第2話:ゴミ箱の少女と虚無主義
深夜の散歩は、日課であり、徒労の徒歩だった。街灯が影を長く引き伸ばし、また押し潰す。まるで見えざる手に捏ねられる粘土細工のようだ。空気はひんやりと、都市が眠りに沈んだ後の寂寥気を含んでいる。貸し間へ続く路地に曲がると、街灯の光輪はここで薄れ、闇が粘り気ある墨汁のように、馴染み深い景物を包み込んでいた:黙した塀、閉ざされた戸や窓、そして──路地の奥、錆びつき、食物が腐った酸っぱい匂いを放つ公衆のゴミ箱。
足取りは無意識に軽くなった。しかし、目がその廃棄物の山の輪郭を掠めた時、釘付けになった。
野良猫ではない。
僕の通う学校の濃紺のプリーツスカートと黒のニーソックスを履いた、生気のない一対の足が、桶の外にだらりと垂れ下がっている。靴は擦り切れたローファーだ。視線を上げると、桶の縁に頭を預け、深い茶色の髪が乱れて顔の大半を覆っている。体全体が、まるでゴミ箱という巨大な胃袋に丸呑みにされ、頭と足だけが場違いな証として残されたかのようだった。
心臓が冷たいペンチで挟まれたかのように、突然縮んだ。寒気が背骨を駆け上がる。事故? それとも……死体? 荒唐無稽さと恐怖が一瞬で僕を捉えた。本能は逃げろと促すが、足は鉛を詰め込まれたように重く、その場に釘付けだ。目はその奇怪な光景から離せない。
この息詰まる死の静寂の中、その頭が──動いた。
目覚めの慵さではなく、無意識の、小さな生き物のようなこすりつけるような動きだ。ゴミ箱に埋もれた体も、サラサラと布が擦れる音を立てた。そして、濃厚な眠気を帯びた、不明瞭な呟きが漂ってきた:
「……ん…寒い……」
生きている。生きている少女が、悪臭を放つゴミ箱の中で眠っていたのだ。
荒唐無稽さが瞬時に恐怖を圧倒した。これは一体何だ? パフォーマンスアート? 極端な家出? 理性の警報が狂ったように鳴り響く:面倒だ。巨大な面倒ごと。巻き込まれれば、元々蒼白い生活がさらに支離滅裂になるだけだ。早く行け。今すぐに。
僕は無理やり視線をそらし、足を上げ、この不気味な気配を放つ隅を迂回しようとした。
「……ん?」 鼻にかかったような疑問の声が、はっきりと響いた。
動きが凍りつく。振り返る。
桶の縁で、その頭は完全に持ち上がっていた。乱れた髪の下に、顔が現れた。予想外に若く、むしろ幼ささえ感じられる。肌は薄暗い光の中で白く見えたが、決して病的ではない。最も目を引いたのはその目──闇の中で、まるで猫科動物のように、微かに光を反射し、奇妙な、ほとんど金色の琥珀色を呈していた。今、その目には恐怖も羞恥心もなく、ただ、眠りを妨げられた濃厚な当惑と、一抹の……好奇心?
信じがたいのは彼女の耳で、まるで猫のように、ふわふわとしていて、頭頂部でピクンと震えた。命を持っているかのように。
最近流行りのあのコスプレかよ。
彼女は瞬きをした。長いまつ毛が蝶の羽のように微かに震え、目が僕に焦点を合わせた。悲鳴も詰問もなく、ただ首をかしげた。まるで新奇な物品を識別しているかのように。
「ああ、」彼女は口を開いた。声は寝起きのしゃがれているが、異常に澄んでいる。「こんばんは?それとも……おはよう?」彼女は手首を上げて、時計を見る動作さえした。手首には何もついていないのに。
この常識外れの平静さ、この荒唐無稽極まりない状況が、僕の淀んだ思考に巨石を投げ込んだかのように、むしろ一種の無感覚に近い冷静さを呼び起こした。面倒な予感は相変わらず強いが、もう一つ、もっと見知らぬもの──説明のつかない、かすかな好奇心が──水底の暗流のように、ひそかに湧き上がってきた。あの見覚えのある制服のせいか?それとも闇の中で光る、人ならざるその瞳のせいか?
