ショートフライ(後書き)
こんばんは、作者のぽにょです。書き方のテンプレ的なやつ考えたので、お試し程度に早速ちゃんとした説明しますね。
この物語は、“沈黙の人間”を、ひとつずつほどいていく話です。最初から最後まで、誰もはっきりとは言わない。父は何も語らず、母は何かを隠していて、娘は問いの形を見つけられない。
けれど、だからこそ“信じる”ということが生まれる物語になると信じて、『ショートゴロ』という一本の軌道を描きました。
1. この物語の核と創作意図
最初に浮かんだのは、「あるプレーが誤解されたまま終わったら、どうなるだろう?」という問いでした。
それが“ショートゴロ”だった理由は、地味だからです。派手なホームランじゃない。三振でもない。
ただ、転がってきた球を取って、投げる。
——でもその一歩、その投げるタイミングには、すべてが宿せる。
「わざとだったのか?」
「なぜ止まったのか?」
「何を守ろうとしたのか?」
それらを、“父の最期の一球”に詰めこもうと思いました。たった一歩の遅れ。その“理由”を、娘が少しずつ知っていく。それだけの話です。
でも、それだけでよかった。
2. 父・鳥谷丈一について
丈一という人間は、クズで、ずるくて、でも一線を超えなかった人です。八百長の空気に迷い、家族のために誇りを捨てる寸前まで行った。けれど、最後の一歩で、“誰かに見せたい自分”を選んだ。
何も語らなかったのは、誇りではなく、祈りです。
「信じてもらえないかもしれないけど、それでも、見てくれていた人がいたなら、それでいい」
そんな願いを、寝言ひとつに込めて、
毎晩“投げ直していた”男でした。
彼は、信じてもらうことを諦めたけれど、
娘にだけは、諦めきれてなかった。
それが、この物語のすべてです。
3. 真白の変化と視点構造
この物語を最初から最後まで“真白の視点”で描いたのは、彼女の感情の成長がすべての道筋になるからです。
父を“クズ”だと思っていた彼女が、手紙、新聞、映像、言葉、寝言、記憶——
“断片”をひとつずつ拾っていくうちに、
「これはただのミスじゃない」→「これは選択かもしれない」→「これは私に向けられていた」
という確信に変わっていく。
この変化は、物語のテンポそのものとリンクさせてあります。だから中盤以降、父の行動を描かずとも、真白の内面だけで全てが見えてくる。
真白が父を“理解しようとした”そのこと自体が、
父の選択の意味を完成させる——それがこの小説の構造です。
4. 伏線と回収の設計
いくつかの重要な伏線を整理します。
•寝言「ショートゴロだった……」
→ 一見、後悔や悔しさに聞こえる
→ でも実は「誇りの確認作業」だった
→ “届いてほしかった一球”を何度も投げ直していた
•新聞が見つからなかった理由
→ 実は母が“隠していた”
→ 真白に“自分でたどり着いてほしかった”から
•送球のワンテンポ遅れ
→ 世界は「八百長だ」と決めつけた
→ でも実は“最後まで全力でアウトを取った”
→ 判定は誤審。でも、父はそれさえ受け入れた
•観客席を見上げた父
→ 実は、母と真白がいた
→ 娘が“見てくれていた”ことが、彼の最後の支えだった
•一度だけ迷った、という母の証言
→ 父も“自分を守る選択”をしかけていた
→ でも、最後に“娘に見せたい自分”を選んだ
そして、終章で真白が言う「アウトだったよ」によって、このすべてがひとつに収束します。
5. ラストシーンの意味
終章で父は、何も言いません。
でも、「……正面から受けりゃ、痛くねえんだよ」という最後の一言は、
真白への答えであり、自分自身への肯定です。
“あのときの一球は、自分にとって間違ってなかった”
“たとえ世間が信じなくても、娘が受け止めてくれた”
その瞬間、ようやく彼の寝言は止まる。
真白が最後に思う——
「正面から受けたゴロは、痛くなかった」
それは、父が教えてくれた“生き方の形”そのものでした。ゴロというのは、野手からすれば処理しなければならない“問題“です。真白にとってそれは「クズだと思っていた父」であったのでしょう。それを正面から受け、父の誇りであるショートゴロを処理していくうちに、いつの間にか父への嫌悪も無くなっていた。それがこの物語の核ですね。
6. 読んでくれたあなたへ
この小説は、「大きなドラマ」ではなく、たったひとつの“沈黙”をどう受け取るか、という物語です。
私たちは、誰かに何かを伝えられずに生きることがあります。伝えたくても、伝えられなかったこと。
言い訳したくても、もう届かない相手。
この物語が、そんな“伝えられなかった一球”を、
今からでも「投げ直せる」と思えるきっかけになったら、私はこの作品を書いた意味があったと思います。
もし、あなたの中に“あれはアウトだった”って信じてあげたい誰かがいたなら、この物語は、もうちゃんと届いています。
ありがとうございました。また、どこかで。
と、いうことで真面目モードをご覧頂きました。あとは気づいている人いるのかわからないですけど、18時に3つ投稿してるんですね。これは18時が6時だということにかけています。6というのはショートを表す数字であり、丈一の背番号、そして3つ出していることで、丈一が自慢げに語っていた6-4-3のゲッツーを3回取ったことを表しています。まぁ、なんとも意味の無いカミングアウトでした。それでは!