表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

3:仮面舞踏会なら浮気をしてもいいって…。やはり殿下の頭は下半身にでも着いているのでしょうか?

本日からは2話投稿となります。

本日1話目!

王都の貴族たちの間では、日々たくさんの“夜会”が開かれていた。社交、結婚、陰口、同盟、誘惑――そのすべてが、薄い仮面の下で交わされる。

この夜もまた、ひとつの仮面舞踏会が、王宮近衛伯爵家の館で開かれていた。主催者は、王家と旧来の縁を持つ名門家。ロイゼン公爵家の令嬢であるアイリスにも、当然のように招待状が届けられていた。

「ずいぶんと賑わっているわね。」

舞踏会会場に足を踏み入れたアイリスは、笑みを浮かべた。白銀の仮面と、薄青のドレス。まるで冬の精霊のような姿は、他の令嬢たちの視線を引きつけて離さない。

けれど、彼女の笑顔は決して温かくなかった。それは、完璧に磨かれた“貴族令嬢の仮面”だった。

サムは数歩後ろで控え、周囲を警戒しつつ、彼女の一挙一動を見守っていた。それが、彼の「影」としての務めだ。

しかしその視線の端で――サムは、アイリスとは対照的な少女の姿を捉えた。

男爵令嬢メリー・アルメリア。今日の彼女は、薄桃色のドレスに、可憐な花を模した仮面。そしてその腕には……ヘンリー王子の姿があった。

彼らはまるで、周囲の目を気にする様子もなく、ふたりで笑い合い、グラスを交わしている。

その光景は、たった数日前までは“噂”でしかなかった。けれど今は――誰の目にも明らかな“現実”となっていた。

その瞬間、舞踏会場の空気が、微かに波打った。

(これが、貴族の世界)

アイリスは、手にしたグラスを揺らしながら静かに息を吐く。

(誰も、咎めない。誰も、怒らない。なぜなら、私と殿下の婚約は、感情ではなく“取り決め”だから)

ただ、その取り決めにすら、もはや敬意が払われていないことが――何より、彼女の胸を締めつけた。

舞踏会の終盤、アイリスは誰にも告げずに会場を抜け出した。その背に、当然のようにサムがついてくる。

ふたりきりになった中庭で、アイリスはぽつりと口を開いた。

「……あのふたり、とてもお似合いだったわね」

サムは何も言わない。否定も、同情もしない。

「ねえサム。私は、どうすればよかったのかしら。」

「……」

「もっと愛想よくしていたら、殿下はこちらを向いてくれたのかしら。それとも、メリーのように可愛らしく振る舞うべきだったのかしら。」

夜風にドレスが揺れる。アイリスの肩が震えていた。それが怒りか、哀しみか、自分でもわからなかった。

ようやく、サムが静かに口を開いた。

「アイリス様。あなたがどう振る舞おうと、相手が何を見るかは――相手の問題です。」

「……。」

「ですが、私にはわかります。あなたは、仮面の奥で、ずっとご自身を閉じ込めてこられた。それでも、誰にも頼らず、誰も責めずに。」

その声が、胸に沁みた。

アイリスは、こらえていたものが溢れそうになるのを感じながら、そっとサムの袖をつかんだ。

「……少しだけ、このまま。黙っていてくれる?」

「はい。」

ふたりの沈黙だけが、夜の庭に漂っていた。

けれどその沈黙は、舞踏会の音よりも、ずっと温かく、意味があった。

次回は12時頃予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