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17. フルーツ食べ比べ


「またベネディクトが酔っぱらってブツブツ言ってますね」

 マーゴットが、グラグラ揺れ動いているベネディクトをおもしろそうに眺める。

 無事に小屋が枝に届いたあと、マーティンの計らいで宴が開かれているのだ。


「まだまだ始まったばかりです。ですが、今日の成功を、皆で祝いましょう」

 マーティンの言葉と共に、振舞われたビールや酒にジュース。獲れたての魚を焼いては食べながら、皆で飲んだくれている。


「明日から、私はまた未開地の伐採に集中しますね」

「よろしくお願いします。残念ながら、私が行くと事態が悪化すると分かりましたので」

 マーティンはすまなそうにマーゴットを見た。



 ベネディクトの努力により、少しずつ島の謎が解けている。

「手っ取り早く、ケセドに聞けばいいじゃない」


 マーティンやベネディクトにとっては、恐れ多い存在であるトレント。マーゴットにとっては、聞いたらなんでも教えてくれそうな木だ。


教えてーと甘えれば、なんでも教えてくれそう。チョロそうと、なめた考えをもっているマーゴット。ところが「もう、これ以上はダメ」と断られた。

トレント、緑の手できっちり口をおさえ、話さないという意思を前面に出している。


「ええー、ケ」チと続けそうになったところを、お世話猫ツァールがモフッと止める。

「ケチではない。そもそも、叡智はこのように垂れ流すものではない。紙を渡したではないか。自力で読み解けばいいのだ」


 マーゴット、頭は悪くないけれど、草刈りの方が好きだ。試しては見たのだが、文字の形がもう、まったく今と違う。古語は習ったけれど、これは古すぎる、無理。マーゴットは早々に投げた。文献を読むのはベネディクトにお任せだ。適材適所である。


 図々しいマーゴットだが、さすがにベネディクトにこれ以上の負荷はかけたくない。激務でいつもお疲れ気味、顔色も悪いベネディクト。そっとしておこう、時間があったら文献読んでね。遠くから願うぐらいしかできない。


「まあとにかく、草刈りをすればいいと思うのよ。だって、まだまだ魔植物がはびこっているもの」


 世界樹ができたおかげで、魔植物は少し落ち着いたように思える。世界樹が島の栄養分を吸収しているのかもしれない。


 とはいえ、夏が来るまでに、耕作地を増やしたい。素敵な果物の木も見つけたい。この島だけの、おいしいジュースがあると売りになる。今までは、気の向くままに草刈りをしてきたマーゴット。明日からは、南の方に向かって刈り進めることになった。最も魔植物が激しそうな方角から攻めてみる。大元から絶とう、そういう方針をベネディクトが立てた。


 いつもの護衛と、お世話猫ツァールを連れて、南へ向かう。何も難しいことはない。マーゴットはいつも通り無心で刈る。素敵な果物があれば、ツァールが種や苗、果実などをどこかにしまっている。


 朝日と共に、荷馬車に乗り、伐採と採集をして、また居住区に戻って来る。ツァールが収穫の成果を披露する。庭師とベネディクトが知識を総動員して、果物を調べる。


「バナナありましたー」

「やったー」

 王都組はバナナを知っているので大喜び。


「バナナジュースとバナナケーキ。ケーキはリタさんが作ってくれたよ」

「ありがと、トム」

 甘くておいしいバナナジュースと、素朴な甘みのバナナケーキで疲れをいやすマーゴット。



「マンゴー、パパイヤ、パイナップルか。すごいね、豊作だ」

「どれもおいしそう」

 単品で飲んだり、混ぜて飲んだり、ジュースを満喫するマーゴット。



 トゲトゲした果物を収穫した日は、騒ぎになった。

「ギャー」

 鼻につく強烈な匂いに、皆が逃げ出す。


「食ベ物だと思えない」

「食べる気がしない」

「ドリアンという果物のようだ。おいしいと書いてあるが」


 ベネディクトが文献を調べて、ぜひ試してみたいと手を挙げる。風通しの良い庭で切ってみる。女性たちは遠くから鼻をつまんで、ベネディクトの反応を待つ。ベネディクトは小さくスプーンですくった。しばらく無表情で食べていたが、首を傾げながら頷いている。


 トムや庭師たちも続いて試し、微妙に頷く。


「私たちも食べてみましょうよ」

 鼻をつまんだまま、近づいて、ひと口。ネットリと甘い。濃厚なチーズのよう。


「おいしいんじゃない」

 マーゴットは感想を言い、途端に顔をしかめた。

「う、おいしいけど。匂いが。やっぱり無理」


「好事家には受けるかもしれないが。普通の人は敬遠しそうだ。ひとまず、ドリアンは栽培しない方向でいきましょうか」

 ベネディクトは結論づける。切ったドリアンの残りは、男性たちが食べ切った。手つかずのドリアンはまたお世話猫ツァールのどこかに収納される。もしかしたら、いつの日か栽培するかもしれないではないか。


「日帰りで行ける距離は刈りつくしたので、これから遠征します」

 マーゴットが宣言すると、大反対された。


「飛んで帰ってくればいいではありませんか」

 皆がチラッとツァールの背中の翼を見る。まだ飛んでいるところは見たことはないけれど。まさか、あんな立派な翼があるのに、飛べないなんてことはあるまい。


「えー、そうなると護衛は置き去り? それとも私とツァールだけで草刈りする?」

「我々は、未開の地に置き去りで結構です。その、翌日また来てくださるのでしたら。ですから、護衛として同行させてください」


 護衛たちは、お払い箱にされそうな流れに必死で食い下がる。いくらすごい猫がいるとはいえ、王女に単身遠征をさせるわけにはいかない。いかないったらいかない。ユグドランド島の良識が疑われ、非常識とますます軽蔑されるだろう。


「バレなければいいのでは」

 マーゴットは言うが、甘い。こういうのはどこからともなく漏れるものだ。

 草は刈らねばならん。護衛は連れていく。そういうわけで、王女と護衛とお世話猫で遠征だ。



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