気が付けば穴の中に落ちていて、いつの間にか牢の中にいるってどういうことだよ
穴に落ちていく。どこまで続くのかもわからない穴である。
もうどれぐらいの時間落ち続けているのかも定かではない。なぜ死なないのかも謎である。
ただわかっているのは俺が重力に引かれて、地中に落ちているということだけである。
なぜこんな状況になっているのかというのは俺にも分らない。朝起きたらこんな状況だったのである。
今の状況を整理してみると、俺は高校2年生の東條行人で、年齢は17歳、趣味はゲームだ。思い返してみると平凡である。
そんな平凡な俺がなぜか穴に落ちている。物理は得意ではないから詳しいことはわからないが、時速100キロはあるだろう。考えたら考えたらこの状況は謎だらけである。
異世界転生にしてもいきなり穴に落ちているのは訳が分からここが、これが現実世界という可能性も考えられない、夢である可能性は少しだけあるかもしれない。ほかの可能性はないのだろうか。
しかし本当にそこまでたどり着かない。段々とおなかが減ってきた。
こんな法則無視している状況でも、ちゃんと人間としての機能は作動しているらしい。
しかし、本当に暇である。俺にも何かできることはないのだろうか、このまま無様にも落ちていくことしかできないのだろうか、そんな考えが頭の中をよぎる。
このまま落ち続けてもいい結果にはならない気がするが、かといって何もできないというのが現状だ。
一度壁に指をあててつかまろうとしたが、結果ははじかれるだけとなった。
それから何度挑戦しても結果は変わらないのだ。
何時間が経ったのであろうか、景色は何も変わらないのだから、何もわからない。
絶対的な情報量が少なすぎるのだ。
何をするのにも情報は欲しい。
ただ現状得られる情報は落ちているという情報と、穴の中であろうという情報と、周りにある地面しかない、正確には穴の外堀であるが。
「いてて」
寝ていたが衝撃
で目が覚めた。地面だ、地面がある。ようやく地面に着いたのだ!
そう思ったのもつかの間、衝撃的な事実に気が付いた。
それはここが巨大な檻の中だということだ。
どうやら穴の行き先はここになっていたらしい。周りにもさまざまな牢獄があり、牢獄の外には誰もいない。住民も、看守らしき人も。
俺は訳が分からなかった。
そこから絶望が始まった。寝ても覚めても檻の中だし、檻の外には相変わらず人がいない。飯はというと、何も食べられないのだ。
だが不思議なことに空腹になっても死ぬことはない、せいぜい延々と餓死の苦しみを味わうだけなのだ。寝ても覚めても寝ても覚めても寝ても覚めても何も変わらない。
何もできることがないのだ。生の楽しみなど忘れてしまった。
穴に落ちているときの方がまだ、幸せだったかのように感じる。
あの夜のことがまるで10年前のことのように感じる、いや、実際に10年たっているのかもしれない。あの夜は家に帰った後、漫画を読みながらゲームをしながらアニメを見ていた。
今考えるととてもしょうもないことをしていたなと感じる。こうなるぐらいだったらもっと有意義に時間を使えばよかったなと感じる。
もう涙など枯れ切った、しかしここで生活していっている中であることに気が付いた。
それは頑張ったらここから出られるかもしれないということである。
最初は気が付かなかったのだが、上の穴から石などが降ってくるのだ。
これを使って脱獄出来ないかと考えたが、知能の無い俺には無理な話だった。
石を鉄の檻にぶつけても、石が砕けるだけだ。それに石が落ちてくるのも、ごく稀である。
俺はただ待ち続けた、ただただ待ち続けた。しかし、状況は何も変わらない。漫画とかだったらこの穴の中からヒロインが降りてきたり、なんか特殊能力が出てきたりするのだが、そんな気配もない。