「……こんばんは。」僕の声は紙やすりが擦れるように乾いていた。
「おー。」彼女は一言返し、どうやらその答えに満足したようだった。そして、彼女はゴミ箱という環境にそぐわない、ほとんど優雅とも言える動作で、自分を桶から「抜き出」そうとし始めた。動きは少し不器用で、よちよち歩きの子猫みたいに、奇妙な、笑いを誘うような調和感を帯びていた。濃紺のスカートの裾に、正体不明の汚れがついた。
彼女のもがく様子を見ていると、舌の上で何度も転がっていた「大丈夫か?」という言葉が白々しく思えた。最終的に口をついて出たのは、自分でも驚愕した文句だった:
「……と、とりあえず……ウチに来るか?」声は囁くほど小さく、不確かな震えが混じっていた。
その琥珀色の瞳が瞬時に輝いた。闇に灯った二つの小さな灯りのように。彼女はもがくのをやめ、顔を上げて僕を見つめ、陰りひとつない、純粋すぎてまぶしいほどの笑顔を咲かせた。
「マジで?! やったー!」彼女は歓声を上げ、動作が一瞬で敏捷になり、手足を駆使してゴミ箱からひょいと飛び出し、軽やかに着地し、スカートの存在しない埃をパンパンと叩いた。まるでちょっと気持ち悪いソファから立ち上がったばかりのように。「羽留って言うんだ!羽根の羽、留まるの留!よろしくね!」彼女は軽くお辞儀をした。動作は流れるように自然で、制服の襟のリボンが片方に歪んでいた。
「渡辺悠人。」僕は名前を告げた。夢遊病のような感覚だった。
「悠人くん!いい名前だね!」羽留はぴょんぴょん跳ねながら僕の歩調に合わせた。まるで僕たちが真夜中のゴミ箱の脇で初めて出会ったのではなく、下校途中に連れ立っているかのように。「あたし北海道から来たんだよ!さすらーいのー旅ーびーとー」彼女は声を長く引っ張り、静かな路地に響かせた。奇妙なリズム感を帯びて。
北海道? なのに何で僕の学校の制服を着てるんだ?
だが言葉は喉に絡みついて、出てこなかった。
僕の六畳の「空っぽの箱」に戻る。羽留は異国の気配をまとった風のように、瞬く間に狭い空間を満たした。彼女は遠慮なく僕の小さな冷蔵庫に飛びつき、「わあ!宝の山!」と感嘆の声を上げた。すぐに、中にあるわずかな蓄え──飲み物数缶、食パン半袋、小さなヨーグルト、そして僕が秘蔵していた非常用のチョコレートさえも──が彼女の驚異的な効率で掃き清められた。彼女は畳の上に胡坐をかき、頬っぺたをパンパンに膨らませ、食料を貯め込むリスみたいに、目を満足そうに細めた。
「うめー!生き返った!」彼女は言葉を曖昧にしながら言い、口元にヨーグルトの跡を少しつけていた。
僕は座卓の向かい側に座り、彼女の風巻き残雲を見ていた。ずっと、ずっと他人と同室にいたことがなかった。空気には彼女が持ってきた、かすかなゴミ箱の酸っぱい腐敗臭、食べ物の甘い香り、そして言い表し難い、原野のような匂い、そして懐かしくも言い表せぬ感覚が漂っていた。
彼女は満足げに息をついた。頬が素早く膨らみ、目は幸福そうに細い隙間に細められ、太陽をたっぷり浴びた猫のようだった。指先でその小さな非常用チョコレートをつまみ、稀代の宝物のように扱い、注意深くアルミホイルを剥がすと、深い茶色の光沢が現れた。
「悠人くん、」彼女はチョコレートを口に含みながら、声は曖昧だが澄んでいて、琥珀色の瞳を僕に向けた。純粋な好奇心を帯びて。「普段これ食べてるの?普段何してんの?退屈じゃない?」
普段?「帰宅部」の一員として、僕はいつも端っこで生きていて、周囲の喧騒を拒絶している僕は時折同情の眼差しを受け、それに蔑視を返す。
「退屈」か「退屈じゃない」かは所詮人間の主観的な思い込みに過ぎない。「退屈じゃない」という対比がないから、僕の生活が「退屈」かどうかも推測できない。
周りの人たちが「退屈じゃない」と思っていることと、僕の普段のボーッとしていることは同じく無意味なのに、それでも無意味な物事に優劣をつけようとするのは、むしろ滑稽だ。
しかし言葉に詰まってしまい、仕方なく口をパクパクさせながらも声が出せない僕は、少しイライラした気持ちを抱えていた。
こいつ、パーソナルスペースって概念あるのか?
