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14 信仰と友情

 そうして、食後の紅茶を飲んでひと心地ついた後。

 おもむろにメメットが、声音を少し下げてベル様へと話しだした。


「ベル様にはあまりお耳に入れない方がとも思ったのですが、殿下への伝言を兼ねてお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「お兄様に? 分かったわ、伝言役引き受けましょう」

「ありがとうございます」


 少し深刻そうなその様子を、ベル様は興味深そうに見つめている。

 返事にいくらか安堵の表情を浮かべると、メメットは主にわたくしへと顔をむけ口を開く。


「この前の噂、だいぶ広がってるようなの」

「噂?」


 そういえば、願いが叶うという噂があるのだったかしら。


「確か、願いが叶うっていう」

「そうそれ。ちょっと探ってみたんだけど」


 また、危ないことに手を出して。

 無言で視線に非難の気持ちを込めると、メメットはてへ、と可愛く舌を出した。

 可愛ぶっても誤魔化されませんわよ。


「どうやら、他国からやって来た子が、広めてるらしいのよ」

「他国の?」

「うん。グルマト殿下の国ってこの間ちょっとした国内の小競り合いがあったらしいの。内乱になる前に鎮火させたみたいなんだけど……それで難民の人がこちらの国にも来たらしくて。その中に新興宗教を(あつ)く信仰してる人達がいて、こちらでも布教しようとしてるようなのよね」

「まぁ、勝手なことを。この前習ったけれど、うちの国は新興宗教について一律許可をしてませんのに」


 ベル様が目をぱちくりさせつつ、ちょっと呆れた物言いをする。


「それは国からも指導がいってるみたいです、聞く耳がいまいち無いみたいですが」

「そのお話はわかったけど、それとわたくしに何の関係が?」


 わたくしはメメットの話す内容から、いまいち自分に降りかかる理由を見出せなくて尋ねた。

 彼女は少し困った顔をしてわたくしを見る。


「んー? それがさ、布教がかなわない一因として、メルティを目の仇にしつつある連中がいるみたいなのよね」

「えっ?!」

「言いがかりだわ!」

「それがこの学院に限っては、そうでもなかったみたいなんです」


 話によると、来てすぐ布教がかなうと思ったら国の法規によりならず、なら水面化でとまず学生から取り込もうとしたらしい。

 けれど、先人の教えによりそれも遅々として進まず、最近では少し強引にことを進めようとする派閥が出てきたそうだ。


「……もしかしてその先人、とやらがわたくし?」

「ご名答!」

「何もしてないじゃない」

「石像令嬢は伊達じゃないってことよ。結構道を踏み外さないための(しるべ)に、なってるみたいよ?」

「……そういえば、お兄様もメルティは俺の光だ、とか何とかぶつぶつ言ってる期間がありましたわ」


 二人におだてられて、わたくしは何だか面映(おもはゆ)くなる。

 そんなことはない、と言いそうになって……けれどそれは相手から見た場合の事実でもあるから、わたくしはただ気持ちだけの返事をした。


「そう思ってもらえるのは、とても嬉しいことだわ。けど困ったわね、わたくしは対立したいわけではないのだけど」

「そこよね〜、多分クリス様あたりがなんか対策立ててそうだけど。ま、メルティは当面自分の身の回りちょっと気をつけてね。逆上した人って怖いから」


 その言葉に、あのことを思い出して少し身震いする。

 自身の二の腕を両手で掴むそのタイミングで、メメットが背中をぽんぽんとたたいてくれて。

 何だか嬉しくなってしまって、わたくしは思わず彼女に抱きついてしまっていた。


「ちょ、メルティ?」

「あっずるいですわ! わたくしもぎゅってするのです!」


 そこにベル様まで参戦したものだから、メメットは押し倒された形になって「ぐえっ」と声が出たし、わたくしもベル様も「ぶふっ」と吹き出してしまって。

 そうして昼食ははしたなくも三人寝転んでの、笑い声が満ちる和やかな雰囲気で終わったのだった。




 放課後。

 結局クリスはお休みだったわね、と少し寂しくも思いながら廊下を歩く。

 すると空き教室からわたくしの名前が出た気がして、つい、足を止めてしまった。

 そろりと近づき空いている扉影から中を覗くと、男子生徒と女子生徒の二人が見える。


「……だから、お願い」

「そんなこと言われても困りますわ」


 男子生徒は、女子生徒に何か懇願しているらしい。

 よくは見えないけれど、男子の方は異国の顔立ちをしているようだった。


「メルティアーラ嬢だって国の認可も受けていないのにやってるじゃないか。それと同じだよ」

「でも……」

「それに、君の友人ももう入信してるんだ、君も見ただろ?」

「ええ……」

「聞いたよフローラ、君の願い。入信さえすれば必ずや叶う、ね? だから……」


 どうやら、ちょっと危ない話をしているらしく、わたくしは友人の警告に従ってその場をまたゆっくりと離れることにした。

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