何もできない。何もできない。何かをしようとするが、何も出来ない。心なしか狂いそうだ。いや、俺が気がつかないだけでもう狂っているのかもしれない。俺は時々檻に頭にぶつけたり、檻を蹴ったりしているのだ。そんなことをしても状況が変わるわけがないのに。
あれからだいぶ時間が経った。
まだ救いの女神は現れていない。髭も伸びないし、体内時計も当てにならないので、どれぐらいの時間が経ったのかも分からないが、とにかく時間が経った。
さすがにそろそろ何かあってもいいとは思う。何かイベントが起きてもいいと思う。
しかし、現実にはそんなイベントは起こらない。
さらに時間が過ぎてゆく、もう時間という概念すらわからない。時間とは何なのか?時間は動いているのか、それすらわからなくなった。何をすればここから出られるのか?まだ何も分かってはいない。
さらに時間が経った、牢獄が老朽化してきた、今なら壊せそうだと俺は思った。
これは神からの祝福だと思った。この長い時間耐えた俺への祝福だ。
俺は牢に向かって体当たりをする。すると牢はギシギシと音を立てて、少しずつ外の方へ動き出していく。俺はすぐさま次の体当たりに移り、牢にぶつかる。そんなことをして37回目、やっと牢の鉄格子が倒れた。
それが意味するのは一つ。
自由だ、俺はようやく自由になれるのだ。しかし、安心したのも束の間、まだここが地下であることを思い出した。
ここから脱出しなければならないということに。今まで牢の看守などは見たことは無いが、存在する可能性がある。奴らに見つからないように脱出する必要があるのだ。
俺はよく考えたらまだ囚われている人がいるという可能性に気が付いた。先ほどの俺みたいに地獄を味わっている人がいる可能性に。俺は周りをひたすら確認し、移動した。牢らしきものはなかなか見つからない。ひたすら進むが、何も見つからない。このまま何も見つからないんじゃ無いかと考えた時に一つの牢が見つかった。
その牢には1人の少女がいた、おそらく11才程度であろう。しかし、見た目が11歳程度なだけで実際はかなり歳を取っているのだろう。俺は少女に話しかける。
「おい、大丈夫か?」
「ん?誰?」
「俺も牢に囚われていた1人だ」
「なんで外にいるの?」
「牢が老朽化していて出れたんだ」
「そうなの?私もようやくここから出れる?」
喜びの表情を少女は浮かべている。
「わからん、ただ可能性は高い」
「良かったー私もここからやっと出られるんだ」
「どれぐらいここにいた?」
「わかんない、永遠に近いほど」
「俺もだ、人との会話なんて久しぶりだ」
「私も!」
もう、最後の会話は記憶の奥底に小さな物としてあるのみだ。
「で、どうやって出すか」
「うん、あなたはどうやって出たの?」
「俺は普通に体当たりで」
「力技だね」
「ああ、それしか方法がないからな」
「そっか」
「いっせーのーででぶつかるぞ」
「うん!」
「いっせーのーで」
牢が若干揺れる、しかし先ほどよりも衝撃は弱い。
「いっせーのーで」
また少し揺れる、しかし外れる気配は無い
「いっせーのーで」
また外れる気配はない
「いっせーのーで」
「ダメですね」
「ああ、そうみたいだな」
「どうしよう、このまま出られなかったら」
「大丈夫だ、俺が必ず方法を見つけてくる」
「ありがとう」
「そういえば君の名前は?」
「霜月冬美、12歳」
「そうか、俺は東條行人、17歳だ。そうはいっても今は何歳かわからないけどな」
「たしかに」
「じゃあそろそろ行くわな」
「うん!帰ってきてね」
「ああ!言ってくる!」
他に生存者はいないのか?と俺は捜索を再び開始する。
先ほどわかった通り、今の俺には牢を壊す力は無い。
