言われてすぐ飲み込めるわけがない。
しかし、「お兄ちゃん」とは呼んでくれる。
なんだかんだ嬉しい。
…まずい。
色々考えてると兄バカになりそうだ。
っと、いけないいけない。
そんな妹が俺に話しかけてるぞ。
「どうしたカオル?」
「あの…」
カオルは口をモゴモゴさせている。
まあ緊張するよな。
頑張れ〜、カオル〜。
「僕に、剣術を教えてくれませんか?」
「え!?」
驚いた。
が、すぐ理解した。
「あ、そっか!そろそろ剣術を学び始める時期か…」
「はい、僕、剣術にも興味あって…」
…そういえばカオルはボクっ娘なんだな。
……いや何考えてんだ俺は。
剣術か…
俺に教えられるのだろうか…
けど、ほかでもない妹からの頼みだ。
断る理由はない。
「わかった。けど俺も教えるのは初めてだから、わからない所があれば言えよ。」
「はい!」
カオルは満面の笑みで返事をした。
かわいいな。
赤子のとき、俺達の魔術を見て笑っていたあの顔と殆ど変わらない笑顔だ。
さて、今日は街に木刀でも買いに行くか。
「なるほど…カオルが剣術ですか…」
夜、俺は久しぶりにナナ師匠と話している。
懐かしいシチュエーションだ。
「いいんじゃないでしょうか。剣術は学んで損はありませんから」
「そうですね、じゃあしばらくは剣術指導をします」
「そういえば、レオは今後どうするんですか?」
「…まあ、1年くらいはこの国に滞在しながら周辺の村を回って情報収集しようと思っています」
「すぐ出発はしないんですね」
「なにかと今後大変だと思うので、準備期間を多めに取ろうかと」
そういえばナナ師匠、念話をあんまり使わなくなったな。
おそらくこの街には念話使いがほとんどいないから、自然と口で話すことが増えたんだろう。
ふと、ナナ師匠の方を見ると、彼女は優しい目でこちらを見ていた。
「本当に、大きくなりましたね」
あれから5年。
俺は13歳になり、身長も150センチ後半まで伸びた。
髪は一部白くなり、体も前よりたくましくなった。
「5年ですからね…」
そうすると、ナナ師匠は目を細めて、ニタっと笑みを浮かべた。
「好きな人とかできました?」
恋バナか。
そういうの好きそうだもんなこの人。
「いませんよ。俺、この5年は村にこもって修行してましたから」
「え!?そうだったんですか?」
ナナ師匠は驚いた。
あ、そっか。
村にこもってたこと話してなかったもんな。
「逆に師匠は好きな人変わったりしてないんですか?」
「変わってなんていません…って、え!?」
よし、カウンターが決まった。
俺はあることに気づいていた。
エイサール村で、ナナ師匠はいつもチラチラとある人を見ていたこと。
その人にもらったという短刀を、いつも丁寧に手入れしていたこと。
一緒に出かけるとなれば、服選びに2時間かけていたこと。
その人の話をするとやけに楽しそうにしていたことを。
「ナナ師匠、ドーラ師匠のこと好きなんですよね?」
「…………はい」
ナナ師匠の顔はみるみる赤くなっていった。
「まさかバレているとは…」
「バレバレでしたもん」
「バレバレだったんですか!?」
ナナ師匠の顔は更に赤くなった。
「……バカにしますか?」
「まさか。むしろ応援しますよ」
「あ、ありがとう。レオ…」
ナナ師匠は少し安心したようだ。
「コホン…レオ。話は変わるのですが、お願いがあります」
お願い?なんだろう?
「この街を去るとき、私達も旅に連れて行ってくれませんか?」
「え?それはなぜ?」
「私達もカーラとニナを探したいのが1つ。そして私ごとですが、自分磨きをしたいんです」
なるほど。
言い分はわかる。
理解もできる。
ただこの旅は危険だ。
カオルとナナ師匠を巻き込みたくない。
…そう考えていたとき、ドーラ師匠の最後の言葉を思い出した。
ー全員で帰ってこいー
そうだ、2人を、さらに言えば家族全員を守って帰るのが俺の宿命だ。
なら…
「わかりました。そうしましょう」
「ありがとう、レオ」
こうして、俺の旅にナナ師匠とカオルの同行が決定した。
「よし、まずは素振りから」
「はい!」
今日はカオルの剣術修行だ。
まさか、俺が剣を教える時が来るとは…
体力は魔術修行である体でついていた。
あとは筋力だな。
「よし、素振りのあと休憩して、それが終わったら初級の方を見せるぞ」
「わかった!」
休憩の後、俺は基本の方を見せて、それを教え始めた。
「お兄ちゃん。この動きってどうやるの」
「それはな…」
と言いかけたとき、ふとあることを思い出した。
「カオル、眼帯を外してみなさい」
「え!?でもナナさんはだめって」
「大丈夫。俺がいるから。それに、もうバレても問題ないから」
「わ、わかった」
カオルは恐る恐る眼帯を外した。
眼帯の下にあった左目は、右目と異なる色をして、輝いていた。
俺は右目の模倣眼を開眼して、カオルに近づけた。
「ほら、おそろいだ」
「…!?ホントだ!なんで!?」
どうやら俺の模倣眼については知らなかったらしい。
「今からカオルには俺の覚え方を教える」
俺はドーラ師匠が俺に教えたように教えた。
技を見せ、解析させて、使わせる。
これを繰り返す。
効果てきめんだった。
カレラはみるみる成長していった。
彼女は技ができるようになるたびに喜んだ。
この街での生活はまだ始まったばかりだ。
カレラのどんな表情をこれから見れるか、楽しみだ。
そう考えていると、ナナ師匠が口を開いた。
「あまり妹にのろけすぎないでくださいよ」
「…はい」
のろけすぎないように、頑張ります…。
こうして、俺のファジサイトでの生活が始まった。




