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2.新天地


 毎日せっせと庭を刈り上げ、ついでにご近所さんの庭も整え。働き者のマーゴットは、教会で楽しくやっている。母もいつも通りおいしいパンを焼いている。


 突然やってきた王族ふたり。最初は遠巻きに見られていた。でも、骨身を惜しまず真面目に働く母娘だ。今ではすっかり打ち解けている。


「リタ様、マーゴット様」いつもはニコニコ顔の司教が、いつになく真剣な声で呼びかけた。

「お手紙が二通届いております。王宮とユグドランド島から」


 リタとマーゴットはまず王宮の手紙から開いた。


「えーっと、教会は民からの寄付金と税金によって運営されているから、追放された王族にいつまでもいられると困りますー。ってことね。はあー、私たち、ちゃんと滞在費払っているのに」


 リタとマーゴット、慎ましく暮らしてきたので、お給金はほとんど手つかずで残っていた。そこからきちんと教会に払っているのだ。王家にグダグダ言われる筋合いはないのだ。マーゴットは怒りで頭に血がのぼる。勢い任せに、二つ目の手紙を開く。


「ふむふむ、あらまあ。ふふふ。母さん、ユグドランド島の領主が、私に来てほしいって。すごく熱心に招待してくださってる」


 出て行けって言われて怒りと悲しさで混乱していたマーゴット。領主からの真摯な手紙に胸が熱くなる。


「ユグドランド島は不毛の地と言われております。聞くところによりますと、魔植物が繁殖して、苦労しているとか。ご領主は誠実なお人柄と聞いておりますよ」

「こんなにまっすぐに私のスキルを求めてくださるなんて。私、行きます!」


 根が単純なマーゴット。いらない子と言われて放り出され、少なからず傷ついていたが、こうして熱烈に自分の力を求められると、嬉しいではないか。それはもう、あらゆる草を刈ってやろう。そんな心意気にもなる。根絶やしだ。


「だったら、他のみんなも連れていこうかしら」


 トムを筆頭とした庭師仲間、無能とクビになった家事スキル持ちの女中たち。きっと誘えば来てくれる。


「ではご領主に聞いてみてはいかがですか? 給料や住居などの問題もあるでしょうし」


 司教に言われ、領主と何度か手紙のやり取りをし、「な、なんとかします。ぜひどうぞ」という、やや心配になる手紙をもらった。マーゴットはすぐさま、トムに会いに行く。優秀な庭師であるトムは、まだ王宮で働いている。


「ユグドランド島に行くことにしたんだけど。トムも一緒に来ない?」

「行く行く」


 軽い。ノリが軽すぎるぞ、トムよ。少なからずドキドキしながら誘ったマーゴット。拍子抜けだ。


「え、本当に大丈夫? 給料とかここより安いと思うけど。領主は、なんとかしますって言ってたけど。ねえ」

「マーゴットがいなくなってからさ、仕事が楽しくないんだ。マーゴットと庭でくだらない話をするのが息抜きだったのに。今は無駄話とか絶対ダメ、許さないって雰囲気。ギスギスしてる」


「そうなんだ。和気あいあい、わちゃわちゃ働くのが楽しかったのにね。そっかあ。だったら他の庭師仲間にも伝えてみてくれない?」

「うん、言っておく。またマーゴットと働けるんだね。楽しみだ」


 トムは屈託なく言う。マーゴットは明るい気持ちで、次に向かった。勝手知ったる王宮。裏道横道、使用人の通路を駆使して女中たちのたまり場にやって来た。偉い人は決して足を踏み入れない倉庫。マーゴットはそーっと中を見て、こっそり忍び込む。


「みんな、久しぶり。元気?」

「マーゴットじゃないの。心配してたんだからね」

「どうなの、教会は。教会の人とうまくやってる?」


「大丈夫。居心地いいし、みんないい人。でもね、色々あってユグドランド島に行くことにしたんだ。不毛の地って呼ばれてるらしいけど。領主は誠実でいい人だよ。もしよければ、みんなも一緒にどうかなーと思って」


 マーゴットは仲間にもみくちゃにされながらも、みんなをきちんと誘った。


「ユグドランド島かー。魚がおいしいよねー」

「猫島じゃなかったっけ? 港に野良猫がたむろしてるらしいよ」

「私、行くわ」


 猫好きがすぐに乗って来た。


「王宮での大部屋暮らし。家賃は安いし、安全だし、職場に近いし。てか職場だし。最高なんだけど。猫飼えないじゃない。私、猫大好きだから」


 ものすごく力説している。猫好き女中はたくさんいたようで、そうねそうね、そうしようかしらと乗り気になる人たち。


「ハズレスキルってクビにされた子たちも行くの?」

「うん、みんなにもう声かけたよ。故郷に帰る子以外は、ほぼみんな行くって」


「そっかー。私も行こうかなー。猫はどうでもいいけど、私、犬派だから。でもさー、なんかさー、王宮の雰囲気がいやなんだよね」

「それ、トムも言ってた」


「やっぱりー。なんだか監視されてる感じがするの。スキルで優劣つけられてさ、点数つけ合ってさ。前はもっと、お互い様だし協力しようって空気だったのに。よーし、私も行くー」


 あれよあれよという間に仲間が増え、離島に向かう船はいっぱいになった。


***


 その頃、離島では領主がてんてこ舞いで大騒ぎをしていた。


「リタ様とマーゴット様と、お仲間の皆さんが一挙にいらっしゃる。部屋は、ベッドは、寝具は、給料はー」

 わー、領主は頭をかきむしった。


「落ち着いてください。マーゴット様の手紙に、日持ちする食料を持っていくし、野菜育てスキル持ちも一緒に行くから、食料は心配しないでください、と書いてあります。」


 領主は涙目で頼れる部下を見る。


「それに、王宮を整えてきたスゴ腕の女中たちが一緒なのです。最低限の準備をしていれば大丈夫でしょう」

「そ、そうか。そうだな。なんとかなる、なるなる」


 領主はやっと落ち着いた。


「とにかく、全力で。できるだけのことをやって、おもてなししよう」


 領主の言葉に、ハラハラしながら見守っていた人々が、はいっと声を出す。善良な領主の下、働けど働けど不毛の地だった、ユグドランド島に、かすかな希望の光がさした。



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