よって牢を壊す方法も同時に探さなくてはならない。
しかし、ここは広いな。地中にこんな広い空洞があるなんて不思議だ。
空気とか大丈夫なのかと思ってしまう。
本当に、ここには何も無い、無さすぎるのだ。
地面には不思議なことに、砂とかは落ちてはいない。
硬い地面があるだけであり、掘ろうと思っても硬過ぎて人間の手ではまるで歯が立たない。
考えるとまた不思議である。しかし、よく考えて見ると当たり前のことだ。なにしろ、空腹で死ななかったのだから。
探しても探しても何も手掛かりは見つからず、進んでも進んでも何も無い。それに他の脱獄者とも会うことができない。
また少し進んだその時に出口が見えた。その先もまた穴のように見えた。俺は怖いなと一言呟いて先を進むことにした。
早く冬美や他のまだ見ぬ地獄の中にいる人たちを救わないといけない。
俺は少しずつ穴を駆け上がって行く。少しずつ少しずつだ。
穴の中は暗かった。先ほどの空間が明るかっただけだったのだ。怖い、それがおれの心境である。暗く先が見えない、17年間日本で暮らしてきた俺にとってそんな怖い話はない。
「うあ」
視界が急に明るくなった、俺はその明るさに耐えられずに目を思わず閉じてしまった。するとその瞬間、謎の攻撃を喰らった。
「まじかよ」
俺はそう呟いた。まさかここにモンスターがいるなんて思わなかった。今までもここが地球だと言う可能性は捨てていたが、もう完全に異世界だということが発覚した。
モンスターが2撃目を放つ、俺はなんとかその攻撃を避ける。
しかし、すぐさまモンスターが3撃目を放ち、俺はダメージをまた負ってしまう。
奴の攻撃力は運のいいことに低いらしい。しかし、こんな攻撃をいくらか喰らっていけば、死んでしまう。
俺はひたすら避ける、避けまくる。俺にとってこんなに俺がまだ動けるというのが不思議なほどだ。
しかし、俺にとって奴を倒す方法が無い。
このまま避け続けていてもいつか限界が来ることは分かっている。どこかで行動を起こさないといけない。しかし、俺にはその方法は思いつかない。
ふつうは逃げ一択なのだが、こいつに対してはかんばれば倒せそうな気配がする。
どちみち俺に残されている選択肢は進むということなのだから。
奴が腕を振り下ろしてくる、俺はその攻撃を避けながら、一か八か奴に両腕を振り下ろす。奴は少しだけダメージを受けた様子だった。俺は良しと思い、次の2撃目の準備に入るが、次の攻撃に入る前に奴が立ち上がり、怒った様子でこちらに腕を三度振り下ろす。俺はその攻撃をなんとかよける。
おそらく最初は手を抜いていたのだろう、今の攻撃は俺が二回死ぬぐらいの威力はある。実際に地面が軽く抉れている。
敵の連撃にとにかく早い、避けられないこともないが、こちらの攻撃する暇がない。何とかすきを見つけ出そうと思うが、好きなど一切見つからない。
「ぐああ」
ついに敵の攻撃を食らった、死ぬことはない、死ぬことはないが、痛すぎる。俺はすぐさまその場に倒れこんでしまった。しかし、それを待ってくれる相手ではない。すぐさまこちらに向かってくる。
俺は死を覚悟した。同時にさっさと逃げとけばよかったと思った。
俺はなんて馬鹿なことをしたんだと思った。
かなうわけがなかったんだ、ただの人間である俺なんかに。
一歩ずつ奴が近づいてくる、一歩ずつ一ずつと、死のカウントダウンのような足音が聞こえてくる。
俺はむなしい、あの地獄の果てがこんなしょうもない結末だったのだと。まだ冬美も助けられていない。こんな中途半端なところで生涯を終えるのか。くだらない、本当にくだらないと心の中で数回呟いた。
奴がこぶしを振り下ろしてくる。終わりだと確信した時だった。奴が急に倒れた。なにがあったんだ、本当にそう思った。