「ゴミ箱で寝てた俺に拾われた身でよく言うよ。」
結局、口に出た言葉はこれに変わった。
なんで彼女を拾ってきたんだろう、意味がないし、しかもありえない。
「違うよ、これは悠人くんが優しい証拠だよ。」彼女の琥珀色の瞳がキラキラと輝いた。「まるで白馬の王子様みたい!」
それってどういうことだよ、幼稚園児かよ?
ゴミ箱で寝てた「お姫様」がそう言うのはむしろ笑える。
でも口には出さなかった。黙っていればそのうち自分でやめるかもしれない。
優しい、なんて見知らぬ言葉だ。青春を謳歌する人たちのやり口に似ている。
彼女の目が突然窓の外へ向いた。
夜空にはなんと星がいくつか輝いていた。大都市の中心部ではないし、それに今夜は帰りが遅くてカーテンを閉め忘れていたからだ。
「星って言えばさ、」彼女は窓の外を見つめながら、声が突然落ち着いた。年齢を超えた透徹感を帯びて。「ある星は実はとっくに死んじゃってるんだよ。俺たちが見てる光は、とーっても昔に放たれた『遺言』なんだ。ロマンチックだね!死んでも必死に光って、宇宙に『おい!俺はここにいたんだぜ!』って伝えようとしてるんだ。まるで…」彼女は少し間を置き、僕を振り返り、澄んだ目で、「まるで俺たち一人一人が、いつか『遺言』になるみたいに。だからさ、光になる前に、意味を見つけとかないとね」彼女はニッと笑い、尖った小さな八重歯を見せた。さっきの落ち着いた雰囲気は一瞬で湧き上がる生命力に取って代わられた。
説教かよ、なんで。
「星は天国の裂け目」と言う人もいれば、「神は死んだ」と言う人もいる。
人間はいつも矛盾した言葉を作り出しては、自分を楽しませているだけで、実質的には全部意味がない。
「悠人くん、それって文脈無視だよ。ニーチェは自分で意味を作り出せって教えてくれてるんだ。」そして、彼女は突然声を低く落とし、俳優のように男の声を真似た。「『踊る星を生み出すためには、内に混沌を抱えていなければならない』。ニーチェ『ツァラトゥストラはかく語りき』でそう言ってるよ」
どうやら彼女はこういうつまらない口論を楽しんでいるようだった。
いや、確か僕は口に出してないはずだ。
それから長い会話が続いた……いや、主に彼女が話していた。
「悠人くん、」彼女は突然咀嚼を止め、琥珀色の瞳をまっすぐに僕に向けた。猫のような集中力で。「ここ、静かすぎるよ。」
心臓がその視線で軽く刺されたように感じた。僕は目を伏せ、指が無意識に座卓の縁の年季の入った木目を撫でていた。「……慣れた。」
「『無』に慣れた?」彼女は首をかしげた。面白い謎を解いているように。「『無』も存在の一種だよ。真空の中だって、見えない粒子がディスコしてるんだから!」彼女は大げさなダンスの動きをし、それからまた食パンを大きくかじった。
なんだこれ、量子力学の量子もつれとかそういう類の話か。
こいつは確かに厄介だ。相手が子供っぽいなら、同じような言葉でやり過ごせばいいだろう。
僕は黙っていた。長い間他人の言葉に応えたことがなく、不器用な言葉が舌の上を転がったが、結局乾いた一言にしかならなかった。「……粒子がディスコ? うるさそうだな。」
