表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/36

22. 海のグネグネ


「姐さんと一緒に、居住区に移住してもいっすか」

 コボルトたちは、マーゴットについて行く気まんまんだ。


「いいと思いますけれど。でも、私まだ草刈りの旅を続けなくてはいけないの」


 まだ、魔植物がはびこっているところがたくさんある。とりあえず、南に来たから、次は東に向かおうかと考えているところだ。今度は一直線ではなく、ギザギザと伐採しながら進んで行けば、討伐面積が広くなるだろう。


「そっすか。だったら長距離が厳しいちびっ子や長老たちは、姐さんが作ってくれた道で居住区に行かせようかな。姐さんについて行くのと、居住区に行くので、群れを分けやす」

「大丈夫かな。まだ魔植物たくさんいそうだったけど」


 護衛たちが心配そうに割って入る。マーゴットには見えていないが、それなりに魔植物が残っているらしい。コボルトたちは考え込んだ。


「小舟があるんだから、海から居住区に行けばいいのでは」


 船旅、快適だったなとマーゴットは思い出す。船酔いもなく、爽やかな風を楽しめた。それに、小舟なら荷物を運ぶのも簡単だろう。


「海はですね。さらに恐ろしい魔物が出るのです」


 長老が大きな声で説明してくれる。長老、名前をもらったら元気になって、声も大きくなった。


「破壊王が、海の魔物も定期的にまびいてくださったらしいのですじゃ。ところが、破壊王が何百年も不在になられて。その間に、海の魔物はどんどん巨大化し。巨大な魔物同士が食い合って、残った魔物はさらに大きく」


 長老が、悔し気にヒゲをピルピルさせる。


「もう、おちおち海にも出られやせんのですわ。魔物のせいで、海面が上がって、大事な神殿まで沈んでしもうたと聞いております。わしら、どこに向かって祈っていいのやら」


「そうなのですね。なんとかしたいのは、山々なのですが。海の魔物は、私の対象外ですわね。草がないと、どうしようもないですもの」

「やっぱ、そうっすかね。姐さんだったら、どこでも無敵な気もしやすが」


 コボルトたちの期待に満ちた潤んだ瞳。マーゴットは心苦しいが、首を振る。できないものはできない。海は、マーゴットには未知の世界。海の魔物の知識もない。


 ツンツン ツァールがマーゴットをつつく。手にはぬらぬらした緑の。


「なるほど、それならいけるかもしれませんわね」

 マーゴット、初の海刈りが始まる、かもしれない。

 


 小舟に乗った護衛とコボルトたちが、海に漕ぎ出す。マーゴットは、ツァールと共に、崖の上で待機だ。じっと海を見つめる。


 小舟が点ぐらいの大きさになったとき、ツァールが手招きする。マーゴットはツァールの背中に飛び乗った。大きな翼が持ち上がり、ツァールとマーゴットは空に浮いた。ツァールは、マーゴットが振り落とされない、ギリギリの特急で一直線に飛ぶ。マーゴットの目にも、グネグネした海の魔物が見えてくる。シーサーペント、大海ヘビがコボルトを食べようとかま首を持ち上げている。