しかし、このチャンスを不意にする訳には行かない。俺は恐れながら先に進む。その先に希望が見えることを信じて。
運のいいことにしばらくモンスターには会うことはなかった。俺はほっと思った。さっきみたいな奇跡がまた起こるとは限らないからだ。
「いて!」
剣が落ちていた。危なかったあと少し進んでいたら刺さってしまうところだった。その剣は暗くあまり形状などは分からない。しかし、分かるのは大きな武器を得たということだ。
「重いな」
問題もあった。俺に扱えるのかと言う問題が。西洋の騎士ならともかく、俺は剣など持ったことはない。これで戦おうなんて夢のまた夢である。
しかし、使えなければここから先に進めるかどうかわからない。よって俺は使えるように頑張る。
しかしそんな早く使えればそんな簡単な話はなかった。あれから三十分は経っただろうか、それでも全く使える気配はなかった。筋肉が足りないのか、それとも楽な持ち方があるのだろうか、理由はわからないのだが、やはり高校生だった俺に持てるほど楽なものではないのだ。
仕方ないので、剣を置いていくことにした。この剣を持って戦えることが理想なのだが、今のままだと枷になってしまう可能性が高い。
そして上にどんどんと上がっていく。先ほどは運がよく助かったが、今回はアウトの可能性がある。
だが、しばらく魔物に出会わない。今度は運がいいようだ。だが、穴の中は精神的に効く。辛すぎるのだ。ほぼ光のない空間。そんな中に何時間もいたら人間がどうなるかなんて目に見えてわかる。
「ここは」
おそらく一時間二時間は上ったであろう。そこにあったのは空だった。どうやら助かったらしい。だが、安堵するのはまだ早い。彼女を助けるのもそうだが、辺りが安全かどうかを確認し、人の住む場所を見つけなければならない。
俺は、とりあえず周りを見渡し、人の気配がする方に向かう。
周りは一面の荒野だったが、近くに村が見えた。
よし、これなら安全だ。
とりあえず村に行き、助けの手を借りなければならない。
村に向かうと、そこに、住民がいた。そこで、助けを要求した。
「なるほど。魔の穴に落ちてよく助かったねえ」
「あそこはそんなにひどいところなんですか?」
「ふむ。あそこは死の穴だ。魔王の住処でもあるからな」
魔王の住処だと。なら、なぜ俺たちはそんなところに捕らわれていたんだ。
待てよ。もしかして。
「ここには地球人という概念があるのか?」
「ああ、ある。地球人は、魔王を倒すことのできる可能性に満ちている存在だ」
「存在だと?」
なら、なぜあの剣を持てなかったんだ。
「いや、正確には、魔王を倒せる可能性があるというだけだがな。予言曰く魔王を倒せる可能性のある少女、霜月冬美がその可能性筆頭だ」
「まて、俺はその少女を知っている」
「なんだと、なら、伝説の剣は?」
「それも知ってる」
「ならば、魔王を倒せる可能性もある。魔王を倒せばお前たちも元の世界に戻れるはずだ」
「……分かった」
それを聞き、俺は再び穴の中に飛び込んだ。
今度こそ冬美を助けるために。
「助けは読んでくれましたか?」
冬美は、牢に、ちょこんと座り込んでいた。
「ああ、よんだ。だが、それ以前に大事な話がある」
そう、俺は村で聞いた話をした。
「なるほど、それで私が戦う必要があると」
「ああ」
そして村から来た助けと共に、牢を破り、冬美を剣の場所まで連れて行き、剣を持たせた。やはり、適正か、これは。何しろ、彼女よりも俺の方が力はあるはずなのだから。
そして、彼女は出てくる魔物全てを滅多切りにしていった。
「あはは、私強いみたいです」
まさかここまで強いとは思ってなかったな。
しかし、良い誤算だ。
このまま魔王を倒せるんじゃないか?