「プッ!」羽留は吹き出し、目を三日月のように細めた。「そうそう!だから真空は静かなふりをしてるんだよ!」彼女は前のめりに笑い転げた。まるで僕が何か世紀の名言を吐いたかのように。
「でもさ、悠人くん、考え方ちょっと古臭いかもね。科学って全部、俺たちの存在を説明するためにあるんだよ。『無』の存在も含めてさ。誰が思いつく? 俺たちが毎日吸ってる酸素が恒星内部の量子トンネル効果(量子トンネリング)に由来してるなんて。太陽が燃えず、生命も存在しなかったかもしれないんだぜ。でも俺たち、めっちゃ楽しく生きてるじゃん。量子のランダム性があるから、俺たちに自由意志があるんだよ。だから次の一口は、食パンの真ん中のふわふわしたところを食べるんだ。パリパリの耳じゃなくてさ。」
なんだこりゃ、読心術か?でも確かに、うまい返しは見つからなかった。
今夜、僕は確かにずっと関連する問題を考えていた。生活の中で麻痺した僕は未来が見えず、過去もますますぼやけていった。おそらく僕自身が俗に言う「決定論」に従い、規則正しく繰り返される日常を演じる無意味な機械なのだろう。いわゆる「自由意志」を信じていない、あるいは理解していない。たぶんこの瞬間の迷いさえも、とっくに決まっていたことなのだろう。
でもこの「無意味」な機械の歯車が、今少し緩んだかもしれない。
おそらく僕の生も死も何の意味も価値もなく、大海の一滴に過ぎない。全てが無意味で、僕は究極の法則の推演による駒に過ぎない。
今夜戻る前、僕はずっと高台に座り、下水道を流れる車と人の流れを俯瞰していた。
この世界に意味なんてない。だからそこから飛び降りたって意味はない。
経験したことのない恐怖による眩暈、これもまた人間という生物の自己防衛メカニズムなのか。
これほど疲れたことはなかったが、僕は家に帰って考えることを選んだ。
自分自身にチャンスを与え、世界にチャンスを与えるために。
夜の闇が窓の外を流れていた。羽留の声、食べ物を咀嚼する音が、部屋の長い間の空洞を埋めていた。見知らぬ、ほのかに温かい倦怠感が、彼女の脈絡のない饒舌に乗って、そっと僕の瞼にのぼってきた。彼女はついに畳の隅に丸まり、巣を見つけた小獣のように、僕の唯一の予備の薄い毛布にくるまり、すぐに均等で微かな鼾を立て始めた。
寝るの早すぎないか。
僕は電気を消し、窓の外から差し込む街の光だけを残した。闇の中で、羽留のぼんやりとした輪郭が安らかに息づいていた。ゴミ箱の酸っぱい腐敗臭は薄れたようで、空気にはチョコレートの甘い香りと、ほのかな……雨上がりの青草のような清々しい匂いが残っていた。
自分の布団に横たわり、薄暗い天井を見つめた。胸の中、長い間沈黙に慣れた心臓に、小さな、縁が毛羽立った石が投げ込まれたかのようだった。波紋が輪を描いて広がり、「習慣」という名の泥を掻き乱す。
面倒? 疑いようもない。
しかし今、この「羽留」に一時的に侵入された静寂の中で、長い間心の奥に居座っていた「無」という名の埃が、この「北海道」から来た、荒唐無稽と生気をまとった風によって、そっと一角が吹き払われたように感じた。
窓の外、数十億光年離れた恒星の「遺言」がきらめきながら、僕は目を閉じた。