 ベチッベチベチッ ツァールが空からワカメをまき散らす。ワカメまみれのシーサーペント。

 マーゴットはツァールの背中から真っ逆さまに落ちる。


「やーっ」マーゴットの斧がきらめく。

「シーサーペントのワカメ巻き、きたー」

「輪切りー」護衛とコボルトが叫ぶ。


 バッシャーン ドボドボドボッ 輪切りのシーサーペントが海に浮かんだ。

 コボルトたちは喜びいさんで、輪切りを小舟に回収する。


「姐さん、さすがっす」

「姐さん、最高っす」

「姐、姐、姐ー」

 コボルトたちが拳を突き上げる。


「今日もご馳走っすねー」

「うーん、そうね。ちょっとだけ試してみようかしら」

 ミミズはあれだけど、シーサーペントなら、まあ。いけるかもしれない。



 シーサーペントの輪切り焼きを食べて、ゆっくり寝て、翌朝。海に小島ができていた。小島の上には神殿が見える。

「うーん、不思議なことばかり起こる島だわ」


 不思議のほとんどは、マーゴットが巻き起こしているのだが。マーゴットに自覚はないようだ。

 ツァールが止めないので、皆で小島に上陸する。巨石を積み上げられた神殿。石に掘られたうずまき模様が至る所に見られる。


「伝説の、うずまき神殿」長老が感極まった声でつぶやく。


 まんまだわ。マーゴットは思ったが、口には出さない。

 神殿の内部には、豊満な豊穣神の像が鎮座している。


「うずまきは、永遠の象徴。この地に永遠なる豊穣を」


 長老が静かに言い、皆で跪いて豊穣神に祈りを捧げる。静謐な空気が流れた。

 祈りが終わると、長老は立ち上がり、マーゴットを見上げる。


「破壊王マーゴット。ここは時を司る神殿と言い伝えられておる。時にまつわる願い事をしてみるとよいやもしれぬ。ただし、ひとつだけじゃぞ。ひとつじゃぞ」

「はい、そういうの、慣れてます。ちょっと考えますね」


 マーゴットは、ベネディクトの真似をして、手を額の前で三角にしてみる。三角かあ、なんにも思いつかないわあ。まあ、いっかあ。


 すうっ マーゴットは息を深くすって、口を開いた。


「長ーい願い事もなしじゃ」

 長老の言葉にマーゴットは口を閉じる。なぜ、バレているのか。はあ、仕方がないですわあ。


「この島の水を若返らせてください。塩まみれになる前まで。よろしくお願いします」

 ギギギギギギ 豊満な豊穣神の両腕が上がり、ゴトンと足の間から何かが落ちた。


「な、何か。産まれたのか、落ちたのか。ちょっと、もうちょっとこう」

 別の出し方してほしかったマーゴット。ツァールがサッと何かを取り上げ、ハンカチでゴシゴシこすり、マーゴットに渡してくれる。


「これは、何かしら。木の魚かしら」

  マーゴットの手の平ぐらいの大きさの、木の魚。


「それを水に浮かべて、魚の頭の方角に進めばいいようじゃ。そこに、行けば島の水を若返らせる何かがある。誇り高く、強く、気高く、ちょっぴりお茶目な戦士たちが守っていると聞くが。破壊王なら問題ないじゃろう」


「まあ、それはありがたいですわ」

 マーゴットはパアッと笑顔になる。


「それにしても、さすが破壊王。我が身の若返りを望まぬとは。己のことより島全体の幸せを願うとは。さすが、王であるな」

「いえ、そんな。私、まだ十七歳ですから」


 褒められて照れているマーゴット。十七歳の身で若返ってどうするのかとも思うが。


「無私無欲の心意気。あっぱれなり。ご褒美に、日焼けしてもすぐ元に戻る肌を授けよう、とのことじゃ」

「やったー」

 マーゴットとお世話猫ツァールが同時に両手を上げる。


「姐さんも、そういうとこ女性なんすね」

「日焼けとか、気にするんっすね、姐さん」

「俺は、こんがりキツネ色の姐さんでも、好きっす」


「ホホホ。今はよくても、年をとってからシミになって出てくると聞きますもの。帽子や手袋では限界がありますし。ありがたいですわ」


 神殿に朗らかな笑い声が響いた。


***


 うずまき神殿が笑い声に包まれている頃、居住区の執務室ではマーティンが頭を抱えていた。


「まだ完成もしていないのに、招待状を出すのか? 早すぎないか?」

「営業開始前に、特別な方々にお披露目するのが一般的です。マーゴット王女殿下がいらっしゃるので、王族以上が最低限かと」


「王族以上って、つまり、王族では」

「その通りです」


 ベネディクトの真面目な顔を見て、マーティンはため息を吐く。


「王族の予定は年単位で既に決まっています。早め早めに打診しなければ、どなたにも来ていただけません」

「まだ、いつ営業できるかも見えていないのに」


「それはそれ、ですよ。世界樹を披露するだけで、十分価値はあります」

「確かに」


 すっかり世界樹のある景色が普通になっていたが。世界樹を見たい人は多いはず。


「世界樹のお披露目、ついでにホテルの告知。それでご満足いただけるはずです」

「では、気軽に招待状を送ろう」


 マーティンの顔が明るくなった。


「はい。今回は正式な招待状ですので、礼法に則ったギッチギチです。私が下書きを用意しますので、その通りにお願いします。ぜひ、ぜひぜひお願いします、は封印です」

「分かっている」


 マーティンは少し赤くなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お気軽マーゴット様の豪快アドベンチャーと、居住区組の堅実な進捗の落差と、どっちも着実に進んでる奇妙なバランスが面白すぎます!
[良い点] 日焼けしてもすぐもとに戻る祝福が羨まし過ぎる…!!! 今年の暑さは一瞬日に焼けただけで肌がかぶれたみたいに痒くなりましたからね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