……しかし、こうなったら俺がここに居る訳とは何なのだろうか。
先程急にモンスターが倒れたのも、冬美が俺の無事を祈ったからみたいだし。
覚醒したのは、剣を持ってからだが。
そしてようやく魔王のままで来た。
「貴方が魔王ですか?」
待ち構えていた黒い影に向かって冬美はそう言い放った。
「否、違う」
「違うって!?」
「我は魔王の服生体。本当の魔王はこちらよ」
そう言って魔王の影は俺に取りついた。
「なんだと!?」
内に闇の魔力が入ってくるのを感じる。
「まさか魔王様が、勇者を開放するとは意外でしたが。……なら思い出させてあげましょう」
俺の頭の中にどんどんと記憶が雪崩れてくる。
その記憶が全部脳内に納まったとき、俺は今の状況を理解した。
「ああ、そう言う事だったんだな」
俺は元々魔王だった、その魔王の魂が異世界、つまり地球に飛んできていた。
それが俺だったのか。
この影が俺の肉体だったのだ。
「俺はどうしたらいい」
俺は影に訊く。
「勿論、異世界から来た勇者を滅ぼしたらいい」
「なるほど。そう言っているが冬美ちゃん。君はどうしたい?」
「えっと」
困っているようだ。
俺を殺したくないという気持ちなのだろうか。
「君の気持ちは大いにわかる。が、早く手を打たないと、俺は闇に取り込まれてしまう」
事実、俺はあと少し経てば、意識が保てなくなるあろうという事が、安易に予測できてしまう。
「だから俺を殺すんだ」
「魔王様、何を言って」
「お前は黙ってろ」
こいつが元凶だ。いや、俺自体が元凶か。
だが、そんなことはどうでもいい。今の俺は生きて手はいけない生物だからだ。
記憶の中で俺は何千人も殺していた。
そんな俺が生きてていいはずがない。
多分地球に行ったことで、善の心が芽生えた。それが俺なんだ。
「だから、頼む。殺してくれ」
★★★★★
「俺を殺せ」
そんなことできない。和退社あの牢獄に閉じ込められて、絶望を味わっていた。
そんな私を助けてくれたのが、彼、行人さんだったんだ。
そんな彼を殺す。そんなことできるわけがない。
もし私が本当に勇者だったとして、私にできることは何だろう。いえ、もう考えなくてもわかっている。
「私は、貴方を助けたい」
行人さんを倒してハッピーエンド。そんなのハッピーエンドなんかじゃないんだから。
「行くよ」
私は体の中からエネルギーを放出する。
そのエネルギーで結城さんを包んだ。
そしてその体から、影を取り出した。
「これさえなければ。平気ですよね」
そう言って私は影を覆いつぶした。
「これで終わりですか」
私はそう呟いた。するとそこに、行人さんが倒れ込んだ。
「後は、地上に戻るだけかな」
そう私が言った瞬間、行人さんの体がどんどんと崩壊していく、
それこそ、粒子になっていくような形で。
「え? なんで?」
「大丈夫だ。お前は一人で元の世界に帰れ」
「でも!」
「俺はいいんだ。多分俺と変えは表裏一体、どちらかが死ねば、どちらも死ぬという物なのだろう。仕方ないんだ」
そう言ってどんどんと粒子と化していく行人さん。
「お前は元の世界で生きろ」
そう言って、行人さんは今度こそ消滅した。
「ではこの問題を霜月応えてみろ」
そう言われ、私は応える。
あの事件からまだ三カ月しかたっていないとは思えない。それくらい、濃密な日々だった。
穴の中で体感何十年も過ごしていたとは思えない。
行人さんは今どうなっているのでしょうか。その答えは恐らく一生分からないだろう。
でも、私は行人さんを救えなかった。その後悔の念が残っている。
私はその罪の意識をずっと背負って生きていくのだろう。私はそう実感している。
その帰り道。あの日々を感じ後の私には、周りの景色が違って見える。三ヶ月他tぅても、まだ地球に戻ってこれたとは到底思えない。
まだ、あの感覚が残ってしまっている。
「よお」
「行人さん!?」
なんで?
でも、そこにいたのは行人さんだった。
「よくわからないが、気が付いたらこの世界に戻ってたんだよ」
無事に戻ってこれてたってこと?
「良かった。本当に良かった。私があなたを殺してしまったのだと」
それを見て周りの人たちが、「なんだなんだ」と言っている。それを見て、「近くのカフェに行こうぜ」と、行人さんが言ってくれた。
彼曰く、元の世界にはつい先日戻ってきたようだ。
それまでずっと昏睡状態だったと。
「詳しい原理はよくわからないが、俺は無事に戻ってこれてよかったと思っている」
「うん、私も行人さんが無事に戻ってきてくれてよかった」
「そうだな。これからもよろしく頼むぜ」
「……うん!」
そして私たちは固い握手をした。