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踏み台令嬢はへこたれない  作者: 三屋城 衣智子
第二章

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11 王女と美丈夫

 ドキドキを抱えたままに迎えた朝。

 身支度を整えて学園に行くと、門から入ってすぐのところに人だかりができていた。


 誰かしら、と思っているとその人だかりの中から声がする。


「メルティお姉様。お姉様!」


 わたくしを呼びながら人垣をかき分け現れたのは、見知った人だった。


「王女殿下?!」

「んもう! ベルって呼んでくださいまし。私お姉様には名前で呼んでもらいたいですわ、妹になるのですし」


 少し頬を紅潮させ、もじもじしながら言う様はとてもお可愛らしい。

 思わずふふっと笑ってしまった。


「そうでしたわ。失礼いたしました、ベル様」


 軽く腰を下げつつ(こうべ)をたれる形で挨拶をするわたくしに、「まだ硬いですわっ」だの言いつつも嬉しそうだ。


「今日はどうしてこちらへ?」


 ベル様はまだ、学院に入学するにはまだ年齢が三つほど足りない。

 見学にくるにも早すぎることを不思議に思いながら、わたくしは(たず)ねた。

 すると、ベル様は一瞬固まった後、急に手をパタパタとさせ身振り手振りをしながら話し出した。


「こっ、これは! えっとそのう……。正直に話すけれど、お兄様とわたくしって三つ歳が離れてるでしょう?」

「はい」

「だから、わたくしが入学する頃にはお兄様もお姉様も、卒業なさっているってことに最近気づきましたの……」

「確かに、同じ時期に学び()でお会いすることはできない、ですわね」

「そうなの!」


 同意を受けて、ベル様は両手を自分の胸の前でグーにしながら力説する。


「だから、どうしたって一緒に通えないなら、いる時に見学に来ればいいと思って!」

「そうだったんですの。この事クリスは」

「知ってるわ。というか、お兄様には先に相談したの。お父様には、ちょっと、無理を言っちゃったけれど……」


 言うと彼女の表情はちょっとバツが悪そうになり。

 けれどすっと姿勢を伸ばすと、さすが王族の一員という雰囲気をまとった。


「一週間、見学者としてよろしくお願いします」


 威厳と可愛らしさを兼ね備えた義妹(いもうと)は、お辞儀をした後顔を上げながらちょんと舌を出した。


「お? きれいな声音をした小鳥が(さえず)るのが聞こえたが、なるほど羽色まで美しい」


 そこへグルマト殿下が通りかかった。

 今日はお一人で登院らしく、弟殿下の姿は見えない。


「おはようございます、殿下」

「おはようメルティ。小鳥のお嬢さんも、おはよう」


 今日も絶好調な美丈夫は、自重という言葉を知らないらしい。


 ある種、羨ましくもありますわね。


 そうは思ったけれど、あまり失礼なことをしてもらうのも困ると思ったので、紹介することにした。


「殿下」

「殿下呼びとはつれないな。グルマトとは呼んでくれないのかい?」

「失礼に当たりますので」

「俺が懇願したとしたら?」


 流し目をこちらに向けながら、殿下が圧をかけてくる。

 あくまでも猫科の猛獣がじゃれてきているつもりのようだ。

 わたくしは釘差しを兼ねて返事をした。


「あくまで友人としてそう呼んで欲しいのでしたら、まずはクリスを通してらしてくださいまし。筋を通していただければいかようにも、お呼びいたしますわ」

「束縛男は苦しくなるぞ?」

「わたくしが望んで、いるのです。広大なる籠の中に」


 言いながらつい、クリスの顔が浮かび頬がゆるむ。

 殿下はなぜか息を呑んだようだった。

 不思議に思っていると、ちょんちょんと横から腕を可愛くつつかれる。

 横を見れば、少し不安そうな顔をしたベル様と視線がかちあった。


「そうでしたわ。殿下、話がそれましたけど、紹介してもよろしいでしょうか?」

「そちらの小鳥のことかい? 勿論」

「ありがとうございます。こちらはベル=ウルリアン王女殿下です。今日から一週間、学院の見学に」


 わたくしの紹介に、ベル様は丁寧にスカートの端をつまみ、気品よく頭を下げる。

 クリスの兄妹に驚いたのか、グルマト殿下は直接ベル様に話しかけた。


「これは驚いた、あいつに似ず実に可愛らしいな。俺はグルマト=バルバザード、バルバザード帝国の第五皇子だ、以後お見知り置きを」

「こちらこそよろしくお願いいたしますわ。歓待のおり、気分すぐれずお会いできなくて残念に思っていましたの。今ご挨拶できてわたくしホッといたしました。兄共々仲良くしていただけると嬉しいです」


 ニコッと笑ったベル様は、それはもう愛くるしかった。


「そういうわけですので、ちょっかいもほどほどにしてくださいませね」

「国交断絶されないよう頑張るよ」


 殿下は笑いながらそう言った後、では失礼、とその場を後にした。


「……世の中には、お兄様達以上に綺麗な方がいらっしゃるのね……」


 ベル様の発言にびっくりしながらも、引っかかってはいけないからと言葉を選びながら返事をする。


「確かに、お顔は綺麗ですわね。けれどあちらの文化として一夫多妻制だそうですから。お覚悟がないとお相手は務まらないかと思いますよ」

「あ! ち、違うのよ?! ただ、綺麗だなぁって」


 あたふたとし出したベル様に、思わずというふうに吹き出してしまった。

 わたくしが少しからかったのだと知り、ベル様がぶぅと口を膨らませつつ笑い返してくれる。

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